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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短篇集

白い記憶

作者: まんぼう

今でも忘れない記憶……

わたしが5歳の頃に父親が亡くなった。

強盗に抵抗して殺されたのだ。

あの時の事は今でも鮮明に覚えている……


夏、青空と白い雲が世界を支配していると思わせる季節。

近所の子らは蝉取りや小川での水浴び、草むらでの遊び、

そんな事をしていて遊んでいたと思う夏。

でも、その日はわたしは表には遊びに行けなかった。

何故なら知らない人が家に来ていたから……


その人は手に大きなナイフを持っていた。

もしかしたら庖丁だったかも知れない。

それを振りかざしながら母にタンスを開けさせていた。

父は柱にわたしと一緒に縛られていた。

その知らない人はお金をみんな出させると、自分のカバンにしまい込み

母の服を破いて覆いかぶさった。

「やめろ!」

父の叫ぶ声が今でも耳に残る。


父はなんとか自分で縄を解くと、ことに及んでる強盗の後ろから襲おうとして

逆にナイフで刺されてしまった。

そのまま仰向けに倒れる父、泣き叫ぶわたし、呆然として理解できない母

そして、しらない人は母の中に思いを遂げた。

それから母を縛り上げ、どこかへと去って行った……

全てが終わってから泣き叫ぶ母

でも私は見た、知らない人は白の開襟シャツを着ていて、左の二の腕にアザがあった事を……

そんな事があった夏がまたやって来た。


きっとその後は大変だったと思うのだが記憶に無い。

ポッカリと頭の中で空白となっている。

きっと覚えておきたくないのかも知れないと自分に言い聞かせる。

以外だったのは母が冷静だった事だ。

成長して物事の分別が判って来ると増々母の冷静さに納得が行かなくなる。

どうしてあの時母は声をあげていたのだろう?

どうして縛られた時に上気した顔をしていたのだろう?

わたしは女として、どうしても気になるのだった。


何年かして母は再婚した。

もう物事の判断がつき始めていたわたしは母を祝った。

私も父親が欲しかったからだ。

仮の親子3人の生活が始まった。

でも母に女として子としてある種の違和感を感じる様になる。

段々それはわたしの中で大きくなっていく。


中学3年の時にわたしは母のいない時間に義父に無理やり犯された。

その時ハッキリと思い出し、そして理解した。

白い開襟シャツ、左の二の腕のアザ、

押し倒されている母----自分。

全て判ったのだ。

あの事は義父と母の共謀だったと。

既に義父はあの時母の愛人だったのだ。

自分の夫の前で愛人に犯される事で母は声をあげていたのだと……

わたしは母と同じ様にされながらも冷静でいた。

『母と同じにはならない』

そう思った……


それからも義父はことあるごとに私の体を犯した。

喜びも何もなかったが、やがて目的を見つけた。

その目的の為に義父の荷物から、タンスを開けて、あのナイフを見つけた。

それを、そっと取り出し、自分の机にしまう。

深夜、二人の寝床に向かう、手には手術用の手袋をしてあのナイフを持っている。


あの日と同じ事をわたしはしようとしている。

父を殺した二人を許さない。

優しかった父、何時も何処に行くにも私をおんぶしてくれた。

一緒にお風呂に入って遊んでくれた。

寝るときも昔話を何時もしてくれた。

あの幸せな日々を奪った二人。

許す事は出来ない……そう思った。


寝室の前までそっと忍び足で近づく

襖の向こうで父と母の喘ぎ声が聞こえる。

『今しかない』

そう思った。

襖の敷居に台所から油を持って来てそっと流して襖の開ける音を消す。

襖を引くと音も無く開くので暗い中を覗くと義父が母の上に覆いかぶさっていた。

そこを後ろから近づいて一気に背中からナイフを突き刺した。

「うう!」と言う声も間もなくそのまま母の上に倒れ込んだ。

驚いて跳ね退く母


「あ、あんた、なんて事を……お父さんになんて事を……」

良く母の言った事が理解出来なかった。

こいつは、私の父を殺した男だ。

毎日のようにわたしを慰み者にした男だ。

母は何を言っているのだろう……

ナイフを握りしめ、返り血にまみれたわたしはもう一人の獲物を目指す。

「や、やめて!あんた勘違いしてる!」

母は以外な事を話し始めた。


ある若い女性がある青年と恋に落ちた。

やがて二人は将来を誓い合う。

だが、女性の親は二人の仲を許さなかった。

そして強制的に許嫁を決めて結婚をさせてしまう。

だが、その直後妊娠しているのが判る。

悩んだ末に以前の恋人に告白する。

やがて、いずれは二人は結婚することを約束する。

女性はそれを楽しみに我慢の結婚生活を過ごす。

それは辛い日々だった。

暴力を振るう日々、何かというと昔の男性関係を持ち出しいびる毎日。

唯一の救いは娘を可愛がってくれた事だ。

それは自分の子だと思っていたからだった。

しかし、やがて自分の子ではないと判ると、そのはけ口は女性に向けられた。

自分の命の危険を感じた女性は、昔の恋人に連絡を取り相談する。

そして、強盗に見せかけ夫を亡き者にすると計画を立てる。


わたしは自分の記憶が蘇って来た。

違う!違う!父は私をかわいがっていたんじゃ無い。虐待していたんだと……

一緒にお風呂に入り悪戯されていた過去も思い出す。

一緒に寝てもあちこち体を触られた事を……

どうして、どうして記憶違いが起きたのだろう?

そうして空白の期間があったのだろう?

それよりも、それよりも、実の父と言う義父は実の娘と知ってて私を毎日の様に犯したのか。

わたしから難い男の匂いがしたからなのか……


何もかも判らなくなって来た。

わたしは、わたしは誰の子なんだろう?

何処から来て何処に行くんだろう?

そして、手に持っていたナイフを自分の胸に突き立てた。

夏の夜は静かに更けて行った……





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