混線先の人社会学者
難解だが楽しい人社会学の講義を終え、教授室でうららかな午睡を楽しんでいた私は、人類が進化し、人びとの体躯が六角柱になる昔のSFの一シーンを夢で見ていた。
都市が一つの生命になり、一所に集まって地下資源を喰らい成長するところで、意識から空想の未来は去って、私は目を擦り、着信が外部からと確かめ、営業用の、外面への表情、声色で受話器を上げ耳に当てた。
「もしもし? こちらはブリテン……」
「助けて!」
その訛りの強い言語は、英国風ではない。声の主はまだ幼い、十もいかないくらいの子供の声。受話器を置くわけにはいかなかった。声の背後に戦闘音が混じる。
銃声。そして女子供の悲鳴、牛や山羊や、家畜の断末魔。野卑な男たちの声もする。
「襲われているね? 相手は何人だね?」
「わからない、でも、男はみな戦闘で銃で撃たれて、でも、女の人たちが、母や、妹が」
「ここは警察ではない。混線したらしいな。話を聞こう。君は逃れたのだね?」
「うん」
少年の恐怖のさなかでも強い肯定に、私は気をしっかり持つように言い、安全な場所に隠れていること、決して電話を切らないことを約束させた。そして受話器を持つ方と違うもう一つの手で、メモを用意し、助手を呼び出しながら、警察の知り合いの連絡先を電話帳から捲る。
電話が混線したらしいこと、そして大きな犯罪が行われていること。
それに立ちあうことに私は興奮していた。
「君はどこにいるのかね?」
「厩舎の、奥の小部屋に」
「違う、住所だよ」
「住所?」
「そうだ、どこだ? どこにいる?」
「ここはパルヴァーン―……」
「パルヴァーン? どこだ?」
英国でない?
「―国はどこだね?」
「アフガニスタン」
―ああ、なんだ、そう。
そして銃声、ガットリングか、類する大型火器の咆哮に、訛りの強いつたない声は叫びを上げ、爆音にかき消され、私は受話器を置いた。
悪戯ではないのだろうが―。
少年は吹き飛ばされたのだろう。奇妙な混線は終わり、やがて私は大学の電話交換手に文句を言い付けた後、うららかな陽光が入る教授室での午睡に戻っていった。
すぐに悪夢に入った。




