なぜか着替えました。
服が女物になっていた。ということは幸いなかった。
しかしまだ問題がある。洋服を着替えるには服を脱がなければならない、ということだ。
・・・・・・ええい、しょうがない。男は度胸だ!・・・・・今は女だけど。
身長が縮んでしまったので服がブカブカだがしょうがない。パジャマのボタンを外す。Tシャツとか着ると胸がすけてしまうから、パーカーを着た。やっぱりブカブカだ。だがしょうがない。次、下だ。脱ぐ。パンツも緩くてズボンと同時に脱げそうになってしまった。ジーパンをはいた。緩い。ベルトを付けて・・・・・・よし、できた。
改めて自分の体を見てみる。しかし、貧弱な身体にになったもんだ。着替える時見た腹には肋骨がういていた。貧乳だし。身長は男の時が175cmだったのに今は・・・・・母さんが167㎝と結構女子にしちゃ長身だから、俺はその顎の下ぐらい・・・・・160cmくらいか。
・・・・・・・ほんと、どうしてこうなったんだろうか。
そんなことを考えながらリビングへ向かう、と・・・・・・
「あら。カナちゃん、もう着替えちゃったの」
母さんが祐とケンカしてました。
母さんは包丁を。祐はサバイバルナイフを持っていた。銃刀法違反です。良い子はマネしちゃいけないよ。お母さんに刃物なんて向けちゃいけないからね。もちろん自分の子供にも。
「ごめんなさいね。祐に遺書を書かせようとしたら、ケンカになってしまって。今、聖さんが用意してくれてるんだけど・・・・・」
何の用意かは聞かないようにしよう。
「カナちゃんにディープキスするなんて、万事に値するって言うのに・・・・・」
『ディープキス?あー違うよ、母さん。フレンチの方だったよ、一応』
何勘違いしてんですか母さん。俺と祐がそんなことするわけないでしょう。
「え?そうなの?祐のことだから、てっきりディープの方だと・・・・・」
パシパシと長い睫毛で何度も瞬きする母さん。包丁を持ってるのに、そんな姿も可愛らしいから、美人というのは本当に得だ。いったいどうやって父さんは母さんを捕まえたんだろう。俺と同じ、少し童顔なとこ以外は何の特徴もない顔なのに。
「それじゃあ、アレをすることもないかしら?聖さーん!やっぱりアレは出さなくていいわよー!」
ちょっと、怖いけど。
『大丈夫か、祐』
よくよく見てみれば、祐には切り傷がいくつかあった。とりあえず聞いてみた。
「・・・・・・・あぁ」
どうやら平気らしい、が、眼光がいつもより鋭くなっていて怖い。
「それじゃあ、カナちゃんも着替えたことだし、ご飯にしましょうか」
そういえば、朝飯を食べてなかった。時計を見てみれば、もう昼飯の時間だ。
「お父さんは仕舞わなきゃいけないモノがあるから、先に二人で食べていてね」
『母さんは?』
「私はあとで、聖さんと食べるわ」
ウフ、なんて、ハートマークが付きそうな可愛らしい笑顔で母さんは言った。包丁を持ちながら。うん、いつまでたってもラブラブなのはいいと思います。
昼飯は和食で、ご飯に鮭、それと味噌汁だった。うまい。
しかし静かだ。会話という会話がなくてなんか気まずい。母さん、なぜ押し倒した奴と押し倒された奴の関係の俺たちを二人にした。
『なあ・・・・・・』
「・・・・・・・・・んだよ」
こっちから話しかけてみれば、不機嫌な雰囲気を隠すことなく苛立った低い声で尋ねられた。母さんは父さんの手伝いに行ってしまったから、不機嫌になる原因はもうないはずなのに、なぜまだ怒る。
『いちいちドスの効いた声で受け答えすんなよ・・・・・・。俺たち、これからどうなるんだろうな』
「知るか」
身も蓋もねぇ。
『このまま戻らなかったら、やっぱりちゃんと高校でて会社とか・・・・・・・会社!』
そうだよ!会社とかどうなったんだろう?やっぱり戸籍書とかと同じで、もとからいないことになっているのか。
「親父たちが周りのことを検索してる。その内わかんだろ」
『え、マジで?』
あーよかった。父さんたちの情報網は確かだから安心だ。というか、祐も心が読めるんだよな。えーっと、
「読心術」
そうそう、読心術だ。というか俺ってそんなわかりやすいか。
なんてことやってるうちに飯を食い終わり、母さんが戻ってきた。
「あら、ちょうど食べ終わったのね。そしたら、お出かけしましょうか」
『お出かけ?』
「カナちゃん、下着がないし服もブカブカでしょう?だから買いに行かないと」
確かに、ずっとこのままって訳にもいかないしな・・・・・・・下着?
『下着は・・・・・・小さいし、いらないんじゃないかな』
「ブラだけじゃないわ。パンツだって男物じゃない」
そうだった。トランクスだった。
「ね?買いに行かないと」
『・・・・・・・わかった』
非常に不本意だがしょうがない。
「それじゃあ、祐。財布と通帳を渡しなさい?」
「・・・・・・自分の息子に金をねだるか、クソババア」
「普通、自分の母親に向かってクソババアなんて言うかしら。それにあなた、三等軍曹だったんだから、かなりの額をもらってるはずよ。退職金だって貰ったのだし」
『・・・・・・・ッチ』
舌打ちを一つこぼして、祐は自分の部屋に向かった。
「カナちゃん、大丈夫?」
『なにが?』
「祐になにもされてない?」
『いや、別に何もされてないけど・・・・・・』
「そう。よかったわ。あんな息子だけど許してね。カナちゃんの洋服代とかはあのバカに払わせるから」
どうやら、自分で払おうとしてたのがばれてたらしい。
「カナちゃんは遠慮しすぎなのよ」
それほどでもないと思うが。
祐が戻ってきた。財布と通帳を持って。
「うん。結構あるわね」
母さんが通帳を見た。俺も見てみる。
・・・・・・・・俺は、それを見て目を剥いた。
ぶっちゃけ言うとこの額で、人生がもう一回やり直せると思う。絶対。