なぜか家族が若返ってました。
目を覚まして飛び込んできたのは、自分の部屋の天井。
やった!夢だったんだ!と万歳しながら思ってたのもつかの間。
上げた手の細さやブカブカの寝間着や・・・・・背中の痛さが夢じゃなかったことを物語っていた。
・・・・・・とりあえず父さんたちに相談しよう、と思いながらリビングへ向かった。
カチャっとリビングのドアを開けた、ら・・・・・・・
「このゴミ虫が。何をしてくれてるのかしら?」
「里良さん。落ち着いて」
「これが落ち着いていられる状況なの?聖さん」
母さんが倒れてる祐の背中を踏みつけ、父さんがそれを宥めている状況だった。
まあ、よくあることなのであまり気にしないのだが、この状況での母さんは少し怖いのでそれを宥める父さんはすごいな、と思う。
「ああ、カナ君。起きたんだね」
『・・・・・おはよう。父さん、母さん』
俺に話しかけてくる、父さん。今は話しかけないでほしかった。ああ、母さんがとんでもなくいい笑顔だ。
・・・・・・なんか、二人も若返ってる?
「里良さん、どうやら祐君の話は本当のようだよ」
「本当だわ。かわいいわね。ゴミ虫が発情する気持ちもわかるわ」
いいえ、母さんの方がかわいくて美人です。
「カナちゃんにそんなこと言ってもらえるなんて嬉しいわぁ」
心を読まれるのもいつものことなので気にしない。
『なんで二人とも若返ってんの?』
「・・・・・聞かれることも、聞くこともどうやらたくさんあるみたいね。
そうね、まずは・・・・・・」
「・・・・・なにしやがる、このクソババァ」
起き上がった祐がそう言った。お前、タフだな。
ちょっとビクッてなったが誰も気にしていなかった。
「黙りなさい。ゴミ虫に発言権なんてないのよ。カナ君を押し倒したくせに」
「別に血は繋がってないんだから、大丈夫だろうが!」
たしかに夜斗と俺は血が繋がってない。父さんと母さんは共に再婚で、俺は父さんの連れ子だし、夜斗は母さんの連れ子だ。
というか押し倒されてないし。観察されただけだ。それをまず指摘しろよ、祐。
「別に血なんて関係ないのよ。カナ君を押し倒したことが問題なの・・・・・」
「・・・・・里良さん。当事者は祐君とカナ君だ。里良さんと祐君が言い争っても何も解決しないよ。
とりあえず、家族会議をしよう。押し倒したことも一大事だけど、他にも一大事なことはたくさんあるんだから。カナ君、いいかい?」
『別に、俺は構わないよ。確かに、他にも問題は山ほどあるんだし』
とりあえずテーブルに座った。祐が隣に座ろうとしたときはビクついたが、それに気づいたさりげなく俺の隣に母さんが座った。それに父さんは苦笑し、祐は目つきがさらに鋭くなった。なんでだ。
「にしてもカナ君、かわいくなったねえ」
言葉だけ聞けばちょっと変態見たく聞こえるが、言ってる父さん本人は至極穏やかな顔をしている。
しかし、特にかわいい顔はしていないと思う。どうせだったら・・・・・・
『祐が女になればよかったのに・・・・・・』
きっと祐がなっていたら物凄い美少女になっただろうに。もったいない。なんで平凡顔の俺なんだよ。
「なんねーよ」
ドスの効いた声で言われた。言った本人は俺の方を見ないで、そっぽ向いている。
「とりあえず、カナ君。これを見てほしい」
父さんから、何かの書類が手渡された。・・・・・どうやら、戸籍謄本らしい。
俺が一番最初に目に映したのは、やはり自分の蘭だった。そこにはこう書いてある。
柊 叶輝 15歳 女
・・・・・は、ぁ?
俺は思わず書類から目を外して父さんを見た。
「父さんたちの所も見てごらん」
父さんたちの蘭も見てみる。
柊 聖 42歳 男
柊 里良 38歳 女
柊 祐 15歳 男
・・・・・・・なんだこれ。どうなってんだ。
おかしい。俺は29歳のはずだ。父さんはもう50はとっくに過ぎていたと思う。母さんはわからないが、祐は27歳だし、そうなると母さんは11歳で子供を産んだことになってしまうから、きっと母さんの年齢も変わったんだろう。
「カナ君のように性別までは変わっていなかったんだけど、僕たちも朝起きたら若返っていたんだ。祐君もね。」
「ビックリしたわ。朝起きたらお父さんも私も若返っていたんだもの。後から起きてきた祐も若がっていたし・・・・・・もしかしたら、カナちゃんも、もしかしたらって。それでリビングに来るまで待っていたのだけれどいつまでたっても洗面所から出てこないから祐に見に行ってもらったんだけど・・・・・まさかあんなことになっているなんて」
そう言って祐をジロリと見る母さん。
『この、戸籍書はどうしたの』
「最初はね、私の知り合いにおど・・・・・頼んで、戸籍書を改装しようかと思ったんだけど、聖さんがもっと穏便な方法があるって言って」
よく言ってくれた父さん。
「最初にとりあえず戸籍書を見ておかねば、と思ってね。僕の知り合いに『息子の就職先のために履歴書を書かなければならないから、戸籍書を送ってほしい』と、頼んだんだ。ほら、先週祐君が退職しただろう?祐君は退職金はたくさんもらったけれど、まだまだ若いからね。ちょうどよかったよ」
さすが父さん。
「そうしたら、『お前の所の息子はまだ高校生にもなっていないだろう?』って言われてね。どういうことだと思って知り合いの弱みを言ってファックスで早急に送ってもらったんだ」
結局脅してるよね、父さん。
・・・・・・・父さんたちの丁寧な説明を聞いた後、俺は考えた。
まあ、つまりは・・・・・・・・・
『戸籍とかの心配はないってことだよね』
「そうだよ。改装も大変だからね。ちょうどよかったよ」
「戸籍書とかの改装も大変だものねぇ」
よかったよかった、と一件落着になったと思ってた、のに。
「・・・・・・・・よくねえよ」
祐の低い声に寸止めされた。
『・・・・・・だよね』
「何を言っているのよ。ゴミ虫が。そんなことより次の問題があるわよ。
ゴミ虫にカナちゃんが押し倒された問題よ!」
俺の小さな一言は、母さんの声にかき消された。
「さあ、カナちゃん。こんなゴミ虫に押し倒された時のことを思い出すのも嫌だろうけど、思い出してほしいの。このゴミ虫に何されたの?」
『ウェッ、エ、えーっと・・・・・押し倒された、あと・・・・・キスされて首筋、噛まれた』
いきなり話を振られたので少し詰まった。
「キス?」
父さんが聞いてきた。ちょ、物凄くいい笑顔なんですけど。
「キスされたの?カナちゃん」
『う、うん』
母さんも、それこそ妖精のような笑顔で問いかけてきた。
「聞いてないわよ、祐」
「そんなこと聞いてないんだけどなぁ、祐君」
二人ともものすごくいい笑顔なのに、すごくドスの効いた声で怖い。
祐、すごいよ。お前、問いかけられてる張本人なのに、なんでそんな無表情でいられんだよ。
「カナちゃん、着替えてきなさい。ずっとブカブカの寝間着じゃ寒いでしょう?」
母さんがそう言ってきた。なんか、笑顔なのに威圧感があって、俺は思わず頷いていた。