なぜか女になってました。
目が覚めた。
今、何時くらいだろう?と、ボンヤリしながらすぐそばに置いてある電子時計を見てみる。
8:48。まあ、休みの日は大体こんな日に起きるので別に問題ない。
だがまだ3月。まだまだ寒い季節だから中々起きるに起きられない。
10分ほどボヤーっとしていたが、意を決して起きた。
「・・・・・・・うんっ」
あくびを咬み殺しながら背を伸ばした。
口の中が気持ち悪い。歯、磨きにいこう。
階段を下りる。床が氷のように冷たい。
早く歯を磨いてリビングに直行しよう。あそこ、母さんが朝一で暖房つけてくれるから暖かいんだよな。
にしてもいつもより体がスース―するような気がする。
洗面所についた。手を洗うために袖をまくろうとした・・・・・・が
「・・・・・・あれ?」
なんか、寝間着がブカブカなんだけど。しかも、今の声。なんか高かったような。
なんだ?と思いつつ目の前にある鏡を見た。
女の子が映っていた。目が点になった。
・・・・・この子誰?どちらさま?
あー。寝惚けてんのか。顔を洗って歯を磨こう。うん、そうしよう。
歯を磨く。ミントの香りと歯磨き粉特有の甘さが口いっぱいに広がった。あんまり強くするといけないって言われたけど知ったこっちゃない。次、口を洗う。冷たい。歯がキーンとなる。余談だがうちの洗面所にコップはない。だから水は手で掬う。
次、顔だ顔。なんか知んないけど服が緩いから袖を折った。水が冷たいから洗うときは結構根性が必要だ。うん、根性根性。バシャバシャと水の音がする。ヒゲ・・・・・は休日だからいいか。なんか知らないけど、あんま生えてないみたいだし。タオルで顔をゴシゴシと拭いた。
・・・・・・駄目だ。まだいた。
頬を抓ってみる。痛い。そうだ、聞いたことがあるぞ。左の頬を抓ったら右の頬も抓りなさい、と。反対側の頬を抓ってみる。痛い。ふつーに痛い。
つまり現実ということだ。
ということは、この鏡は鏡じゃなくてガラス板ということか。誰だこんな事をした奴は。向こうにいる女の子にも迷惑だろうが。
すいません、と言いながら鏡に触れてみた。やはり声が高い。風邪でも引いたかな。
向こうも同じ位置に触れてくる。考えることは皆同じというわけか。
失礼なのだが、思わず目の前にいる女の子をジロジロ見てしまった。平凡な顔立ち。少し癖のあるショートカットの髪。痩せた体系。笑えば10人に1人か2人が可愛らしいというような感じの女の子。
女の子は苦笑いをしている。俺もそんな感じの表情をしてると思う。
よくよく見てみれば俺に似てる。だけど俺には血につながった兄弟はいないはずだ。父さんは母さんにべた惚れだし、親戚なんかにはこのくらいの年の子はいないはずだ。
寝間着もよく似たのを着ている。ブカブカだが、そんなにエロくはない。胸もそんなにないし、向こうが何でもないような表情をしてるからだろうか。それよりも同じたい。奇遇ですね。俺もなぜか寝間着がブカブカなんですよ、と。
下を見てみれば少しだが胸にふくらみがあった。あ、柔らかい。だが何の興奮もしない。おかしい。
・・・・・見ちゃだめだ。見たら終わる。何が終わるかと言えばいろいろ終わる。というかいったい何を見るんだと思ったそこの君。どうかそのままでいてほしい。
・・・・・・ちょっと待て。いよいよ混乱してきたぞ。誰に向かって話しかけてんだ、俺は。
「・・・・おい、カナ。てめぇ、いつまで洗面所にいるつもりだ」
『うほぇい!』
いきなり、すごいドスの効いた声が聞こえてきたので思わず変な声が出た。ついでに腰も抜けた。
ちなみにカナとは俺のあだ名だ。本名は柊 叶輝。
だから、誰に説明してるんだ俺は。というか今の声は・・・・・・ん?なんかドアの開く音がしたぞ。
・・・・・え?まさか、入ってくる気か、あいつ。
「いい年してナニ間抜けな声出してやが・・・・・」
声の主は柊 祐。一応、俺の弟だ。
たしかに、この姿を見て驚かない奴はいないだろうな。というか俺って気づいてもらえるかもわからん。と思いながら、固まった祐を見てみる。
相変わらずひどい仏頂面だ。目だけで人、殺せるんじゃないのか。ていうか、実際殺したことあるだろっていうくらいの目つきの悪い目がこっちを見てる。
でも、中学生ぐらいのころは女装させたらミスコンでナンバー1になれる、って噂になったくらい綺麗な顔をしてる。今は長身だし肩幅とかもあるせいで女装なんてできないだろうが、それでも十分顔は整っている。
・・・・・・・・現実逃避まがいの弟の容姿分析はここまでにしとこう。
よくよく見てみれば祐はわずかに目を見開いていた。長年見てきてないと祐の表情は読めない。時折、いや、外ではかなり白々しい表情を見せるが。
まあ、俺らもういい年だし、な・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
『・・・・・お前・・・・・なんか、若くなってないか?』
祐は今年、27歳になる。なのに今目の前にいる祐は・・・・・高校生くらいに見えた。
やっぱり俺、まだ寝惚けてるんじゃないか・・・・・?
「・・・・・カナ、か?」
『質問に答えやがれ、このバカ・・・・』
「なんか言ったか」
ええ、そうです。あなたの兄のカナです。今年、29歳になるはずでした。
なんで兄を呼び捨てにするのか。詳しくはwebで。嘘です。後日話します。
・・・・・・ちがう、違うぞ。敬語になったのは断じて弟が怖いからじゃ・・・・・・
・・・・・いろいろ考えてたら、突然、胸を鷲掴みにされた・・・・・鷲掴み?
『いってぇええ!てめ、なにしやがる!?』
「うるせぇ。胸触られたぐらいでギャーギャー騒いでんじゃねぇ。女かテメェは」
女だよ!って違う!今は女だよ!!というか胸、鷲掴みにされるのってこんな痛いのか!?
『って、うぉい!ボタンを外すな!』
なんてことだ。こいつ、寝間着のボタンを外してきやがった。
身をよじってバタバタと暴れまくったら、手首をひとまとめにされた。ついでに言うと押し倒された。ついでに言うことじゃねえな、こりゃ。もっとついでに言うと背中を打ち付けた。痩せてるからか背骨とかが出ているため痛い。かなり痛い。しかも床だからかなり冷たい。
抵抗もむなしく、乗り上げてきた祐の手が迷いもなく俺のこ、かんを・・・・・・
「ねぇな・・・・・」
『冷静に分析してんじゃねぇ止めろ!!』
パンパンされた!まさかこの年になってパンパンされるなんて誰が思うであろうか。これはあれか。そんなところを触られたら、もうお前の嫁に行くしかないってことか。えっ?もしかして俺、こいつの嫁になるのか!?それだけは嫌だ!
ジタバタ暴れても全くびくともしない。まあ、こいつが力が強いのは周知の事実だ。それに俺、今は女だしな。決して、俺の力が弱いわけじゃないからな。
・・・・・・しょうがない。好きなだけ、観察さしてやろう。少したったら、こいつは女のことには飽きっぽいから飽きるはずだ。それまでガンバレ。オトナな俺。
・・・・・・・・と思ってたのに、
『ぎゃああああ!やめろ!そこだけは、ほんと止めろ!』
なんとこいつ、ズボンを下げようとしてきやがりました。
どこぞの羞恥プレイだ。手首を拘束されてズボンを下げられるなんて。
言ったら言ったで、口をふさがれた。祐の顔が真ん前にある。どうやら、キスされたらしい。・・・・・キスだと?
・・・・・しばらくしたら離れた。そして首筋をかまれた。痛い。あ、なんか泣けてきた。なんかもう、いろいろダメっぽい。このままじゃ気絶するかもしれない。
・・・・・・どうせ気絶するくらいなら・・・・・・三十路間近になってこんなことしたくなかったが・・・・・・俺は息をめいっぱい吸って、叫んだ。
『かあさぁぁぁあああん!!!!助けてぇぇえええええ!!!!!!』
祐を止めることができるのは母さんだけだ。母さん、後は頼んだ。
叫んで酸欠になったためか、頭が痛い。意識が薄れてきたらしい。視界が霞む。
薄れゆく意識の中で、俺が見たのは、祐の俺の上から吹っ飛ぶ姿だった。ざまみろ。
・・・・・・あ、手が痛い。