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――――圧倒的ではないか、我が軍は。そう叫びたい衝動に駆られるのは自分たちが一気に相手を圧しているからだろう。北チームでのまとめ役をしている男はそう確信していた。最初の拮抗状態を見事にこちらに有利な状態になるようぶち壊してくれたあの四脚がいないのは少し気になったが、もはや山を登りきれば相手の基地内まで攻め入ることは容易だ。
【そろそろ、向こうの守備も瓦解が近いんじゃないか?】
【多分、な。こっちもそれなりに落とされそうになってきているが、まだやられた奴はいない。問題無いだろうさ】
【……誰もやられていない、か】
その言葉に男は軽く引っかかるところを覚えるが、今目の前の大きな勝機を逃すわけにはいかない。このまま攻め立てて一気に相手基地の破壊をすることが彼にとっては最優先だ。重い脚を上げて一歩踏み出すと、ブースターを起動。積もった雪を蹴散らすように傾斜の浅い山道を登っていく。
司令塔としての役割をしていた彼が前線へ行くという事だ。その意味は周りにいた人間たちもよくわかっている。ここで勝負を決めに行く――――ということだ。
だが彼らはまだ気づいていない。相手はわざと基地戻りをさせないように相手を完全に倒しきらないことを。そして自分たちの基地に四人の敵が紛れ込んでいることを。
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基地内部を見たままに表現すると、全て機械仕掛けで造られており、木で造られた古式ゆかしいものはどこにもないというところだろうか。TMより少し高いくらいの天井。近づけば開く自動式のゲート。基地全体をエネルギー供給するためかバイパスを繋げるように壁に埋め込まれながらも、緑色のライン状の光が走る通路。更には迎撃用の自動砲塔が様々なところに仕込まれており、これらを避けながら基地耐久に関わる部屋を破壊していく、というのが基地内戦での目的となる。
基地内戦での問題としては、まずレーダーの効果がまったく無いということだ。離れた味方の場所も、通常ならばある程度は曖昧な状態で分かるのだがそれすら出来ない。目視できる範囲がせいぜいの知覚範囲といったところだ。
更には相手機体との戦闘行為のほとんどが徒労に終わることも多い。マシン・アーツにおける撃墜後の復帰ポイントは自チームの基地内からランダムで選ばれる。平たく言ってしまえば一度倒したと思えばすぐ近くで復活することもあり得る。単機で潜入する場合は敵と遭遇しないようにすることが必須とまで言われていた。しかし、今は一人の者は居ない。基地の東側に進んだ《coal》と《MIST》は時おり遭遇する自動砲塔を破壊しつつも慎重に進んでいく。
【……気をつけろ。先ほどは退けられたがあの四脚と自分たちでは相性が悪い】
【分かってるって。それより気になってたんだがその堅苦しい喋り方はどうにかならないのか?】
【生憎とこれで素だ……それより、そろそろじゃないか?】
そう言った矢先に、二機は鈍く光る機械扉の前で立ち止まる。ここが彼らの最初の目標だった。前後の安全を確認してから中に入ると、部屋の中にあるのは一つの小型ジェネレーター。一つで基地内耐久力の一割を占める破壊目標の一つだ。この小型ジェネレーター五つと基地の中心にある大型一つが基地耐久力に関わってくるものである。中央で天井と床に付いた発生器のようなものの間で緑色の穏やかな光を発しているそれを二機で左右から挟むと、床に付いた発生器にむけて同時に攻撃を開始する。程なくしてそれが壊れたことを確認すると彼らは部屋を出た。
【それじゃ、次に行くかね】
特に気負う風もなく、かといって力を抜くわけでもなく極めて自然に《coal》は言う。実は先ほどまでの気取った態度全てが、初めて女性プレイヤーと回線を繋いだことによるテンションの上がりすぎであったことは他の誰も気づいていないのだった。無論いま隣にいる《MIST》もだ。
【ああ、しかしこっちの銃はもう弾切れも近い……とりあえず伝えておくぞ】
残弾数を確認すればあと4発程度しか残っていない。ナイフでもジェネレーター破壊はできるが相性も悪いうえに威力も高くない。さらに《coal》のグレネードの爆発に巻き込まれる可能性もある。どうにも破壊していく速度は下がっていくだろう。
【おう、了解】
【……どうやら、肩の力は抜けてきてるようだな】
理由は分からなくとも、基地に入るまではどこか《coal》の操作が《MIST》にはぎこちないように感じられていた。具体的にどう、というわけではなく今まで見てきた上手いプレイヤーと遜色ない技術を持つことを感じさせるのに、それがどこか一歩遅い。一瞬どこかへ意識が飛んでいるのかと彼は疑っていたが、ここまで来てそれを感じさせることが無くなっていた。
【ん? そんなに分かりやすく力入ってたか、俺】
【いや、分かりやすくはない。多分あいつらは気付きもしていないだろう。だがとにかく、普段通りのプレイができているならいい。理由は聞かん】
【ハハッ、ずいぶんと長いセリフだが、お前には似合ってねえよ】
【お互い様だ】
気の合う、というよりも波長が合う仲間を見つけたと二人は思った。顔は見えないが、機体のカメラを向かい合わせることはできる。示し合わせることもなく顔をお互いに向けると、どちらともなしに笑いだした。
【は、ハッハハッハハハハ!!】
【ッツ、フフフフ……!】
ひとしきり笑った頃、お互いの視界の端で相手の後方に、敵が見えた。怪しい意味は含まないが、彼らに二人の時間を邪魔されたような不快感が走る。
【お前の後ろは任せろ。だから――――】
【――――お前の後ろは任されてやろう】
お互いが射線を譲り合うように並び立って3秒後、基地内で二つの爆発音が響いた。そして彼らの回線には静かながら楽しんでいることのわかる笑いだけがあったのだった。
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【これで、2つ目ッスね】
【ええ。あとは中央の大型ジェネを……壊すのは難しいとしても削るくらいはやりにいきましょう】
たった今、この二人は小型ジェネレーターを破壊した。これで二つ目だ。二人ともそこまで基地攻撃への相性が良いわけでもないために時間が掛かったが、とりあえずは20%は削ることができた。最低限のノルマは達成しているだろう。
【ま、残弾数を見ても10%も削れるかどうか怪しいけどね……】
【分かっていたとはいえ、相性の差ってやつは激しいですからね。ましてや防御力がひときわ高い大型となればそれは苦しいッスけど、それならなんとか《coal》さんを連れて行ければ……】
【ああ、あいつかぁ……】
ふぅ、と《kazari》からため息が出てきた。《NAGUMO》はそういえば、彼女がなぜか《coal》に対してやたらと辛辣であったようなことを思い出す。ちょうど一段落ついたところでもあったためこの際、彼は彼女に聞いてみることにした。
【あの、なんか《kazari》さんって《coal》さんに対してはやたらと厳しい気がするんですけど、理由でもあるんスか?】
【んー?】と、唐突な質問だったからか《kazari》はよくわからずに返したような声を出すと、少し黙ったかに思えたがすぐに今までと変わらないような調子で答えた。一言、うざったいから、と。
【うざいって、そんなに態度が悪かったように見えなかったっスけど。むしろ紳士的に思いましたが?】
【態度が良くても無理してるのがわかっちゃうざいのよ。それに私はもともと上のランクから落ちてきたの。そこまで続けている私を「ただの女の子」扱いなんて、イラついてもしょうがないでしょ?】
【しょうがないって言われても男なもんで生憎分からないっスけど……というか、上のランクだったって初耳なんですが――――】
【理由は、まぁ私の装備を見ればわかるかもしれないけど、ランク維持のためのポイントが足りなかったのよ。支援装備はワンサイドゲームみたいな一方的な状況じゃどっちにいてもあまり変わらないからね……】
あまり聞かないほうがいいのだろうなと、《NAGUMO》はそこで言葉を止めようとしたがあまり気にしていなかったのか彼女は平然と答える。まるでよくあることだと説明しているかのように返す口調だったが本当に気にしていないのかどうかは聞いていてもわからなかったが、彼にも一つわかったことがある。
【その気持ち、分かるような気がします。珍しい装備が珍しい理由って、やっぱりどうしても役立たない状況があるからなんですよね……】
【そう! ほんっとうにそうなのよ! 特にいくら先に壊したほうが勝ちだからって、全員で固まって特攻して運良くたどり着けたら一気にジェネ破壊しあう殴り合いのようなのはホント最悪!! あんたらいったいどうやってここまで来たのかってくらいよ!!!】
同情というよりも共感を覚えた《NAGUMO》が素直にそう伝えると、閉じ込めていた鬱憤が噴出してきたのか、がなるような声で《kazari》が訴えかけてきた。さすがにここまでは同じような感覚を共有できなかったのでどうにかそれを宥めて先を進んでいった。
そこの角を曲がろうというところで、見覚えの無い機体が出てきた。二人はそれを確認すると、即座に把握する。こいつは、敵だ。敵との鉢合わせ時のことを考えられた組み合わせだけに、《NAGUMO》の行動は早い。先行していた彼は通常の移動スピードからブースターを起動し一瞬で最高速となり、接近していく。相手も《NAGUMO》の所持しているパイルバンカーを確認するとその両手に持つサブマシンガンの弾をばら撒きながら後退していくと自分が出てきた曲がり角の影へと戻っていく。
多少の傷程度なら、彼は気にしなかった。そのまま曲がり道に突っ込んで相手の方向へ即座に旋回をしようとしたところに、脳までも揺らすような衝撃がやってくる――――相手が自分の機体を《NAGUMO》の機体にぶつけてきたのだ。このゲームにおける仕様の一つに『移動中の機体同士が衝突した場合、わずかながら行動不能時間が生まれる』というものがある。その行動不能時間にも差があり、ある一定以上の速度を超えた状態で衝突するとその時間が倍以上に延びてしまう。そして今の《NAGUMO》の速度はその一定を超えていた。操作が利かない――――そのことに気付くと少しだけ、彼にも焦りが湧く。
【(これはまずい……かな?)】
視点だけは動かせるようなので相手のほうへ向けてみるとすでに硬直が解けたようで、両手の武器を《NAGUMO》へ向けていた。引き金が引かれ、銃口に激しい光の明滅があらわれるとともに先ほどの大きな衝撃とは違う小刻みな衝撃を感じた。その恐ろしい連射速度と比例するように機体の装甲も目を疑うような速度で削られていく。このままでは危ういところだった。
《NAGUMO》の視点が白に遮られたかと思うと、装甲の減りも止まった。どういうことか――――答えはすぐに出た。目の前の白からの声がそれを彼に教えてくれた。
【まったく……しょうがないから、ちょっとぐらいは手助けしてあげるわ。とどめまではさせないけど】
後ろからでも《kazari》の機体に弾が直撃しているということはわかった。だがそれを続けさせるわけにもいかない。行動不能も解けて《NAGUMO》は前に出ようとするが、それも《kazari》に止められる。
【いいからもうちょっと待つ! お膳立てもあと少しで……終わ、りィ!!】
その言葉のあと、それまで響いていた銃声が消えていた。後は任せる、ということなのか《kazari》が右方向に下がりそれまで塞がれていた視界も開かれた《NAGUMO》の眼に入ってきたのは、両腕を損傷して武装を失くした相手機だった。この状態では逃げ回って修理をしなければ何もできないダルマと同じだ。もちろん《NAGUMO》に逃がすという意思などあるはずもなく、逃げ切ろうにもその相手はブースター持ちの瞬間超加速タイプ。この時点で相手は詰みに近い状況だ。更に言えば衝突で少しの時間を稼ぐにも先ほどに手の一つとして明かしてしまい、逃げ切るまでどころかもう一度通じるかどうかも怪しい。
それでも、このまま逃げるほかの手段は相手に無かった。後ろに旋回して自機の出せる最高速度で通路を駆ける。そのまま相手の追いつけないところへ、そう両腕部を破壊されたプレイヤーは思っていたが背後からアサルトライフルによる銃撃を受け、そのまま機能停止、爆発した。
《NAGUMO》は、衝突による危険を考える必要は無いと中距離からの射撃で倒すことにしていた。背後を見せていた状態から衝突を狙うのは難しいだろうがそれができるかできないかは分からないのだから安全な策をとるのは当然だった。相手の破壊を確認したあと彼は《kazari》に助けてもらったことに対して礼を言う。
【ありがとうございます《kazari》さん。壁になってもらったうえに相手の腕まで破壊してもらって……】
【あーあー気にする必要ないない。あんたがやられたらこっちの攻撃力も下がるし、それを防いだだけよ】
そう、腕が壊されていたのは彼女がそこを重点的に狙って攻撃したからだ。ハンドガンでは相手を行動不能にまで追い込むには火力不足だった。ならば火力のある《NAGUMO》にやらせるのがいいのだが、あいにく今の集中砲火を受けている状態で前に出すのも忍びなく思った《kazari》はせめて攻撃だけでも止めさせるために部位破壊を狙っていたのだ。見事としかいえない正確な狙いで相手の腕を彼女は撃ち抜き、攻撃不能にした。お膳立てやフォローとしては最高の仕上げといえるものだ。
【いや、それにしても撃たれながら相手の腕に正確な射撃を当て続けるなんてなかなか出来ないと思うッスよ。それこそ直接戦闘になかなか出られない支援型でそれができるのは尊敬しますよ】
【そう? とりあえずもっと褒めてくれてもいいんだけど……はやく大型を壊しにいきましょう。今のあいつだってこの中に復活してるはずよ】
《NAGUMO》は残りの作戦時間を見てみると、すでに半分を切っていた。これ以上はあまり雑談する暇も無い。移動用のレバーを握る手に力を込め、頭の中に思い出す地図を頼りに進んでいく。恐らくこれならあと1分もしないうちに大型ジェネレーターのある部屋の入り口にたどり着く、彼はそう確信して道を急ぎ始めた。
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先ほど自分たちを見つけてきた敵を倒した後も《coal》達二人は再び同じ二機の襲撃を受けた。理由は単純で、重量機の脚は重く移動が遅いため移動しようにもそこまで遠くにはいけないのだ。とりあえず彼らはこれ以上小型ジェネレーターを回っても仕方ないと、大型への攻撃をすることに決めた。大型の耐久力、防御性能が少し高くとも高火力装備満載でさらにジェネレーター攻撃に相性のよいものも多い《coal》が全弾撃ち尽くす勢いでいけば大打撃になろう。二人ともそう考えて《MIST》が《coal》の全速に合わせた上での全速力の移動を行っていた。途中に敵と遭遇しなかったのは幸いだった。
【しっかし、結局あの四脚は見当たらなかったな】
【ああ……だが今の自分たちがあれと当たってもどうしようもないだろう。もうこれしか自分は持ってないぞ?】
そういった《MIST》の機体に持たれていたのは鈍く光る銀色のナイフ。代名詞だったスナイパーライフルはついさっきお役ご免だ。攻撃力もそこまで高くなく、せいぜい護身用というか空いたスペースにとりあえず持たせる最軽量武器だが、世の中にはこれ一本で5機落とす天才もいるという逸話が残るほどの潜在性はあるらしい。それも深すぎて10000人中9999人はそんなことはできないだろうという潜在的な可能性だろうというのが《MIST》の見解である。当然ながら《MIST》はできない側の人間だ。
【それに恐らくだが、お前でも今度は集中砲火をする前に接近されてやられるだろう。それだけあの四脚は素早いやつだ】
【速い、か。それなら当然重量機には厳しいな。だが俺たちは重量機だけじゃないだろ? だからあいつと遭遇したら、頼むぜ?】
【……分かっている。それでも最終手段だからあまり使いたくはないがな……】
実はここまでに彼ら二人は四脚に対する策を考えていた。それは《MIST》を壁にして、彼もろとも《coal》が四脚を破壊する、という流れだ。ジェネレーター破壊に一番重要なのは《coal》だからこそ、彼を生かす方向での作戦となっている。《MIST》もそのあたりはきちんと把握しており、だからこそ壁になる事も厭わないのだ。
そうこうしている内に、彼らの前方に大型ジェネレーターがある部屋の入り口が見えてきた。左右の分かれ道からも敵は出てきていない――――が。
【……少し、待て。確認するぞ】
ドア前左右の通路に入らない距離から通路の中心に向けてスモークグレネードを投げる。円筒状のそれは軽い音を立てて転がると両端から白煙を噴出し始める。そしてこの煙の中に《coal》がグレネードを二発撃ち込み、扉に直撃し爆発する。その轟音は、もしも通路に敵がいたなら確実に自分たちの存在に気付くだろう。だが、気付いて煙の中に突っ込んでくるならば、それでいい。《coal》の大火力を煙の中に叩き込むだけだ。そして恐らく、相手は来ない。なにせ煙に突っ込めば確実に蜂の巣にされるということを目の前で示されたのだ。その中に突っ込む馬鹿はいないだろう。これで前準備は完了まで一歩手前だ。
【……それでは確かめてくる。敵が居ないかどうか】
【ああ、任せた。俺はまだやられるわけにはいかないから……すまない】
申し訳なさそうに《coal》は謝ったが、ふっと《MIST》は笑って返してそのまま何も言わずに煙の中へと入る。煙の中は、何も見えない白一色の景色だ。煙の濃さで陰影がつくようなこともあるが、基本的には内からも外からも、互いを見ることはできない。まさに世界から隔絶されたようだ。
その中を左右を警戒しながら《MIST》は進む。何も見えないからこそ、何からも見られないからこそ、この霧の道は確実に死角となる。もしもこの中に誰か入ったと分かるならば、それは類まれな洞察力か、それとも――――
【!!】
勘に優れた、牙を持つ獣のような激しい野生の持ち主のどちらかだ。
霧の中から、鉄を一気に貫いたような激しい音が響いたかと思えば、そこからすぐに火薬の炸裂音が空気を揺らす。そして霧の中から弾き出されるように《MIST》の機体が飛び出してくる。動き一つもしない様子から分かるのは完全に機体は沈黙してるということだ。
【おいおい、ここで出てくんのかよ!?】
そしてもう一つ、ここで出くわしたのは最悪の相手であるということだ。距離、目測にして40mというところだろうか。スモークグレネードから吹き出されていた煙が消えていく。その中から現れるのは、四脚。今《MIST》を打ち抜いた腕のパイルの再装填を行い、《coal》を倒すための時間は着々と迫る。
《coal》が両腕の武器を構えると同時に相手のリロードも終わった。即座に引き金を引く。銃弾の雨と向かってくる弾丸のような一機の四脚が交差する。
弾丸の一発も当たらないわけではない。それでも四脚はグレネード砲だけは確実に避けていた。更にそこから脚部だけで左側の壁に跳躍すると次は天井、左側と四脚特有の壁蹴りのトリッキーな動きが展開される。いくら高さが狭いとはいえ敵が高速で縦横無尽に動き回っては正確な狙いもつけようがない。《coal》のグレネード砲は当たらず、またガトリングも弾の当たる数が減っていった。そして相手は壁を蹴りながらも確かに接近してきている。このままでは自分も打ち抜かれる、そう思い下がろうとした矢先だ。
突然、右の壁に張り付いた状態から四脚が一気に前方に飛び出す。そして《coal》の機体と激しく擦れあった。小さいながら早い振動が彼を襲ってくる。
【ぐぉぉ!】
壁と《coal》の隙間に入り込むように飛び込んできた四脚はそのまま、後ろへと抜ける。《coal》は旋回した状態というわけではなく、完全に四脚へ背を向けていた。致命的なことに、行動不能時間も生まれていて動くことすらままならない。
【やっべえ……!】
なんとか《coal》がその状態から復帰するとすぐに四脚も行動可能に戻る。スピードでは勝てるわけも無く、後ろに攻撃できる武器も無い。諦めが心の内に湧いてくる。そして四脚が《coal》の方へ向き直り、その腕を向けて突撃しようとする。
【あっぶなぁぁぁい!!】
後ろから空を裂くようなヒュゥ、という音を出す何かが近づいてきたと思えば、金属と金属の激しい衝突の音が響いた。《coal》は状況を把握するために後ろを向こうとするが、回線要請がやってきてそこで後ろを向くことを中断した。誰が来たのかがすぐにわかったからだ。要請を受け入れ、声が繋がる。
【すんません《coal》さん! 遅れたッス!】
【それはいい! 今は俺は大型ジェネの部屋に急ぐ! そいつを止めておいてくれ!!】
それだけを言い切ると《coal》は前方の大型ジェネレーターの扉へ向かっていった。その背後では少し吹き飛ばされながらも再度の衝突状態から復帰した四脚は、今衝突してきた《NAGUMO》の方を先に仕留めることにしたのか、そちらへ向き直る。そして《NAGUMO》の後ろから《kazari》も遅れて来た。
【あぁ、こいつやっぱり居たの。とりあえず、後は任せるわよ】
【分かりました、任してください】
《kazari》は二機のほうから距離をとって後ろに下がる。向き合うのは、同じ武器を扱うもの同士。彼我の距離は20m程。どちらから、というわけでもなく同時に突っ込む。お互いに最初に向けているのはバンカーではなく、アサルトライフルとプラズマカノンだ。銃口から放たれる弾丸と、砲口から撃ちだされる青い光の塊。四脚は放たれ続ける銃弾を左右に動き回りながら避ける。《NAGUMO》は壁ギリギリのところで壁に背部を張り付くようにしてプラズマ弾を避けた。後ろの《kazari》にまでは届かないようで、プラズマの爆発が周囲に淡い青の光を放つ。
そして壁に張り付いた状態になった《NAGUMO》を確認すると、四脚はブースターを起動。《NAGUMO》の目の前を風のように通り過ぎて、そのままプラズマの爆発に突入。爆発系の攻撃には敵味方を判断するような機能はない。ゆえに、自分から突っ込むのはわざわざダメージを受けに行くだけの行為のはずだった。だが、今突っ込んだ先には《kazari》がいるのだ。《NAGUMO》も四脚が突っ込んだ後を追って《NAGUMO》もブースターを起動、プラズマの中を一気に突っ切るべく全速力を出す。青い爆風の中は視界が悪いが所詮は数m程度、すぐに外へ出る。
そこでようやく四脚の後ろ姿が見える。奥に居る《kazari》へ腕を振りかぶる姿と、《kazari》が何かを投げつけようとする姿が《NAGUMO》の視界に入った。衝突直前の距離まで近づきあう。四脚の腕が《kazari》の懐へ難なく入り込んでいった。激しい打ち込みの音、吹き飛ばされる《kazari》、そして(・・・)黄色い電気のような光に包まれる四脚。
黄色い光を発するのはスタン系装備のみ。そのスタン系装備の効果は、相手の行動を10秒間不能にすること。移動はもちろん、攻撃もだ。効果を受けてしまえばなすすべなくやられるしかないが、この効果を持つのはスタングレネードとスタンロッドの二つしかない。どちらもよい評価をうけているわけではないために警戒心が弱くなるのだ。特にスタングレネードは通常のグレネードとは見分けがつかない。《kazari》は刺し違えても動きは止めようとしたのだ。
《kazari》を吹き飛ばした体勢から四脚は一歩も動けない。その中で果たして自らがしくじったことを悔しがっているのかは《NAGUMO》にはわからない。だが彼女が作ってくれた好機を逃すことは許されない。操作系を握る手に力がこもり滑りそうになるのを抑えるために、腹から喉を通して自分の昂ぶりを叫びにして外へ吐き出す。
【オォオオォォォォォォォ!!】
突き出された杭が四脚に刺さり、爆発音とともに大きく吹き飛ばされる。その威力のほどは四脚の脚部と上半身が別々になった姿を見れば十分に推し量れよう。その姿を確認したあとに《NAGUMO》は心の中で小さく喜ぶも、すぐに《coal》の後を追って彼が入った部屋に向かう。
扉の前にたどり着きそれを開けると、中に《coal》は居ない。居たのは二機の知らない機体――――敵だけだ。多分《coal》はこの二人に撃墜されたのだろうと《NAGUMO》は把握する。彼は戦闘状況を確認すると、自分たちのチームの基地耐久は80%、相手のチームは60%と共に丁度であることがわかった。有利ではあるが、いくらでもひっくり返されかねない差だ。そして今ではその差を広げようにも彼一人しかいないのでそれを大きくすることはできない。だが、できないとしても彼一人しかいないならば、やることもまた一つしかない。
起動したままのブースターが炎を吐き、中央の大型ジェネレーターに《NAGUMO》はアサルトライフルを撃ちながら近づく。その部屋に居た二機も動き始めた自分たちの敵に向かってそれぞれ攻撃をしてくる。《NAGUMO》は避ける事を考えずにその攻撃は受け続けた。左腕のパイルバンカーを持った腕が吹っ飛ぼうとも、引き金を引くのはやめない。たとえ大型ジェネレーターの至近距離にまでいこうとも退くことはせずに前へ進もうとし続ける。
アサルトライフルの弾が尽きた。そしてカメラにノイズが奔り動きが止まったかと思えば周囲からは熱が襲い掛かる。機能停止からの爆発。爆炎に包まれるもやりきったような笑みが今の戦闘状況を見た《NAGUMO》の口に浮かんだ。
【TEAMA BASE:80% TEAMB BASE:59%】
それは差とも言えないようなすぐにひっくり返される程度のものだ。それでも、1%でも削れたことは今の彼にとってはこの上なくうまくいったというに等しい。小さな喜びを胸に抱えて、潜入した4人組の最後の一人の機体は基地から消えた。
視界が戻ってくればそこはまた基地の中だ。といっても、ここは《NAGUMO》達側の基地である。動くことが可能になったとわかると《NAGUMO》はすぐに基地内で敵を探し回る。人数が少ない分防衛も厳しかったはずだが、そんな状況でも被害が最小限に抑えられているのは味方が相当うまくやっていたのだろうと彼は思い、そして感謝した。自分たちが動き回れたことは彼らが背後で守っていたことが大きいと、本気でそう思っているのだ。残り3分46秒。お礼を言って回りたいところだがそんな暇はない。復活した左手に戻ってきたパイルバンカーを強く握り締めたような感覚で、基地内の敵を掃討するために彼は背中のブースターを起動させて勢いよく飛び出していくのだった。
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『YouTeamwin! 66%-59%』
そう表示された画面を青年はしばらく眺めていると、すぐにメニュー画面へと戻ってしまった。自チーム基地へと戻った後の3~4分間の間は、全て基地内での防衛戦だった。最後の最後の一分で大型ジェネレーターの部屋の防衛線が崩れだしたときは彼も焦ったが、なんとか制限時間内に追い抜かれることはなかった。
思い出すのは4人での行動という初めての経験だ。あれは彼にとって今まででは一番楽しかったことだと本人は思っている。クレジットの残り時間を見てみればまだ一試合ぐらいならできる。本当の協力、というものを経験した青年は清々しく晴れた気持ちで「全国オンラインミッション」を選択するのだった。
はい、これでマシン・アーツ、完結です。拍子抜けでしょうが実はこれ、短編というかここまでしか考えずに書いてました。最後は駆け足の中途半端でカタルシスもなにもありませんが、ひとまずはこれでこの話は幕引き……にしたいんですが!
実は感想の方で序盤だけに~と書かれていたのを見て最初ものすごい申し訳なかったわけです。ですがですね、ここで一度この話を続けるならどうするか?というのを考えてみたわけですね
トリップしかでませんでした、見事に。一応《gregolie》との対立やら四人組再結成とかいろいろ浮かんだんですよ?ただこれを無理やり続けてもしょうがないというのが結論ですね。ネタが無いことは否定しません。
えー、ではもしも次にこれを更新するとしたらその時はゲーム世界トリップ:戦争世界編ですね。タイトルセンスねぇな自分とツッコんだところでそれでは!




