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 ゲーム開始のアナウンスから十秒後には《NAGUMO》の視界が開けてきた。機械があり、外の景色をカメラを通して見るそこは、まさに人型ロボットのコックピットだった。ご丁寧に現実でも握っている左右のレバーとボタンの位置にはちょうど操縦挺やスイッチがあるように見えるが、これはVR機に見せられている虚像だ。真正面には現在機体が向いている方向の景色が見え、少し上を見ればレーダーや小MAPもある。

 唐突だが、VRでもっとも進化したといわれているのはグラフィック面だ。操作性自体も確かに上がってはいるが《マシン・アーツ》ではVR空間に昔のアーケード筐体に付いているような操作系のレバーやボタン等がついており、大きな進化といえるような程ではない。

 特に進化したのは動きの表現だ。風が吹けば砂が飛び、水に飛び込めば飛沫(しぶき)があがる。建造物(オブジェクト)の破壊も現実と遜色はなく、時間とともに移り変わる風景が現実的な映像で映し出されるのは稼動当初にもよく驚嘆されていた。さらに装甲や部位の破壊も取り入れられており腕が壊れれば武器は使用不能に、足が壊れればブースト以外での移動が不能になる。頭が壊れれば当然カメラ故障だ。

 今回の戦場フィールドは雪の積もる地方、基地は小さな山の上にあり、その基地と基地の間には小さな町がある。市街地を確保できれば攻める上では大きなアドバンテージとなるが、それ故にそこでの戦闘は泥沼化しやすく、拮抗した状態で終わることも多々ある。そこで町の東西に大きく迂回するような山沿いの道があり、戦局を動かすならばここを通って奇襲するのが最も良いと言われている。そのため単独行動でここを通る者も多く、鉢合わせすることもある。その時は当然個人の腕での勝負となるが、複数機で組んだうえで向かえば相手を倒す確率も上がる。しかし、そのために市街地の戦力を割けばそれだけ不利となりかねない。更にそこは高所で山の反対側は崖となっており、不注意でも落ちてしまうと物理エンジンの仕様上、大ダメージを受けてしまうのだ。

【とりあえず、俺たちは当然迂回路で攻めていこう。遊「撃」隊なんだからまずは守りよりも攻めることを考えるべきだろ?】

【それは当然だと思うけど、あんたが仕切ってるのはイラつくからちょっと黙って】

【ひでぇ、そりゃあんまり】【回線切ってもいいんだけど?】

 《coal》がその言葉を遮られて不本意ながらも黙った後、それを待っていたかのように《MIST》が口を開いた。

【……俺は左側……西から攻めていきたい】

【そうっすね……確かに《MIST》さんのそれ(・・)を活かすにはそっちのほうが……】

 深い緑のような色をした軽量機(MIST)の装備は左手にスナイパーライフル、格納武器に高周波ナイフとスモークグレネードだ。撃ちきってしまえば、戦闘での活躍は期待できないが補給さえできれば継続的に戦闘ができる。自チームが南側から攻めるので西側――――左方向からなら北の方向を攻めたり、もしくは中央の戦線を援護するなら左手に装備していたほうが進行ルート上で敵に見つかったとき少しはマシだろう。生存確率1%が2%ぐらいにはなる。

 紫色をした重量機(coal)は典型的な火力バカの武装だ。ガトリングを左手に、右手にはグレネードランチャーを装備し、さらに格納武器にはサブマシンガンと完全な殲滅戦用である。弾切れ知らずと言ってもいいほどの装弾数のガトリングガンとサブマシンガンで弾幕の壁を張り、そしてグレネードで一掃するのは基本的な戦法ではあるが凌ぐのは難しい。積極的に前に出てもらうべきだろう。

 そして《NAGUMO》と同じ中量機の《kazari》はどちらかといえば支援機寄り。ハンドガンとスタングレネード、そして背中には重量のある補給用のバックパックだ。本来背中装備はあまり戦闘には役立たない、もしくは補助的なものであり、さらにはその分増える重さがネックになるので使う人間は大半が支援をメインの行動とする。格納しているのはスタンロッド一本と近接用だが、それを活かすのはなかなか厳しいだろう。カラーリングは白を基調としている。

 純粋な時間的火力という面では《coal》が一番だろう。だが、瞬間火力という面ではそうでもなかった。

【……相手の装甲によっては《NAGUMO》のパイルを使ってもらうことになるかもしれない】

【おう、お前のその熱くて太いもので敵をイチコ】【変態黙れ】

 《kazari》の右手から銃声が二回聞こえた。誰かの機体に当たったわけではないが《coal》は反省を促された犬のように黙っていた。まるで次にふざけたらヤバいとでも思っているかのように。

 初期カラーの黒塗りにされている《NAGUMO》の機体の右手に持たれているのはただの威力特化型のアサルトライフルだが左に持っているのは似たような見た目でも、それは銃の皮を被った別物だ。左手に握られているのは結構な大きさの銃剣にも見えるが、その実は「高威力・短射程・少弾数」を売りとしたパイルバンカーである。普通の銃ならば本来銃口である部分の真下につけられた刃の部分で相手を捕らえたあとに銃口の中から半分飛び出している杭を相手に撃ちだし、杭内部の火薬を炸裂させるまさに「一撃必殺」の武器だ。腕部に直接取り付けるものもあるが、威力ならこちらの方がより高い。ただこれを当てるためだけに背中には追加の推進ブースターまで取り付けている。格納武器なんてものはハンドガン程度で十分だとまで彼は思っていた。問題は基地への攻撃力がとてつもなく低いことだけだ。マシン・アーツでは敵機と基地によって攻撃の相性があり、パイルバンカーは敵機には最高の相性なのだが基地には最悪の相性なのである。

 つまり、彼――――《NAGUMO》は一言で表してしまうと「ロマン装備厨」という一種の層の人間であるということだ。威力はあるが使うにはどこか難のある、そんな武器を使って戦い、勝利することが《NAGUMO》のポリシー。これを曲げるのは戦局が最悪の状態になった場合だけだ。

【それじゃあ、そろそろ動きましょう。進行は西側から。相手にデカい一撃をぶつけてやるわよ!】

【……わかった】

【応よ!】

【ウッス!】

 こうして同じ店でプレイしているだけというわりと浅いような奇妙な四人の集まりは自チームの基地から飛び出していくのだった。


++++++++++++++++++++


【ヒャッハァアァ! 死にてぇ奴から前に出ろぉ!!】

【こっから先に通したりなんてするかよぉ!】

 開始から2分、すでに中央の市街地では両チームが激突していた。押し寄せてくる敵と銃弾、それを防ぐ味方と建物。時に爆発するのは榴弾とやられた奴ら。一度やられると10秒後に自チームの基地からの再出撃となるので戻るまで防衛側でも侵攻側でも不利となることは変わりはない。

 そんな中を《gregolie》は素早い銀色の蛇のように動き回る。軽機関銃で味方を援護し、時にはグレネードを投げて積極的に破壊する。チームのほとんどが防衛にも慣れているからか相手を抑える行動をちゃんと選べているのも運がよかった。迅速なフォローの甲斐もあってか一機一機を確実にしとめていき、敵の攻撃もだんだんと大人しくなってきていた。壁役をまとめあげてる味方からの通信を開くと、聞こえる声は弾んでおり随分と調子が良いということが伺える。

【この調子なら、案外早く攻勢に出ることもできるんじゃねぇか?】

【確かにいけそうですけど、声に油断が出てますよ? まだ攻めてるわけじゃないんですから、あまり気を抜かないで……】

【わぁかってるよ。とりあえず今すぐ攻めに……いや、今来てる一機を落としたらすぐに攻めにい】

 ――――声が途切れた。撃墜されると復帰して通信圏内に戻ってくるまで通信ができなくなるのがこのゲームのシステムだが、これはつまり今話していた相手がやられたということ。あれほど余裕をもっていたのだから無傷とはいかないまでも、半分もくらってないはずだ。壁役を任せられるぐらいの防御力の高い味方が一瞬でやられたというのはにわかに信じがたい。それも通信中の話を思い出すとたった一機でやったということだ。《gregolie》は落ち着いて近くにいる他の壁役の味方に話を聞こうとするも、通信不能とだけ表示されているのがほとんどだった。おそらく同じやつにやられたと考えるのが正しいだろう。

 建物が入り組んでいる市街地だからこそ、状況を目で確認することはできない。できるだけ大き目の建物を背にして前と左右に注意しながらその見えない襲撃者を待つ。このままでは戦線が下がることは確実だったがせめて危険な存在は一機でも減らしておくべきだ。《gregolie》のレバーを持つ手にも力が入る。


 程なくして、それは現れた。右側の路地から地面が氷かと錯覚する滑るような動きで《gregolie》へと近づいていくそれは、純粋な人型ではなかった。一つの頭、二つの腕、そして四つの脚。全体的に赤く塗られており細いフォルムに見えるが武器だけは逆のようで、見る限りでは右腕に光学系攻撃で破壊力も高く爆発によって攻撃範囲が広いが重いプラズマカノン、そして左腕には腕部装着型のパイルバンカーが取り付けられていた。見つかって焦ったのかその四足は背中の追加ブースターから噴射炎を吐き出し、高速で一気に距離を詰めようとしてくる。しかしいくら速いといっても狙いさえつけられていれば先手は絶対に取れない。

 《gregolie》は一瞬だけブースターを左側に強く吹かすと、右側へ少しだけ旋回し四脚への照準のブレを直す。そして後ろへ下がりながら構えた軽機関銃の引き金を引いた。連続して放たれる銃弾が四脚の装甲を少しずつ削っていく。四脚はそれなりの傷をもらったが、なおも速度を落とさずに建物の方向へと進んでいき、跳躍。そして壁に(・・)足を蜘蛛のように張り付かせると、もう一度《gregolie》のいる方向へと壁を蹴って跳んでいく。さらにその状態から右腕のプラズマカノンを構えて《gregolie》を狙い、撃った。

 青い光の塊は狙った相手に直撃はしなかったがその手前の地面に当たって爆発した。左右にあった小さな家屋にも余波が広がり半壊状態となった。一度も大破に至っていない分、それなりの手傷を負っていた《gregolie》はほぼ瀕死の状態となり、また突っ込んできながら撃ってきた四脚も前方に生まれた爆風の範囲内に入ってしまい、自分で傷を負ってしまいながらも《gregolie》を跳び越えていった。

 《gregolie》は今の自分の装備を確認する。状況的にも逃げることや任せることはもはやできず、装甲も軽機関銃数発で落とされかねないほどの危険域に入り、自分が持っているそれも数十発しか残っていない。更に言えば恐らくこれで相手を落とそうとするには時間もかかりすぎるだろうし、倒しきれる保証も無い。あるとすれば――――

【残った手段はこれ(・・)だけか……】

 最後に残ったのは、一つの投擲グレネード。これで四脚の装甲を削りきれるかどうかは別だが、今なら相手に一発ぐらいなら叩きこめる。軽機関銃数発を当ててほんの少し削る程度では意味がまるで無いのだ。

 基地戻りするのはどうせ同じだと《gregolie》は覚悟を決めた。相手のいる方向に高速で旋回をし、こちらにプラズマカノンの砲口を向けている四脚の位置を視認。二機の間は5mほど離れていた――――この距離なら十分に当てられる。左腕を大きく振りかぶると、その四脚が向けている砲口(・・)へとグレネードを放り投げた。相手の3mほど前までいったところで、プラズマカノンが発射され、グレネードに当たった。

 青い閃光の中で赤い爆炎が広がり、二機を襲う。グレネードの特性である「攻撃を当てられるとその場で即座に爆発をする」というのが見事にプラズマカノンで成立したからだ。両機ともにクリーンヒットはしなかったが、虫の息だった《gregolie》はプラズマカノンももらって吹き飛び、完全に行動不能になる。相手の状態を辛うじて確認すると、どうやらまだ動くことが出来るようだったが、右肩は吹き飛び煙も上がっている。どう見ても虫の息だ。脅威にはなるまい。

【……どうにも、こっちから攻めるのは難しそうだなぁ。あの4人に頑張ってもらわなきゃダメかもしれないな……】

 そんな言葉を呟いたあと《gregolie》の機体は爆発し、地面の雪は溶け黒く焦げた地面だけが残っていた。


 ++++++++++++++++++++


【…………市街地のほうは結構不味い。パイル持ちの四脚一機に荒らされていたのが見えた】

 崖際に転がってスナイパーライフルを構えていた《MIST》は立ち上がりながら、苦々しそうにそう言ってきた。道を行く途中で市街地での戦闘の事が気になり周囲の安全を確認した上で《MIST》のスナイパーライフルのスコープで見てもらっていたのだ。荒らされていた後のことはどうにもそのパイル持ちの機体を追えなかったために見ることはできなかった。

【向こうの方はまだ攻勢に転じるのは難しいって事か。今は急いだほうがいいな】

【まだ見つかってないッスしね……敵に見つかる前に少しでも進んだほうが】

【……それも無理っぽいわねぇ。道の向こうに二体、装備の区別までは厳しいけど確実に敵がこっちに向かって来てる】

【……マジで?】

 《kazari》の言葉を聞いて他の三人も道の先のほうを見ると、確かに二体のTMがこちらに近づいてるのが見える。向こうからも《NAGUMO》たちが見えているようですでに両手に武器を構えながら、射程に入れるためにかブーストで近づいてきていた。

【まぁ、ここは俺と《NAGUMO》の二人でやるべきだろうな。道幅的にも4人で並んで戦うのは難しいし《MIST》はスナライしか持ってないだろ?】

【……すまない】

 スナイパーライフルは使う際にどうしても両手を使うという仕様になっており、反対の腕にも武器を持つことはできないのだ。なので使う人間は大抵が狙撃専門となる。スコープを覗かないノーロック射撃を使えれば前線でも戦えるが、取り回しも悪く持ち前の射程距離を殺すような愚行と言える。

【いや、気にしないでいいんだぜ? こだわりはいいもんだし、なによりそいつも役立たないものじゃないんだ。今は俺とそこのNAGUMO(ルーキー)が仕事をする場面さ】

 《coal》はそう励ましていたが、どうにも言葉とは裏腹に軽口という雰囲気がにじみ出ていた。恐らく言い慣れていないようなことを言ったからだろう、励まされた《MIST》も少し笑いそうな口調で【……そうだな】とだけ返す。

【キモいわー。励まし方が超絶キモいわー。というかなんでわたしが戦わないってことになってるわけよ?】

【う、うるせえよ! そりゃあ支援機は貴重だからな……特に俺なんかは残弾の切れ目が命の切れ目だ。なにも出来なくなった重量機なんていい的だろう? 温存ぐらいしたくもなる】

【何よそれ。わたしだって戦闘ぐらいできるっての。弾が惜しいならあんたが下がってればいいの、わかった?】

【あー、じゃあこうしよう。俺がまずやつらに牽制をしかける。で、やつらが近づいてきたら俺が片方引き受けるからもう片方を二人で頼むわ】

【りょ、了解ッス】

【ま、それでいいか。よろしくね《NAGUMO》】

 先ほどまで噛み付いていたのはどこにいったのか《NAGUMO》に対しては普通に《kazari》は普通に応対する。それを聞いていた《coal》は【……何で俺だけ】とぼやきながらも道の真ん中に出て両手の武器を構えながら敵が来るのを待つ。《NAGUMO》と《kazari》はその後ろで横に並ぶようにし《MIST》は更に後方に下がる。


 果たして、敵の到来が飛んできた銃弾によって知らされた。

【ヒャッハァァァ! レッツパァァ】

 後ろの3人は《coal》の回線を切った。重量機乗りに多いのがトリガーハッピー気味の人間であるというのは3人ともよく身をもって知っているし《マシン・アーツ》の常識だ。そんなのを聞きながら戦うのは気が散ってうっとうしい。少なくとも耳がイカレルことは無いが、騒音は今も昔も嫌われるものなのでしょうがないのだ。本人もそれには気づかず撃ちまくっていたから気にすることは無いと、3人とも偶然ながら同じことを考えていた。

 地面にグレネード弾が当たり爆発し、更にはガトリングガンから放出される弾丸の雨に突っ込んできた中量機の二機は、共倒れを避けるべく道幅の両端まで分かれて戦おうとする。その狙い通り《coal》は崖際に寄っていった敵へと狙いを定める。そして反対側へと行った敵は自分から狙いを外した《coal》に向けて武器を構えて撃とうとする瞬間。

【させないっての!】

 《kazari》がハンドガンでその敵に攻撃を仕掛けた。居ることは分かっていた二体目の登場に敵は極端に驚くこともなく冷静に少し下がりながら狙いを変えて対応しようとする。背中のバックパックは支援機という証明でもあり、また戦闘能力の限界が低いことの表れでもある。さらによく見ればハンドガンとスタングレネードしかないのだから、正面からの撃ち合いでも絶対に勝てるという慢心が相手に生まれた。その油断が、操縦する手の動きを鈍らせる。

【ここで、ぶち……!】

 《kazari》の背後から突然現れた《NAGUMO》の機体が背部ブースターを展開し、一瞬で相手の懐に肉薄する。支援機の後ろから高速で目の前に接近してきたパイルバンカー持ちの機体に至近距離まで接近されるも、とっさに危険を感じ取り後方へとブーストを使い下がろうとする。だが近づかれていた時点で、最強の武器はそのくいを向けていた。

 剣の部分が人間で言うところの腹部に深く突き刺さり、そのまま宙へ持ち上げられていく。そのままやらせはしないと地に足がつかない状態ながらも両手のサブマシンガンを向けるが――――

【――――こむッ!!】

 コンマにも近い一瞬の差で引き金を引くと、杭は勢いよくあたりにも僅かな衝撃と轟音を撒きながら打ち出された。貫かれた機体は大きくのけぞった後に爆発する。吹き飛んだ一つ一つの装甲板が周囲の地面に転がり呆気なく消えていく。

 快感だった。自分が握っている操縦挺レバーとスイッチだけで相手を倒すことができたということもそうだが、自分が求めていた瞬間は何度体験してもいいものだ。緊張しているわけでもないのに手が汗ばんできていた。

 そして後ろでも爆発音が鳴り響いた。振り返ってみれば煙が少し残っている先に向けて《coal》と《kazari》が銃口を向けていたが、すぐに下ろして話しかけてきた。

【……やっぱりそれって少しオーバーキル気味じゃない?】

【いやぁ、これがいいんですよ! 特にこう、相手を打ちぬいた瞬間なんかに鳴り響く音は最高で……】

【……あんたも大概変態ね】

 聞き捨てならない、と思い《NAGUMO》は反論しようとしたがそれは《coal》からの回線要請に止められた。切っていた事を忘れていたが、特に悪びれる気もなくすぐに要請を承認、回線が開かれる。

【てめぇらなんで俺の通信切ってんだよ!? せっかくの高揚感が台な、あっ《kazari》てめぇまた切りやがったな!】

【いや、通信であんまり叫ばないでくださいよ……けっこう耳にもくるんですから……】

【う……す、すまねぇ……】

 また騒がしくなりそうだったのでとりあえず《coal》にやんわりとした注意をして《NAGUMO》はこの場を収める。《kazari》が【よくやった。グッショブ!】とサムズアップをしてるのが容易に想像できるような声で言っていたがそれは聞かなかったことにした。

【……一応補給はしておいたほうがいいと思うが……】

【まぁ、大量にばら撒いてたからねぇ。しょうがないけど使ってあげますかっ】

 バックパックが開くと、中から飛び出てきたのは機械仕掛けのつづらの様な形をした箱だ。大きさはTMよりも一回りほど小さい。戦った3人はそれに近づくとTMの手で触れる。そして3人の頭に「カンリョウマデ ノコリ10ビョウ」というアナウンスが響いた。

 これは補給装備の携帯用小型弾薬庫というもので、一度しか使えず一つしか持てない上にバックパック装備で増えた重量に更にこの弾薬庫の重みが加わるという、貴重な足枷装備の一つだ。その分全弾きっちり回復できるのが強みであり、半分のみ回復ながら軽量型のものとこちらで人気は二分されている。ここで使うのはもったいないようにも見えるが、基地へ死に戻ればこれの所持数も回復するため今から突っ込む彼らにとっては早いうちに使ったほうが得策だった。

 間もなくそれが終わると辺りを警戒していた《MIST》が特に会話をすることもなく先へ進み始め、後の三人もそれに続いていくように敵の基地へ再度進み始めていた。


 ++++++++++++++++++++


 ――――礼拝堂が、崩落する。どんな神を奉っているのかも分からないがそんなことは彼――――壊した張本人である――――にはまるで関係が無かった。

 今はとにかく、逃げるのだ。左の脚部と右の脚部を使って巧みに建物を蹴って進んでいく。これまで盾に使われたりした一部の建物は蹴りの衝撃で脆くも崩れ去っていった。このままだとすべて更地になりかねない。

 後ろから2機の敵が追ってきていた。先ほど連続で撃破した軽量と中量だ。死に掛けのネズミ一匹になぜ二人がかりで向かってくるのかはなはだ遺憾であった。チャンスがあればこの左腕のパイルを撃ち込みたいところだったが、追加ブースターをさっきのグレネードで相打ちに持ってこうとしたやつとの戦いで壊されていたのが痛い。分断しようにもプラズマカノンも無く落とせるのは精々(せいぜい)片方の一機のみ。どうにも攻めに回れそうにないので今はこうして囮役をしている彼は《neel》。二脚や(この戦いには居ない)タンクとも違う四脚のパイル使いだった。

 奇襲を仕掛けて大多数を撃墜したは良いが、最後に見つけた敵と真っ向から戦う羽目になった結果ボロボロの状態で前線での戦闘とうぼうを行っていた。

【だぁぁぁぁ! 味方がぜんぜん助けにこねー!! あいつらいったいどこで油売ってんだ!? 通信にも出ないしよぉ!!】

 無論その時には下がった敵の防衛ラインを崩すために全力を尽くしていたため中心近くで跳ね回っていた彼を助けられる余裕のある人間は居なかったのだが、通信が誰とも繋がっていなかったために状況を把握できていない彼には知る由もなかった。

【基地まで逃げたいけどそうなると後ろのやつまで案内しちまうしなぁ……いっそのこと一度死ぬか? いやでもなぁ……】

 そうこう悩んでいるうちに、後ろから光線系武器特有の軌跡が飛んでいったのが見えた。実弾系以外にもある事が分かったが結局今の状態では何を食らってもやられるというのは変わらない。

【しょうがない、腹ァ決めるか……!】

 建物を蹴るのをやめ、地面へつくと急速で相手のほうへ向き直る。ブースターは通常装備のものしかないが、一人やれたらそれだけでも御の字だ。相手がこちらへと銃を向けなおす前にブーストで少しでも接近して撃ちぬく。それが今やれるだろう最善の策だ。

 誰も聞いていないのをいいことに、力を入れて叫んだ。

【ウオォォォォォォ!!】




【まぁ、当然こうなるよな……】

 ゲーム開始時に見た景色をもう一度見る。周りに味方は一人もおらず、敵すら来ていないのか新品同様の綺麗さを基地は保っていた。

 瞬殺だった。ライフル一発で呆気なく機能停止しそのまま爆発。いいところが見つからないぐらいしょぼい幕引きだったがこれでプラズマカノンは戻ってきたのだからよしとしよう。叫んでいた恥ずかしさを誤魔化す様に《neel》はそう納得することにした。


 +++++++++++++++++++


【……敵、居なくねぇか?】

 迂回する山道も通り抜け、相手の基地まですぐという距離まで進んできたところで《coal》がボソッと一言呟くように言った。先ほど遭遇した2機以外とは一度も遭遇しないままここまで来れた事が不思議だと全員が思っていたが、運が良いのならその運は最後までうまく利用させてもらうことにした。西側の壁面を唯一の入り口がある南に沿っていくように進んで行き、壁の突き当たりの物陰のところで一時的に作戦会議をする運びとなった。

 基地は簡単に表現すると機械的な壁に囲われている未来的な施設のような姿だ。中心に高い塔が建っているが、これのコアが実に基地耐久力の半分を占めている。後の半分はほかの基地内施設全ての耐久力だ。なので核を複数人で狙うのが常套手段となる。しかし核までたどり着くには入り組んだ基地内部を進んで中心にある核までたどり着かなければならないのだが――――基地の内部というのはどのMAPでもどの陣営でも変わらないものでそこまで迷わないというのが悲しくなる話だった。

【……入り口は正面のみ。だがこれなら気にする必要も無いか……?】

【そうね……ジャマー効果でレーダーがいてないから一応中の確認はしたほうがいいんじゃない? ここは当然わたしが行く。基地破壊には役立たなさそうだしね】

【おう、気をつけろよ】

 《kazari》が先行して基地内部の様子を見に行く。ブーストを切り、できる限り音を立てないようにして入り口近くの壁に張り付きながら中の様子を伺おうとしたその時。

【待ってろよ、おれを落としたあの野郎どもぉ!】

 勢いよく中から飛び出してきたのは、左腕にパイルバンカーをつけた四脚。残念ながら相手の通信を傍聴することはできないので何を目的としていたのかは四人にはわからないが、壁に張り付いていた味方ではない者を見逃すほどその四脚は甘くはなかった。

 ドリフトのような旋廻をして《kazari》に向き直ると、彼女に右腕のプラズマカノンを向ける。

【! まず……】

 そんなあわやというところで《kazari》の右側から速い銃弾が四脚に向かって放たれた。四脚の存在に危険を感じた《MIST》が即座に物陰から飛び出し狙いをつけていたのだ。この間約5秒、狙撃に慣れきった彼にとっては十分な時間があったと言える。撃たれた四脚は突然撃ってきた《MIST》を見つけると先に彼を落とすために一気に距離を詰めようとする。両手装備の機体は何よりとっさの動きが重いのが弱点で、四脚もそれを知らないわけではなかったからだ。

【……後は頼んだぞ】

【おう、了解だ!】

 だが四脚は敵に重量級までもが居ることを想定していなかった。壁の影から一気に飛び出した《coal》はそのまま四脚に対して両手の重火器を撃ちつくす。四脚は避けることもプラズマカノンを撃つこともできずにそのまま沈黙した。

 なお、今回も《coal》が弾をばら撒いていた最中に何を叫んでいたのかは誰も知らなかった。壁から出てきた瞬間に全員すぐに回線を切っていたのは、もはや習性としか言いようがないので誰にも責任は無いということをここに明記しておく。

 今度こそ《NAGUMO》はことが終わったあとに通信を繋ぎなおすことを忘れずにもう一度《coal》との回線を繋ぐ。

【中にいるのはあいつ一人……ですかね?】

【さぁな。だがここで落とした以上そこの四脚も中でリスポン(※復活のこと)してるはずだ。となれば遭遇する可能性だってあるな】

【……だが、数的にもこちらが有利だ。全員出払っているのなら一気に勝てるやも知れない】

 このゲームに基地への短縮移動機能は存在しない。かつてあった似たような作品にはあったらしいが、どうにもリアリティという面でそういったシステムは外されているということだと言われている。防衛というものがより難しくなったが、その分耐久力はかなり上げているのでバランスは取れていると開発者は思っているらしい。

【決まりだな。善は急げっていうことだ、一気に行くぞ】

【いや……一応あの四脚への対策はしておいたほうがいい。四人での集団行動は通路の幅を見ても厳しいし、かといってバラバラになっては一人一人落とされかねない】

 先へ進もうとした《coal》を《MIST》が止める。内部ではこういった通信は至近距離でないと繋がりにくくなり作戦会議をするならばこれが最後の機会だからだ。もう一度ここまで来れるかもしれないが楽観的になって勝てるほどぬるいゲームをした覚えは誰にもなく、全員が《MIST》の話に耳を傾ける

【ふむ……一人じゃなく四人でもなく、それでなおかつ通路内を通れるとなると……二人ぐらいじゃないかしら?】

【ああ。それで考えてみたんだが組むのは自分と《coal》。そして《kazari》と《NAGUMO》がいいと思う】

【なるほど、いいんじゃないか? 要するにあいつを倒せる大火力を生かす組み合わせってわけだ。すまねえがよろしく頼むぜ《MIST》】

【……任せろ、さっき助けてもらったからな】

 今にも握手をしそうな勢いで話しあう《coal》と《MIST》はどこにも問題は無さそうだった。本人達の相性も悪くはないだろうし、なにより二人とも充分に上手い。《MIST》はとっさに狙いをつけて撃つまでが早く《coal》もただただばら撒くのではなく、きちんと相手を抑えられるように狙いをつけることができる。《NAGUMO》はそんな二人と自分をつい比べてしまう。自分は接近戦を仕掛けることばかりに注力していたからか狙いをつけるのは甘い。得意なことを期待された以上にやるのが一番ではあるが自分にできないことをできる人間というのはどうしても羨ましく感じてしまう。

【……聞いてるー? 《NAGUMO》が倒しちゃうのが一番手っ取り早いんだから、あいつが出てきたらしっかりやってよねー】

【……聞こえてます。ちょっと考えごとをしてただけですよ】

【そう? じゃ、ここから先のエスコートはよろしくね】

【お任せくださいお嬢様……これで満足ですか?】

【よろしいよろしい、冗談に付き合えるんなら特に言うことも無しってもんよ】

 いきなり飛び出してきたジョークとその後の言葉の口調がおかしくて《NAGUMO》は軽く笑う。それに釣られたかのように《kazari》も笑いだした。遠くでそれを聞いていた《coal》が「恋人みたいで妬ましいんだがあれどう思うよぐぎぎ」と《MIST》に聞いていたが「……ノーコメント」と苦笑いをしながら返していた。

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