昨夜の出来事
生きてる事が不安になった。どうする事も出来なくて、夜中の街を徘徊した。
寒空の中、短パンにTシャツ一枚で徘徊していた。寒さの中に生を実感したが、それと同時に生の放棄が自分の中にあった。
行く宛もなく、ただブラブラと歩いて、静かな公園で寒さの中に、我が身を投じそのまま夜空を見上げて眠ろうかと思った。
もう、どうしようもなかった。生の意味を理解出来ず、生の価値を理解出来ず、生の必要性を理解出来なかった。同時に死の意味を理解出来ず、死の価値を理解出来ず、死の必要性も理解出来なかった。
寒空の公園のベンチで浮浪者と出会った。意味などなかったが、浮浪者が、ムクッと起き上がってこちらを見ていたので話し掛けた。
「寒くないですか?」
「寒いよ。でも、君の方が寒そうだ」
「生きてる意味が分からなくなってね。徘徊してるんです」
「お金は?」
「無いことはありませんよ」
「お金が無くても、生きているけどね」
「生の価値を見出だせなくて……」
「なんだか、死にそうだな」
「死ねたら、楽そうですね」
「先ずは、生きてごらん?」
そこまで話して、目の中に熱く込み上げる物を感じ、
「どうもお邪魔しました。おやすみなさい」
とだけ言って、会釈した後、浮浪者の元を立ち去った。
浮浪者の年齢は50過ぎというところだろうか。
生きてる意味は分からなかったけど、懸命に生きようとする姿に、姿勢に、思いに、自分自身が恥ずかしくなった。
しかし、ブラブラと歩いた為に帰る道が分からなかった。手足は冷え、かじかんで、手の指先から足の指先まで、もう感覚がなかった。
吐き気がし、胃液を何度も嘔吐した。歩き続けて、家にたどり着いた時にはもう、歩く気力どころか、物事を考える事も出来なかった。
布団に入り、冷えた身体を温めながら、自分の愚かさに涙が止まらなくなった。
そして、そのまま泣き疲れるように眠りについた。
未だに、生きてる意味も、生きてる価値も、生きてる必要性も理解出来ないが、まだ死ぬ時ではない気がした。死の意味も、死の価値も、死の必要性も分からない。
でも、先ずは生きること、そう浮浪者に教えられた。そんな夜中の出来事。
未だに、生きていく意味は分からないけど……。