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転校生の正体と奇妙な世界の面々

「は?シニガミ?」

「そのとーり。死の神と書いて死神、お分かり?」

 当然のように話されても困る。

「すいません、それを信じろと?」

 当然の反応。

「お前だって分かってるだろ?お前は死にかけた。それで、俺が力を使って助けた」

 当然の事実だとは認められない様子の守園。

「だって、この世に神なんている訳がいる訳が無いじゃない」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ、非科学的というか・・・」

 子供をあやすように夜月は話す。

「科学ってのは、理解不能な事を解き明かすためにあんだよ。非科学的だからってのは存在を否定する理由にはならない」

「・・・じゃあ証拠は?何かある?」

 夜月はあごに手を当てて、ふむ、と考える。

「お前が生きてるって事は証拠にならないか?」

「全部夢かも知れないじゃん」

「んじゃ・・・、俺の家来いよ。証拠を見せてやる」

 夜月はにやっと笑った。


 着替えた守園が夜月の家に行くと、いきなり証拠に出迎えられた。

「いやぁ、旦那が女連れ込むなんて珍しい」

 四角いテーブルを挟むように夜月、守園が座っている。そして、守園の右隣、夜月から見て左隣に朝見かけた黒犬が行儀よく座っている。

 クーラーが適度に効いており、夜月は快適な気分になっていたが、反して守園は苛立を消せずにいた。

「それにしたって旦那は前例がない事をやるのが趣味なんですかい?いつもいつも、その後始末にどんだけ労力がいると思ってんですかい」

 夜月は申し訳なさそうに頭をかく。

「いや、俺だってやめようとは思ってんだよ。しかしだな、仮にも神が人殺しなんてカッコつかねえだろ」

「死神が何を偉そうに」

 守園がわなわなと肩を震わせているのに気づいた夜月が声をかける。

「どした〜?なんかものすごく怒っているような」

「そりゃ、いきなり男の家に連れ込まれちゃ怒りやすよ」

「いやいや、連れ込んだとかじゃなくて」

 会話に、ついにかんしゃくを起こした守園が割り込む。

「ストーーーーーーーップ!!」

 説明をしようとする夜月の声に守園の声が割り込む。

 守園はビシッ!と犬を指差し、

「なんで犬が喋ってんのよーー!?」と喚いた。

「喋れるからに決まってやすぜ」

平然と答える、犬。その犬を夜月もビシッと指差して、

「はい、証拠」と言った。

 森園は犬の体をあさったが、テープレコーダも何も出てこなかった。

「とりあえず、自己紹介しやす。アッシは冥府の番犬、ケルベロスでございやす」

「・・・ハァ?」

 あきれたように守園が首を振る。

「ケルベロスって3つ首無かったっけ?」

「逆に聞くけど、3つ首ある奴が歩いてたらビビるだろ」

 む、と守園は黙ってしまう。

「はぁ、なんかもう現実味(リアリティ)無さ過ぎ」

「バーカ。現実(リアル)現実味(リアリティ)なんか求めてどうすんだよ」

「・・・確かに。」

 そういってから守園は大きくため息をついた。

「わかった。認める。よくわかんないけど」

 それを聞いて、夜月は意外な顔をする。

「受け入れるの速いなー、お前」

「夜月君が言ったんじゃん」

 夜月が昔を懐かしむように上を向く。

「俺は1年と半年かかったからなー」

「それは時間かかり過ぎでしょ」

「だってさ、『世界の命運アンタにかかってるからよろしく〜』って言われたんだぞ」

 ずいぶんと適当な告知である。

 そういえば、と守園は首を傾げる。

「悪魔って何するの?イメージとしては魂の取引とかなんだけど」

守園の疑問に夜月は首を振る。

「んな事ぁあんましねえよ。大体、悪魔なんて今時信じてんのか?」

「いや、私がそうなんでしょ」

 呆れたので、立ち上がって家に帰ろうとする守園。

「ああっ!ちょっとお待ちください。決してお時間かかりませんので」

 必死に守園の行く手を夜月が阻む。

「ちょろっと報告に行かねばならんのですよ」

「何を?何処に?」

「新入りの悪魔のことを、神の世界に」

「・・・、神の世界って、どうやって行くの?」

「俺が扉を開ける。それだけ」

 そういうと夜月は自分の目の前に手をかざした。

「ひらけ、ゴマ!」

 ふざけた台詞が放たれると、目の前に扉が音も無く存在した。

「え?なに、どうやったの?」

「まあまあ。細かい事は気にしない」

 笑いながら、夜月は扉を開けた。

「行ってらっしゃーい」

後ろで犬が言うのが聞こえた。



「えっと、またここ?」

 守園がそういうのも無理は無いだろう。なんせ、扉の向こうは、先ほど見た真っ白な世界だったからだ。

 しかし、先ほどと違う点は、異常なほどの数の扉が存在している事。そして、その扉の一つ一つが、大きさも形もバラバラである事だ。

「せーんせーい。質問でーす」

 守園がしゃきっと手を挙げながら言う。

「はい守園さん」

夜月が指で守園を指す。

「ウザいくらい扉がありますけど、何?」

「それはな、・・・」

「それは?」

「よく分かってません!」

開き直った夜月に対し、守園は、ええー、と言いたげな顔をする。

「しゃーねえじゃん。まず開かねえし」

「ええー」

結局言った。

「ヒャハハ、分かってんのもあるけどなぁ」

「あ、そうなんですか?」

「例えば、そこの真っ白の奴の向こうは只こっちを見てるだけだからねぇ。通称『覗き穴』」

「ええー。気持ち悪い」

「はーい、そこ。知らない人に会話のペース持っていかれるな」

 夜月がたまらずツッコミを入れる。

「ヒャハハ。まあまあ、死神殿。女つれてるなんて珍しいじゃないか」

 突然現れたその男は全く悪びれる様子もなく喋っている。

 その男は、褐色の肌にボロボロの布をまとっていた。目は赤く、髪は砂漠のように乾いていた。

「で、どちら様?」

 男は自重気味に笑いながら自己紹介した。

「ヒャハハハハ。俺様はロキ。ずる賢さの神であり、最高にして最低のトリックスターだ」

 夜月がやれやれと肩を落とす。

「でさぁ、俺がわざわざこっち来た用件なんだが」

夜月の説明に先回りし、ロキが語る。

「その女を殺しちまったから生き返らせるために悪魔にした。そんなとこだろう?」

実に楽し気な口調だった。

「お前どっかで見てんのか?まあ良い。後何人かに言うつもりだけど」

「・・・それならとりあえず・・・」

 ロキは夜月の後ろをさし、

「後方注意だねぇ」


「死ねえええええ!死神ぃぃいいいいい!」


怒号が鳴り響いた。

「おわっとぉぉおおお!?」

 夜月があわてて横へ飛ぶと、さっきいた場所を5メートルを優に超す巨大な剣が振り下ろされた。

「ちっ、外したか」

 突然襲いかかってきた男が剣を構え直すと、剣は普通の大きさーーといっても2メートル強ほどだがーーに縮んだ。

「おいおい、危ねえじゃねえか。死んだらどうしてくれんですかぁ?」

 夜月がおどけた口調に怒りを混ぜて話す。

「あのさぁ、本気でやるんだったら結界張りたいからちょっと待て」

 ロキがため息をはきながらつかれた調子で告げる。

「ふん、良かろう」

男が鼻を鳴らして答える。男の出で立ちは、血のように真っ赤な鎧をつけているだけだった。

 そう聞くとロキは、黒いチョークを取り出し、それで守園と自分を囲むように円を書いた。

「これで良っし、と」

 その間に、夜月はゴソゴソとマントの中を漁り、少し大きめのビー玉のような物を取り出した。それを手の中でもてあそぶと、夜月の手に大剣が現れた。

「え?なになに?」

「まあ見てな。絶対この円からでないように、死ぬから」

 守園にロキが注意している間に、二人の剣士はじりじりと間合いを計っていた。

「はあああああっ!」

 二人の足下が爆ぜる。

「な、何やってんの。あの人たち」

「んー、じゃれ合い?」

 神のじゃれ合いは剣がぶつかる衝撃波で地面がえぐれるらしい。

「おらおらおらあ!」

「甘いつってんだよお!」

 大きなガン!という音で二人の剣士は一気に距離を取った。

「覚悟しろ、死神ィ!」

「吹っ飛ばしてやんよ」

 鎧の男は剣を構え直すと、「ハァァアアッ!」とか言って気合いをため始めた。

「すみませーん。何かどす黒いオーラが見えます」

 守園が言うと、ロキは感心した声を出した。

「また新しい必殺技かねえ。さてさて、死神殿はどう出るか」

 夜月は相手の様子を見て、

 剣をぶん投げた。

「おわぁあああっ!?」

 鎧の男があわててかわすと、目の前に影絵の狐のような構えの指、つまりはデコピンをしようとする夜月の手があった。

「ぶっ飛べ!」

「はぁぁああああああああああぁぁぁ・・・・・!?」

 結果、鎧の男はどんなに守園が目を凝らしても見えなくなってしまった。

 ロキが手を叩きながら夜月に歩み寄る。

「これで9連勝だっけ?」

 剣を拾いながら答える。

「10連勝だ」

「ていうか、必殺技のため時間に攻撃、ってのは反則じゃないかなぁ」

「敵の目の前でやる方が悪ィ」

二人に守園が駆け寄る。

「何だったの、今のって」

「気にしたら負けってことで」

 ロキが鎧の男が飛ばされた方向を向いて、目を細めた。

 夜月がその方向を見ると、さっきの男が猛スピードで突進してくるところだった。

「主人公の変身中と必殺技のため時間は攻撃するなと習わなかったかァああ!!」

 こいつは一回叩きのめした方が良いな。

 そう夜月が確信した時、新たな声が天から届いた。

「やっ、やめて下さぁぁああああああああああいッ!!」

 二人の動きが止まる。

 守園が声のした方を見ると、そこには空に浮かんでいる5歳ほどの少年がいた。

「え!?」

 守園が驚愕したのは、少年が浮かんでいる、と言う事ではなく、その姿だった。

 少年は、幼いが故に男女の区別が付き難く、真っ白な布に身を包み、金色の髪と瞳、そして、背中に大きな翼を生やしていた。

 科学的に考えれば絶対にあり得ないその姿だが、そんな常識など知らん顔で少年は翼をはためかせている。

「なんだ、貴様か」

 男がつまらなそうに舌打ちをし、夜月の胸元までのびていた剣を腰に差している鞘に収める。

「ああ、お前かよ」

夜月は小動物を愛でるように微笑み、男の喉を突いていた剣を一振りし、元の黒い球に戻す。

「けんかはダメですよぅ」

 少年はゆっくりと守園の前に降り立つ。

「えっと・・・お客さん・・・ですか?」

少年が首を傾げながら尋ねる。

「俺のクラスメイト兼新入り悪魔」

守園の代わりに夜月が答える。

「あ、そうなんですかぁ。あ!自己紹介しますね、うん」

 少年はこほんと咳払いした。

「ボク、ルシファーっていいます。天使です!これからよろしくお願いしますねっ」

ニコニコと笑いながら守園に握手を求めた。

「私は守園飛鳥。よろしくね、ルシファー君」

守園も微笑みながら握手をする。

「つーか、お前も名乗れ」

 夜月が鎧の男の兜をたたく。

 男は忌々し気に舌打ちをし、イライラした調子で名乗った。

「我はアレス。戦神だ」

「はいはい、良く出来ました。おいルシファー殿、わざわざお前が来たってことは、何かあるんじゃねえのか?」

 ロキがルシファーのあたまをクシャクシャと撫でながら言う。

「あ!そうでした!えっとえっと、ハデス様!ゼウス様から伝言です」

「ハデス様?」

 守園が知らない単語に首を傾げると、ロキが「死神殿の事さ」と耳打ちしてくれた。ゼウスなら守園も知っている。ギリシャ神話に出でくる雷を使う神だ。

「『目をつむっておいてやろう』との事です」

それを聞いて、夜月は苦笑いしながら空を見上げた。

「あのジジィは何でもお見通しかぁ?」

 ふと、ルシファーが守園に話しかけた。

「あ、あの・・・質問があるんですけど・・・」

 少し後ろめたいような顔を見せるルシファーに、守園は優しく笑いかける。

「何?何でも聞いていいよ?」

それを聞いたるしファーは急に顔を輝かせ、背伸びをして顔を守園に近づける。その様子を見た守園は、やっぱり子供は可愛いなあ、と思ったが、

「ハデス様の彼女さんですかっ?」

即、顔を引きつらせた。守園はどうすれば少年の気分を害さない返答になるかを考えたが、

「なーに言ってんだお前は」

夜月がぽこんとルシファーの頭をたたいたので必要なくなった。

「あうー。何するんですかー」

ルシファーが頭を両手でさすりながら夜月に突っかかる。それでもニコニコしているところを見ると、それほど怒ってもいないようだ。

「何するんですかー、じゃねえよ。こいつ好きな奴いるんだぞー」

「!?」

ニヤニヤしながらさらっと大変なことを言った夜月を、守園はボカリと殴った。

「いってえ!」

夜月が頭を抱えてうずくまる。

 その様子を見ていたアレスが、呆れた様子で言う。

「惚れた男がいるのなら、さっさと接吻でも何でもすれば良かろう」

 完全に不意打ちだった守園は盛大に吹いてしまった。

「何言ってんだお前はぁ!」

 飛び上がった夜月がアレスの頭に回し蹴りを放つ。アレスのこめかみに、夜月のつま先がのめり込む。

「ぶっ飛べ!」

   アレスさんがログアウトしました

「ふう、あのバカは全く」

 夜月はうまくバランスを取って地面に立つと、がっくりと肩を落とした。

「あんまり乱暴しちゃ駄目ですよう。お馬鹿さんになっちゃいます」

 ルシファーが内容とは裏腹にあまり心配していない声で言う。

「アレス殿は元々大バカだからねえ」

ロキが完全に見下した声を出す。

「はぁ、俺、もう帰るわ。疲れた」

「ええー、もう帰っちゃうんですかあ」

 そう言うルシファーの声は、アレスがぶっ飛ばされたときよりも格段に残念そうだった。

 夜月はその声も無視して、掌を前に突き出した。

 すると、先ほど彼らが通った扉が音も無く出現した。

 それを見て、守園はある事に気づく。

「ねえねえ、「ひらけ、ゴマ!」って言わなくていいの?」

「ああ、あれ?気分」

 あっけからんと言い放つ夜月に、守園は大きくため息をつく。

「それじゃ」

 そういって扉を開けようとする夜月に、ロキが突然肩をまわしてきた。

 そのままロキは体重をかけ前にかがむ格好になり、夜月と背の高さを合わせる。

「何だよ」

 夜月が少しイライラした顔を作る。

 対するロキは、さっきまでのニヤニヤした表情を消し、真面目な顔をする。

「いやー?気づいてるとは思うんだけどさぁ、まぁ、念のために言っとくよ」

 そしてロキはルシファーと話をしている守園をちらりと見て、夜月だけに聞こえる声で、告げる。


「あの女、お前が死んだとしたら、死ぬぞ」


 夜月は、苦虫をかみつぶしたような顔になり、小さく舌打ちをする。

「分かってるよ、・・・畜生め」

 自分の生命に関する話が行われている事も知らずに、守園は楽しそうにルシファーと話している。

「ならいいんだけどねえ」

 ロキはいつものニヤニヤ顔に戻り、夜月から離れる。

「じゃあね、ルシファー君」

「また来て下さいね、守園様」

 会話を終えた守園がロキと入れ替わるように夜月の隣に立つ。

「どうしたの、怖い顔して」

心配そうな顔で夜月のうつむいている顔を下から見上げて、守園が言った。その守園の顔を見た夜月は、

「何でもねぇよ」

とだけ言って取っ手をつかむ手に力を入れる。

「お体にお気をつけて」

「死神に言ってもねえ」

 夜月は、二人を一度だけ振り向いて「またな」と言った。

「んじゃ、帰りますか」

「うん」

 夜月は取っ手を引き、一歩、前に踏み出した。



「お帰りなせえ。つったっても、こっちじゃ一秒たりとも進んじゃいねえんですが」

 守園がまず目にした物は、先ほどの姿勢のまま相変わらず喋っている黒犬の姿だった。

 守園がケルベロスの言葉に首を傾げ、壁にかかっている時計を見ると、なるほど針は進んでいないような気もする。

「え?なんでなんで?」

 質問された夜月は、うーんと唸りながら頭をかく。

「俺にもよく分からんけど、どうもあの空間は『時の狭間』に存在してるらしい」

「???」

 そんな説明で一般人が理解できる訳も無いので、夜月は続ける。

「なんか、『此の世』ってのは限りなく無限に近い数の写真のパラパラ漫画みたいになってるらしい。そいで、その写真と写真の間には限りなく零に近い隙間があって、あの空間はそこにあって・・・聞いてる?」

「ごめん無理」

身振り手振りを交えて一生懸命、夜月は説明していたが、守園は『パラパラ漫画みたいに〜』のところからそっぽを向いていた。

 自分でも理解できていない事の説明をさせられていた夜月は、その必要がなくなったので少し安心する。

「で?他に質問は?」

 守園はふむと考え、

「そもそもさ、『神』って何?」

 夜月は逆に少し首を傾げる。

「何って言われてもなあ」

 言いよどむ夜月を守園は指差して、自分の言いたい具体的なことを言った。

「じゃあさ、夜月君は人間?それとも神様?」

「んー、それに答えるにはちょっと時間がかかるな」

 長くなりそうなので、守園と夜月は四角いテーブルを挟んで座る。

「とりあえず、あの扉の事は分かるか?」

「あの、死んだときにあったあれ?」

「そうそれ。まず理解しとかなきゃならんのは、あの世界は死後の世界じゃなく、いわゆる『生と死の狭間』だ。んで、あの扉をくぐると、死の世界。そこがどうなってるのかは誰にも分からん」

夜月が一度言葉を区切り、守園の様子をうかがう。守園は黙って先を促す。

「それで、お前は扉をくぐる一歩手前で『こっち』に還って来たから死なずに済んだ。ここまではオッケー?」

「そのおかげで悪魔になっちゃったけどね」

「まあそれは置いとけ」

 笑いながら皮肉を放つ守園に、夜月は苦笑しながらも話を続ける。

「まあ、こっからが本題だ」

 そして、彼は自らの過去を語りだす。

「俺も昔、あそこに行った事があんだよ」

「それは・・・つまり」

「ああ、俺も昔死にかけてさ。そん時はちょうど死神の席が空いてたんだ。んで、俺がその席に着いて、生き残ったって訳。だから、俺は人間でもあり、神でもあるってのが一番適切な答えだな」

「ん?神様って役職みたいなものなの?」

「だな、それが結構近いかも」

「ちなみに、旦那は第2999代目でさあ」

「まあ、そー言う事で」

 夜月は適当に話題を終わらせる。

 そして、守園は質問をもう一度。

「それじゃあさ、普通の人でも神様になれちゃうの?」

 それに対し、夜月は曖昧な返事をする。

「なれるっちゃ、なれるけど。・・・普通の人ってのは」

 はっきりとした答えを出さない夜月に代わって、ケルベロスが流暢に話しだす。

「まあ、アッシらの言う『神』ってなあ、ただ単に『神に等しい力を手に入れた人間』ですから。超能力者ですよ、扱う力が此の世を滅ぼしかねないほどの。神話の神が世界に実在するってわけじゃありやせん」

ギリシャ神話では、今喋っている犬、ケルベロスはあの空間にある扉の門番のはずなのだがその仕事は存在しないらしく、結果、死神と一緒に居るだけと存在となっている。それが、この者達が神話通りの神ではない事を物語っている。

『超能力者』という単語を聞きつけ守園が、クラスにいるある人物の名前を出す。

「それじゃ、明智(あけち)君も神様だったりして」

「明智?」

 聞いた事の無い名前に、夜月は眉をひそめる。守園はうん、と頷いて、

「フルネームは明智鏡太(あけちきょうた)なんだけどね。今日はいなかったけど、普段から居ると思ってるときに居なくて、居ないと思ってるときには居る・・・なんて言うか、変わってるよ。いい人なんだけど」

 確かにそれは変だ。

 そう思って夜月は頷く。それと、ようやくこいつも委員長らしい事をしたな、とも思う。

 守園はそんな夜月の思いなど知らずに、死神の能力に興味を持ち始める。

「夜月君は死神なんだよね」

改めて尋ねられた夜月は、相手の意図は分からないが適当に「そうだけど」と返す。

「じゃあさ、あの『ノート』とか持ってたりするの?」

 守園は、どちらかと言えば願望の色が強い視線を夜月に向ける。その頭にあるのは、リンゴと悪戯が好きな粋なアイツである。

「あんな分かりやすいのは持ってねえよ。大体、俺らは人間にあまり干渉できないんだよ」

 夜月のあっさりとした答えに、大いに期待していた守園は肩を落とすが、すぐに気持ちを立て直し、新たな質問を口にする。

「でも、私の事を殺しかけちゃったよね」

「あれは例外だよ。俺は人間としてお前と接してて、それからお前を悪魔にしてから生き返らせたからセーフ」

「私を悪魔にするのは?」

「あの生と死の狭間じゃ、神と人間の境界線が無くなるんでさあ」

 ケルベロスが答え、守園はある程度の質問を解消し終わった。

 そんな守園に夜月が逆に問いかける。

「他に質問は?」

「んー、特に無いかな。また思いついたら訊くよ」

 そう言って、守園はゆっくりと立ち上がった。

「それじゃ、もう帰るね」

「そうか。んじゃ、また明日」

続いて夜月も立ち上がり、ケルベロスもいわゆる『お座り』の状態をやめる。

「お邪魔しましたー」

 玄関で靴を履いて、守園が別れの挨拶をする。

「邪魔するなら帰れ、って昔よくやったな」

それを聞いて、夜月が余計な事を思い出した。

「やりやしたねー」

なぜか犬まで同意する。

「それじゃ明日、学校で」

「んじゃーなー」

 玄関が開かれ、守園は夜月の家から出て行き、自分の家に戻った。

 それを見送った後、ケルベロスが真剣な口調で夜月に問いかける。

「旦那ぁ、一つ訊きやすが」

その声に夜月は深刻な響きを感じ取り、やや声を低くする。

「何だ?」

そしてケルベロスはひと呼級置いて口を開き、

「晩飯は肉にして貰っていいですかい?」

と、夜月の予想を大きく外れた質問をした。

 まじめになった夜月は激しく後悔し、家に入って財布とリードを持ってきた。

 ケルベロスの首輪にリードを付けつつ、夜月はため息をつく。

「今日は魚な」

「ええっ!?ひでえ!」

 ケルベロスの悲鳴も無視し、夜月は立ち上がって歩き出す。

 意外にまともな新学期になりそうだな、と楽観的に考えながら。



「それにしても、死神とは驚いたなあ」

 二階にある自分の部屋で、守園がくすくす笑いながらつぶやいた。

 彼女の視線は、窓から見える夜月とケルベロスに向けられている。

 自らを死神と名乗った少年。自らを冥府の番犬と名乗った黒犬。

 彼らを眺めて、守園はふっと笑う。

「でもね、あんまり期待しない方がいいよ?」

 ここからでは届かないと理解しつつも、守園は転校生に話しかける。

「少なくとも」

 茶色い木目調のカーテンを閉め、壁際にあるベッドに腰掛け、天井を向いて夜月にはまだ見せた事の無い悪戯っぽい笑みを浮かべ、「『まともな新学期』は絶っっっっっっっっ対に来ないと思うから」

 そのままベッドに倒れ込み、転校生に委員長としての言葉を投げかけた。

「我がクラスへようこそ!ま、楽しんでね?」

 その言葉は、夜月には届かない。

 



 

 

 


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