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異世界で失敗料理が売れた話

掲載日:2026/05/28


 とある日の大衆食堂にて。


 「ねえレイア、サンドイッチの具に卵サラダってあるじゃん?卵焼きのサンドイッチのレシピもあるのになんで今は売れてないのかな」


「なぁにキサナ。レシピはあるのに残ってないんでしょう?多分あんまり口に合わなかったんでしょう。美味しかったら今もあるわよ」


 私は一般転生者。身分は村からの出稼ぎ。

 この世界に転生したと気づいたのはサンドイッチの単語を聞いたときだった。


 どうやらこの国料理の源流は初代国王のものらしい。だから、味噌も醤油もある。


 「そうなのかぁ」


 この世界で一番驚いたのは卵焼きのサンドイッチがいわゆる炭酸コーヒーとか、消えていった洋食のようなポジションになっていたことだ。

 昔何回か食べたけれど美味しかったのに。


 ふととある失敗料理を思い出す。あれは蟹玉の餡を焼く前に混ぜてしまったやつだった気がする。


 その失敗料理が失敗したけれど美味しかったのを思い出したのだ。


 「今度、ちょっと料理の実験してみたいな……」


「なあに、なんか作るの?余ったらちょっと食べさせて欲しいわ」


 ずい、とレイアが身を乗り出してきた。なんかちょっといつもと違う香水の匂いがする。


 「多分余らないけれど……。まあ、薄いの一個ならいいよ」


 「ありがとう!今月ちょっとピンチなのよね!高い香水買ったから!」


 材料は醤油と水飴か。水飴は自家製だ。近所にはあまり売っていない。


 餡だから、多分とろみがあるのが入っていたはずなので片栗粉を買わないと。



 失敗蟹玉もどきはトーストサンドにした。

 ……私としては美味しいけれどレイアには不評だったらしい。


 個人的にトーストしたやつが美味しかったから、また作ろう。ちょっと醤油が安かったから明日まとまって買わせてもらおう。


 なんか魔王が現れた。


 魔王。神話の存在でしか見たことがない、惑星規模のスタンピードを起こす存在。

 隣国の建国神話の王子が勇者だったけれど、ほぼ神話だから実在しないものと思われていた。


 まさか実在するなんて。


 何も対策をしていなかったせいで世界は荒れに荒れ、私いた貴族のドレスを作る大きめの工房ですら、針子を雇う余裕が無くなった。


 私は針子を首になった。まあ、私は仕事がここに決まった時、親にまさかこのブランドに就職するとはと言われたから、首になってもそんなに悲しくはない。帰られる家はあるけれど、クワはもう一度持てるだろうか。

 ……まさかレイアまで辞めさせられるとは思わなかったけれど。


 「どうしよ」

「うそよ……私……私……」


 そういえば、レイアの身の上が昔の小説の幸薄ヒロインみたいな感じだった。19世紀の小説にいそうなやつ。

 家に帰りたくないのは確かだろう。

 予定を変えよう。資金はある。

 実家にちょっとだけ帰るのが遅れると伝える手紙をだして、役所に行く。ありがとう。初代国王。あなたのおかげで私も会社を作れる。


 私たちはサンドイッチ屋を作った。二階建てで家は2階のやつ。ノウハウは一応ある。全然由来だけれど……。

 売れなかったらどうしよう。今回、同じようなライバルはまだいないけれど。


 そうだ、あの失敗の蟹玉もどきのサンドイッチも売ろう。

 魔王のせいでどうしても卵は薄くなってしまうけれど。


 パンはやっぱり事業を始めたて故に、小麦粉は売ってくれなかったけれど余ったパンを半額で売ってくれた。


 魔王のせいで卵サラダサンドはできないけれど、失敗蟹玉は薄められる。

 もしかしたらそれすら作られない状況とかを加味してあの失敗蟹玉もどきの卵を、江戸料理によくあるかさましの要領で豆腐を潰したものを実験で入れてみたりした。ありがとう。ありがとう。豆腐があってよかった。


 この国は、塩が海に面しているから、ちょっとエグ味があるけれど塩があってよかった。おかげで醤油が買える。醤油はちょっと高いから薄めて塩をまぜないといけないけれど。

 他の試作品もちゃんといけた。

 いつか、豆腐をおからと混ぜてそぼろ風にしたやつを売ろう。

 店の名前も決めた。とりあえずグッドカニ。

 失敗した蟹玉の名前はソラカニタマと言う名前にした。


 看板娘として雇ったレイアは、とても不安そうだ。


 そんなこんなで開店初日。その日はあんまり良くなくて数人やってきたぐらいだった。具材だけ完成しているタイプの作り置きにしておいてよかった。


 有料の試食も売った。無料だとこの世界じゃあすぐつけこまれるからね。


 黒髪金眼の美形の、服装的に騎士にしては身分がちょっと上っぽい人に買われたけれど、気に入られなかったら時を考えると白装束用の貯金がいるかもしれない。


 レイア曰く、その人はビアンコ・ベロチカスンノ侯爵で、この辺り一帯の領主らしい。


 どうやら祭りで見たようだ。


 あまりお忍びをするような人ではないようだ。確かに、顔を見たらそう言う種類ではないのは嫌でもわかった。正直ビビった。小説的な意味ではなく、本当の意味で月が似合う方の美形がいる、と。

 多分三次元の存在であったもしても探すと月に乗っかっている絵が量産されるタイプの美形だ。

 金色の目と黒髪はいいものです。

 

 次の日も来た。レイアはとてもほっぺが赤くなっている。

 レイアちゃん、かわいいね。ほっぺたをたこ焼きにしちゃおうね。


 ビアンコさんは布袋を渡してきた。ここではビニールの代わりに紙袋があるけれどちょっと高いのだ。

 「ソラカニタマ3個。これに入れて欲しい」

 「分かりました。待ってくださいね」


 魔道具である『フライパン』を『コンロ』にかけてスライスしたパンと作り置きしておいたソラカニタマをサンドして、ホットサンド用の特注したヘラで押す。


 できたものを藁半紙に包んで渡す。


 「これって何で作っているんだ?」

 「企業秘密です」

 「そうか。……また買いにくる」


 口にあったらしい。


 帰って行く後ろ姿を見ながら横に視線をやるとレイアが凄い顔でこっちを見ていた。


 「不敬だったかな?」

 「いや、私は多分顔に惚けるだけでまともに対応できそうにないから、凄いと思っただけよ……うん……」

 「私も照れてたけれど頑張ったので褒めてください」

 「んもお、キサラ〜」


 頭を撫でてもらう。とても嬉しい。その日の夕食はハンバーガーの最初期のようなサンドイッチだった。


 それからの3週間、それなりに客は来ていた。大体騎士団の人間が来ていた。多分美味しかったのだろう。


 今日もやるぞと息巻いて店に降りると中に泥棒がいた。


 この時、おとなしく通報すればいいのに何をとち狂ったのか、私は泥棒に突撃していた。


 「ホァアアァアァアァ!」


  泥棒の足目掛けて突撃する。泥棒は私の不意打ちに体制が崩れていた。


 気づいた時にはあとの祭りで、私は泥棒に全体重をかけて泥棒を押さえ込んでおくしかなかった。


 「キサラ〜おは……っ!?」

 「通報!お願い!それかなんかロープちょうだい!」

 「その必要はないぞ」


 レイアに話しかけていたら後ろから声がした。声の主は泥棒の腕に縄を括る。


 「ありがとうございます……貴方は?」

 「アベンチュリン・スミスだけれど。ああ、そうだ、あのソラカニタマのサンドイッチ今度ちょうだいよ」

 「分かりました!すいません、顔を覚えられる自信がないので書かせてください」


 その後改めて通報して現場検証が入るまでの30分、アベンチュリンさんの似顔絵を描いた。中3の美術の時間の自画像みたいな絵だ。


 泥棒は普通に魔王が来る前から泥棒の人だった。余罪があるかもしれないため、詳しく調べることになるらしい。


 店の中は物色されただけで思っていたよりも荒れていないから、2日もあれば再開できそうだ。



 再開した日、一番にビアンコさんがやってきた。


 今日はレイアがいない。


 「強盗がいたのは聞いた。大丈夫だったのか?」


 「怪我とかは特にないです。あえて言うと片付けの時に指をちょっと切りました」


 「そうか。ならこれを使え」


 ビアンコさんはそう言ってポーションを渡してきた。ありがたくポーションを受け取り、手の傷に塗る。


 「ありがとうございます」


 そう言って返そうとすると「やる。返さなくていい」と言われた。


 もらってもいいのかしら?ポーションって高いのに。じっと見つめたけれど、頷かれたのでおずおずとポケットにしまう。


 ポケットにしまい顔を上げるととても柔らかな笑みを浮かべていた。


 「ソラカニタマ3個欲しい」


 「あっ、分かりました!」


 惚けていたらしい。ビアンコさんの後ろ姿を見ながらさっきの笑みはギャップが強いなぁと考えていた。


 この日は豆腐そぼろバーガー……?を初めて売ったけれどちゃんと受けが良かったらしく、ちゃんと売れていった。


 

 魔王が現れて一年。現在、作物が魔物に荒らされているためあまりよろしくない状態だ。


 パンと大豆以外は中々作られていない。この国は今現在、外貨は塩と醤油の儲けで賄っているけれど、厳しいものがあるらしく、なんか貨幣のデザインが新しく()なっていたので、昔の貨幣を取っておくことにする。


 魔王が出て半年間はビアンコさんも普通に来ていたけれどもう半年は来ていなかった。


 それで今日はベロチカスンノ侯爵の城に呼ばれて、遠藤はるばるその城に来た感じだ。費用は向こう持ち。


 アンリの方はその日お休みにしたようだ。


 「絵本でしか見たことない」


 机のデザインが私たちが使うのと全然違う。



 城の一室に案内された。執務室らしい。私は顔を下げてひざまづいた。


 顔を上げる許可が出る。ブランコさんだ。

 話しかけられるまで声は出さないようにする。


 「私はビアンコ・ベロチカスンノだ。君の名前を聞きたい」

 「私はキサラ・リーヴァです」


 カーテシーをしたけれどちゃんとできているだろうか。


 「黙っていてすまなかった」

 「いいえ。私は別に……それよりもサンド一致は美味しかったですか?」


 ビアンコさんが頷く。


 どうして城に呼んだのか聞くと、あのそぼろ豆腐のことだったようだ。アレを作りたい。レシピにして売らないかと。この世界には豆腐のそぼろはまだなかったらしい。

 生まれていてもおかしくないのに。


 その後、契約書を読んだけれどちゃんとしていたので私は了承した。


 その後は城の中でもてなされるぐらいだ。料理が美味しかった。


 帰りの道中、いつか飢饉の時にもっと本格的な大豆ミートが生まれるのかもしれないとかそんなことを考えていた。



 レイアにはとても喜ばれた。


 明日も同じように売ろう。



 そして一年後。ついに魔王は討伐された。私たちのいる国の人間で、もうすぐ凱旋が始まる。


 それはそれとして、魔王が現れてからの2年間、この街と言うか、国内のみならず周辺国において、街とカテゴリされる場所はちょっと食糧事情が厳しい状態だった。


 そして、今年は収穫を終えたのにパンが高いままになっている。


 人間との戦いよりはマシだけれど、日々の暮らしを蝕んでいくのが肌感覚で分かる。


 魔法があるから、作物は植えたりしていたけれど、それでも地球で言うパンブルジョワのようなのものは私たちは買えない値段になった。


 肉は魔物の肉があるから大丈夫だ。


 ……雑穀とか混ぜものだらけのでもいい。薄いパンとかを配ろうと思う。


 レイアには治安とかの方面で行くことを反対されたけれど、自分の財産を使うからと言うと渋々了承してくれた。


 ホースブレッドとのクラッカーバージョンを作ろう。それとクレープも。


 パンの材料は雑穀と豆類だ。


 雑穀と豆を水で溶いた粉をクレープにして行く。味よりも腹だ。

 ホースブレッドのクラッカーは昔海外の食品が売っている店で食べたものを頭に思い出させるような味だった。


 そうだ、麦芽糖もどきを作ってそれを……そうだ、雷おこしもどきだ。それを作ろう。

 雑穀の種類に粟っぽいものがある。……場合によってはシリアルバーもどきになってもいいか。


 数日後、麦芽糖もどきでパフを混ぜると美味しものができた。シリアルバーもどきも美味しい。

 さあ、配ろう。



 でも、配るにしても、配る口実がないと治安に良くない気がした。配る場所は下町のほうがいい。でも、治安が悪い場所にいく時は護衛を雇うべきだろうか。

 店から出るとアベンチュリンさんがいた。私服なので非番のようだ。


 「どうしたんだ?長い間休んでいるから王都にでも出かけているのかと思ったぞ」

 

 かくかくしかじかと話すと、護衛に名乗り出てくれた。


 さすがに直接的なお金はしょっ引かれるため作ったおこしとクラッカーたちが入った袋を渡した。



 下町の景色は魔王が現れて2年、ちょっとゴミの量が増えていた。ものがあるのはいいことだけれど、ちょっとこれはいただけない。ヴィクトリア時代の骨拾いなるものも存在していないらしい。

 まあ、これだと配ると言うよりも対価になるだろう。予定は15分ぐらいだろうしこれぐらいでもいいか。


 アベンチュリンさんにちょっとここらへんを掃除させるのにいるお菓子とかはどれぐらいだろうと聞くとおこしもどきとシリアルバーの方は一つで十分だと言われ驚いた。


 理由はひとつ、砂糖を買うには間違いなく銀貨がいるほど、この国には甘味とかの技術がなかったから。どうやら初代国王は甘味について、あまり興味がなかったらしい。


 「俺もそのゴミ拾いをやろうかと思うぐらい最近は甘味が無いんだ。なぁ、これはどこで買ったんだ?」

 「私も聞きたいな。その話」


 企業秘密だと言おうとした瞬間、後ろから声がした。振り返るとビアンコさんがいて、思わず二人揃って「げえっ」と叫んだ。


 「初代国王でも見つけ見つけられなかったこのレシピ。今日終わったら来てもらうぞ。看板娘も来させろ。アベンチュリン、お前も」


 ビアンコさんに顎をがっつかまれながらいわれた。なあ、この世界だと未婚の女の顎を掴んだりするのはちょっとよくないんじゃあないか……?



 そして、その日の掃除に来てくれた子供の数はアベンチュリンさんが言ったように多かった。


 思いの外人数が多くて掃除は10分で終えてしまった。


 若いお母さんもいたのでその人たちにはクラッカーを数枚渡した。でも甘味が欲しかったらしいので次来る時はわからないけれど、その時は甘味にしますと言っておいた。


 そして、私はまたブランコさんの元に行った。麦芽糖の作り方の話をしに。手土産は麦芽糖のお菓子の方だ。芋飴もどきも作った。


 道中、レイアに食べてもらったら評価がおかしいレベルで高くてびっくりした。


 麦芽糖のレシピを見たブランコさんは唸っていた。エールを濾すとかはあまりした人がいなかったらしい。もしかすると初代国王は濾さずにしたため謎の物体になってしまったのかもしれない。


 「レシピは……まあ、閣下に渡しましょう。ですが、機密ではなく、できたらですが使用料とかの方面にしたいです……そもそも流出とかでなく、金を取ればいいんです」


 「そうか……そう言うのもあるのか。そうしよう。そうだレシピの名義は君にしたい」


 ブランコさん名義にしてもいいのに。なんで私の名義なんだろうか。


 「しばらく、この領地の全ての街を回ってこの甘味を対価にして掃除させ続けてくれ。ベロチカスンノ騎士団の護衛もつける。費用はこっちが払う。」


 ああ、これは割れ窓理論のアレだ。ゴミを片付けさせるのをこっちでしてほしいのだろう。


 「やりましょう。治安の関係上、掃除は巡り巡って私たちにも影響しますので」


 「治安……?看板娘、君にも頼む。費用は出すから」


 「ふぁい……」


 レイアは漫画のような照れ方をしていた。



 それからは一旦店を閉めることにした。固定資産税は免除。いない間はブランコさんの部下の女騎士達が日替わりで来るらしい。


 この家の掃除の時、小説とかの本はカーテンで遮っておいた。


 荷物は服とラノベと、小型の神話本。地球の聖書もどきだ。


 レイアの荷物は主に服。あの高い香水の瓶も入っていた。


 迎えの馬車がきて、一旦ブランコさんのところに行く。城で護衛となる、アベンチュリンさん達と挨拶してから出発するらしい。


 到着してから護衛の説明を受けた。どうやらお忍びみたいに、騎士団の格好ではなく、普段の格好をして護衛するようだ。


 旅の道中は乗り合い馬車。それに近い。護衛は五人。この人数で大丈夫なのだろうか。私は別に死んでもいいけれど、このレシピはみんなのものでないと困る。だから、城に遺言を書き残しておこう。



 旅が終わるのは結構早かった。まさか半年で清掃が終わるとは。


 街だけとは言え、もっとかかると思っていたから。


 戻ると、追加で村も頼むと言われた。いや、するけれど……でもレイアがアベンチュリンさんと良くなっているから、どうすればいいんだろうか。


 二人のことを言うとレイアとアベンチュリンさんの代わりになんとブランコさんがついていくことになった。護衛はだいぶ増えたから名目が完全に視察になって、甘味はおまけになってしまった。


 村々の視察は一年ぐらい続いた。


 村の視察が終わって、城からグッドカニ兼家に戻った。


 家に戻ると、レイアとアベンチュリンさんが待っていた。それと今日、番をしていたのだと言うエミリアさんも。


 そうだと思いながら、菓子を渡す。村々での旅の後半、卵が元の値段に戻ったから、ラングドシャを作っていたのだ。


 砂糖はここだと高いから、水飴なのはしょうがない。


 体力がいるけれど、簡単めなラングドシャは好評だった。


 後日、店を再開した。

 レイアは騎士婦人となったので、看板娘は引退した。いや、広告塔になったから変わっていない。客層がちょっと増えた。使用人なのだろう人や、メイドが買うようになったのだ。


 そして、なんか馬車が直接来ることもあった。

 サンドイッチ屋なのに半分菓子屋になっている。

 従業員増やさなきゃ。


 聞き慣れた足音が聞こえる。

 「あ、閣下。今日は何にします?」


 振り向いたら、今まで見たことのない表情をしたビアンコさんがいた。



 単刀直入に言うと告白された。


 どう言うことだ?確かに、甘酸っぱいこともあったけれど、私は、私は夢と思って封印したのに。旅を始めた時、もうこの世界では行き遅れだったのに。


 「この年の女性はもう……遅いですよ?22歳です……」


 また愛の言葉を言われる。私はすぐ照れるのだ。オーバーヒートしてしまう。


 「身分とかは……私、平民ですよ」


 「もう君は男爵を買えるほどの資産がある」


 そうだったのか。それでも。今は隣に立てない。


 「ちょっと、教育係をつけてください」


 それからの一年はマナーを覚えることだった。


 この世界のマナーは生まれたきっかけとかを言われてなるほどと思うことも多い。真偽はともかくとして、


 お辞儀の角度はこの世界だと40度ぐらいらしい。グリーンピースをナイフとフォークを違って食べるの、前世の私に教えたくなった。


 一年後、私たちは結婚することになった。


 私たちの結婚が発表されてからはしばらく、おこしもどき……ライモンと名付けられたお菓子とシリアルバーが飛ぶように売れたらしい。


 そして、ソラカニタマは炭酸コーヒーになることなく、この世界に生きることになった。


 小さなサンドイッチ屋・グッドカニだけでないサンドイッチ屋で。



 お忍びした日、ふと屋台を見ると飴売りがいた。


 水飴はまだまだ日本のよりは高いけれど、この世界ではとても安い甘味なのだ。


 こんど、水飴を作るための木材を探そうか。


 ああ、コクゾウムシの対策もしないと。今度ビアンコが視察した時、防虫方法の資料集めをできるか聞いておこう。


 5つになる息子の頭をなでながら、帳簿の計算をしていた。




 キサラ・ベロチカスンノ・リーヴァ


 享年72


 初代リーヴァ伯爵家当主・ベロチカスンノ侯爵婦人


 別名:甘味王・水素王


 主に雑穀糖の開発・甜菜糖の効率化をした。


 鉄錆とアルコールを混ぜて、苛性ソーダを添加したものを太陽に当てて謎の破裂音が発生。その後水素を発見した。

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