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軍オタ大学生、異世界で元帥になる  作者: ただの学生


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12/12

12話

 目が覚めたのは、首の痛みだった。


 椅子の上で寝落ちしていた。


 医務棟。リーゼのベッドの横の椅子。


 ……ここで寝てたのか。


 体をほぐそうと首を回して、ベッドを見た。


 リーゼが目を開けていた。


 こちらを見ている。


「——おはようございます、元帥殿」


「おはよう。……いつから起きてた?」


「少し前から」


「なんで起こさなかったの」


「……起こす理由がありませんでしたから」


 リーゼが視線を逸らした。


 その横顔が、微かに赤い。


「怪我は」


「大したことありません。治癒術で処置してもらいましたので、明日には——」


「明日は休め」


「元帥殿。私は——」


「命令だ」


 リーゼが口をつぐんだ。


 数秒後、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


 素直に従った。これは進歩だ。最初の頃なら、絶対に噛みついてきた。


「リーゼ」


「はい」


「森の中、すごかった。あの距離で術師を焼けるの、お前だけだ」


「……買いかぶりです」


「事実を言ってるだけだ」


 リーゼが枕の上で頭を動かして、天井を見た。


「元帥殿も、無茶をしすぎです」


「どこが」


「森の端まで出てきて。危うく魔族に——」


「それはリーゼが助けてくれたろ」


「……だから、次は私が助けに行けない場所にいてください」


「それは約束できない」


 リーゼが顔をしかめた。


「なぜですか」


「俺の能力は、前線の近くでしか精度が出ない。後方に引っ込んでたら、リーゼを誘導できなかった」


 リーゼが黙った。


 反論できないのが悔しそうだ。


「でも——」


「でも?」


「次は、私に事前に言ってください。前線に出ることを」


「なんで」


「護衛の配置を考えますから。……あなたが死んだら、困ります」


 困る。


 「困る」と言った。


「軍的に困る」じゃなくて、ただ「困る」。


 俺の心臓がちょっとだけ跳ねた。


「……分かった。次は事前に言う」


「約束ですよ」


「約束」


 リーゼが満足そうに——いや、本人は満足してるつもりがないだろうが、わずかに表情が緩んだ。


 初めて見た。この人のこんな顔。


 * * *


 ネーベル森林の掃討は三日で完了した。


 森に潜んでいた魔族は、術師を失って統率が崩壊。散発的に森を出てきた小部隊は、配置済みの歩兵に各個撃破された。


 結果。


 敵の損害:推定二千以上。


 味方の損害:死者四十一名。負傷者百十二名。


 リーデル平原の会戦に続く勝利。東部戦線の脅威は、ひとまず排除された。


 要塞の空気が変わっていた。


 兵士たちの目が違う。諦めが消え、代わりに——希望、とまでは言わないが、「勝てるかもしれない」という色が見えた。


 ヴァレンティン伯が俺の執務室を訪れた。


「桐谷元帥殿」


 初めて「元帥殿」と呼ばれた。「若造」でも「坊や」でもなく。


「二度の会戦での勝利——率直に認めよう。あなたには、戦の才がある」


 歯を食いしばりながら言っている。本心からの称賛ではないだろうが、結果を前にして否定もできない。


「ありがとうございます。ヴァレンティン伯の歩兵指揮も助かりました」


 本心だ。あの人の歩兵運用は手堅い。反発はあっても、仕事はちゃんとやる。


「だが——」


 ヴァレンティン伯の目が鋭くなった。


「これで終わりではないだろう。魔族は退いただけだ。戻ってくる」


「ええ。だからこそ——」


 俺は地図を広げた。


「守るだけじゃ終わらない」


 ヴァレンティン伯が目を見開いた。


「こっちから攻める」


 作戦卓に沈黙が落ちた。


 ヴァレンティン伯が、長い間俺を見つめていた。


 やがて、鼻を鳴らした。


「……命知らずめ」


 けれど、口元が——ほんの少しだけ——笑っていた。


 * * *


 その夜。


 廊下でガリウスと歩いていた。


「ガリウスさん」


「何でありますか」


「この二週間で、だいぶ戦い方が分かってきた」


「左様でありますか」


「でもまだ足りない。魔族の術師の情報、俯瞰で見えない部分の対策、それと——攻勢に出る時の補給線の確保。やること山ほどある」


 ガリウスが無言で歩いている。


「正直、帰りたいと思う瞬間もある。元の世界に」


「……」


「でも、もう少しだけ——この戦争を、見てみたい。いや、見るんじゃないな。やりたい」


 ガリウスが足を止めた。


 振り返る。


 あの鉄面皮が——初めて、明確に、笑っていた。


 口角が上がり、目元にしわが寄っている。四十五歳の叩き上げ軍人の、穏やかで確かな笑顔だった。


「面白い元帥であります」


 ガリウスが言った。


「自分は——あなたに仕えることに、誇りを感じております」


 不意打ちだった。


 この人から、そんな言葉が出るとは思わなかった。


「……ガリウスさん」


「何でありますか」


「俺も——あなたがいてくれてよかった」


 ガリウスが一礼した。深く、丁寧な一礼。


 そして踵を返し、廊下を歩いていった。


 背中がでかい。頼もしい。


 俺は一人で廊下に立って、しばらく動けなかった。


 嬉しかった。


 ——さて。


 次の戦いの準備をしないと。


 守りから攻めへ。ここからが本当の戦争だ。


 守りは終わった。次は攻める番だ。


 俺のやれることを——全部やってみたい。


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