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軍オタ大学生、異世界で元帥になる  作者: ただの学生


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10/12

10話

 偵察報告は、最悪の知らせを運んできた。


「北東ネーベル森林方面。魔族の大部隊が森林内を移動中。推定三千から四千」


 ガリウスが報告書を読み上げる声は、いつも通り平坦だ。だが内容は平坦じゃない。


 ネーベル森林。


 あの深い森は、俺の俯瞰能力にとって最悪の地形だ。


 木々の密度が高すぎて、上空から見ても個体の識別ができない。ノイズが通常の三倍。位置は大まかにしか分からず、数の精度も落ちる。


「試してみるか」


 目を閉じて、俯瞰を起動する。


 視界が広がる。フェルゼン要塞から北東方面へ。


 ——うわ。


 ネーベル森林に差しかかった途端、俯瞰が靄がかかったようにぼやけた。赤い点がちらちら見えるが、位置が安定しない。数えようとしても、すぐにノイズで消える。


 三千から四千——その偵察報告が正しいかどうかも、確認できない。


 目を開ける。じんわりと頭が痛い。


「ダメだ。森の中はほとんど見えない」


 ガリウスが頷いた。想定内、という顔だ。


「ヴァレンティン伯は森林内での待ち伏せを提案しておられます」


「却下。森の中に入ったら、こっちの方が不利だ。魔族は夜間視力がある。森林戦は向こうの得意分野だ」


「では、いかがなさいますか」


 俺は地図を見た。


 ネーベル森林は南北に長い。東から来た魔族が西へ抜けるなら、出口は限られている。森の西端に三つの谷間がある。


「森に入らない。森から出てくるところを叩く」


 ガリウスの目が動いた。


「森の出口は三箇所。ここと、ここと、ここ」


 地図を指でなぞる。


「この三箇所を俯瞰で監視する。森の外なら精度は戻る。敵がどの出口から出てくるか、リアルタイムで分かる」


「出口で迎え撃つ、と」


「そう。歩兵を三分割して、各出口に配置する。敵の出てくる出口が分かった時点で、他の二箇所から兵力を集中する。——敵は、こっちが出口を知ってるとは思わない」


 ガリウスが地図を見つめた。


「妥当であります。ただし、一つ問題が」


「何?」


「森林内に魔族の術師がいた場合、出てくる前に何をされるか分かりません。前回の屍操術のような奇策を、森の中で使われたら——」


「それだ」


 俺は椅子の背に体重を預けた。


「術師。あいつが一番の問題だ。森の外で待ってるだけだと、術師に好き勝手やられる可能性がある」


「先手を打つ、ということでありますか」


「うん。森の中の術師を、先に潰す」


 誰が。


 どうやって。


 森の中は俯瞰が効かない。歩兵を大量に送り込んだら、森林戦で魔族に食い散らかされる。


 必要なのは——少数精鋭で、森の中を突破できる火力。


「……リーゼに頼むしかないか」


 口に出してから、自分の判断を問い直す。


 リーゼの中隊を森に送る。少数精鋭。魔術の火力で術師を焼く。前回と同じだ。


 だが前回は平原だった。今回は森。地形が違いすぎる。


 リスクが高い。


「ガリウスさん」


「何でありますか」


「リーゼを呼んでくれ」


 * * *


 リーゼは十分後に来た。包帯は外れていたが、左腕をわずかにかばう動きがある。


「お呼びですか、元帥殿」


「うん。座って」


 リーゼが椅子に座った。姿勢がいい。


「ネーベル森林の件、聞いてるだろ」


「はい。魔族が森林を通って奇襲を図っていると」


「俺の俯瞰は森の中じゃ使えない。森の外から出口を監視するのが基本戦略だ。でも一つ、先にやっておきたいことがある」


「術師の排除ですね」


 リーゼが即座に言い当てた。


「……よく分かったな」


「あなたの考え方は、少し分かってきました。最大の脅威を先に潰す。合理的です」


 褒められた——のか? 表情は硬いままだが、声のトーンが以前とは違う。


「リーゼ。森の中に入って、術師を見つけて、焼いてくれないか」


 直球で頼んだ。


 リーゼが黙った。


「無理なら無理だと言ってくれ。別の方法を考える」


「……いえ。可能です」


 即答ではなかった。考えた上での返事だ。


「第三中隊の精鋭十五名を選抜します。森林内の索敵は魔術探知で補います。術師の魔力は大きいので、近づけば探知できるはずです」


「森の中での戦闘は」


「得意ではありませんが——私が先頭を切ります」


「リーゼ。まだ怪我が——」


「治りました」


 嘘だ。左腕をかばってるのが見えてるぞ。


 でも言わなかった。この人の覚悟を否定する権利は、俺にはない。


「分かった。ただし、条件がある」


「何ですか」


「森の端まで俺も行く。外側から俯瞰で、できる限りサポートする。森の中は見えなくても、周辺の魔族の動きは分かるから」


 リーゼの目が見開かれた。


「元帥殿が——前線まで?」


「前も行ったろ」


「あれは丘の上でした。今回は森の端です。万が一——」


「ガリウスさんがいるから大丈夫。あの人が護ってくれる限り、俺が死ぬ確率は限りなく低い」


 後ろでガリウスが「御意」と言った。迷いのない声だった。


 リーゼが俺を見ている。


 何を考えているか、読めない。


 やがて、小さく頷いた。


「……了解しました。信頼します——今回も」


 今回も。


 初めて、「信頼」という言葉がリーゼの口から出た。


「ああ。任せろ」


 軽く答えた。


 軽く答えたが——心臓がドカドカ言ってた。


 信頼されるのは、嬉しいが重い。


 期待に応えなきゃいけない。


 失敗したら、この人の部下が死ぬ。


 ——だから、絶対に失敗しない。


 地図を広げた。


「作戦を詰めよう。三人で」


 俺と、リーゼと、ガリウス。


 夜が更けるまで、作戦卓の前で頭を突き合わせた。


 リーゼの戦場経験と、ガリウスの地形知識と、俺のゲーム脳的戦術理論。


 噛み合い始めている。


 このチーム、悪くないかもしれない。

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