第42話|エピローグ
春の光が、王宮の庭をやわらかく包んでいた。
白い花が風に揺れる。
アマーリエはゆっくりと歩きながら、空を見上げる。
隣には、レオンハルト。
その距離は、もう迷いのないものだった。
「寒くはないか」
低く穏やかな声。
「ええ、大丈夫です」
彼女は微笑む。
あの日の出来事は、すでに裁きの場へと移された。
アルヴィンの名は、王宮ではもうほとんど語られない。
未来は、静かに進んでいる。
レオンハルトがそっと彼女の手を取る。
「これからは、私が共に選ぶ」
その言葉に、アマーリエは頷いた。
「はい」
自分の意志で。
誰の未来でもない、
自分の未来を。
花びらが舞う。
春の風が、優しく過去をさらっていく。
――そのはずだった。
遠い石牢の奥。
鉄格子越しに差し込む光を見上げながら、
アルヴィンは静かに目を閉じる。
「……もうすぐですね」
誰に向けたわけでもない、囁き。
唇に浮かぶのは、あの日と同じ微笑。
「あなたは、必ず思い出す」
風が吹く。
王宮の庭で、アマーリエはふと立ち止まる。
理由のない、胸のざわめき。
けれどすぐに、それは春の風に溶けた。
未来は、彼女のものだ。
――だが。
どこかで、まだ。
視線だけが、絡みついている。
それは、春にも溶けない。
登場人物
アマーリエ・フォン・ヴァイスベルク
(17歳)
侯爵家ヴァイスベルク家の長女で、正式な跡継ぎ。
婿入り前提で婚約していたが、婚約破棄をきっかけに前世の記憶を思い出す。
前世は50代独身の栄養士。
感情に流されず、現実的で観察眼が鋭い。
料理と体調管理の知識を活かし、領地と人を立て直していく。
見た目は落ち着いた美貌だが、内面はかなり肝が据わっている。
レオンハルト・アルベルト・フォン・アウレリア
(26歳)
現国王の弟で、国内外から一目置かれる存在。王位継承権第三位。
武勇と知略を兼ね備えた人物だが、私生活は驚くほど質素。
必要以上に己を飾らず、物事の本質を見る目を持つ。
アルヴィン・フォン・リヒター(26歳)
隣国リヒター公爵家の婚外子。
公式には“遠縁の養子”。
目的はただ一つ――公爵家当主の座。
ヴァイスベルク侯爵家とグラーツ侯爵家を足場に、政治の盤を動かす策士。
商団主と利害で結びつき、未来図を描くのは彼。
冷静沈着に盤面を読む男だが、
アマーリエに対してのみ理性を逸した執着を見せる。
レオンハルトと同い年。
光と影、対をなす存在。




