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婚約者を奪われましたが、前世の知識で幸せを取り戻します  作者: 絵宮 芳緒


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第34話|盤外の影

湖畔に、静寂が戻った。

香草の香りと、水面に揺れる木漏れ日だけが、穏やかに漂っている。


アルヴィンは腕を下ろし、アマーリエの腕から手を離したまま立ちすくむ。

理性は敗北を告げる――


ここで動けば、盤上での位置を完全に失う。


だが、心の奥で抑えきれぬ執着がざわめいた。


彼はゆっくりと後退し、森の木陰へと身を溶かす。

その目だけは、なおもアマーリエを捉えていた。


「……次は、必ず手に入れる」

低い呟き。


風に紛れながらも、その決意だけが湖畔に残る。

レオンハルトは視線をアマーリエへ戻す。


「大丈夫だ」

短く、しかし揺るぎない声。


フェリクスが森の外周を見渡し、静かに告げる。

「森の外周はすべて押さえました。逃げ道はありません」


レオンハルトは頷き、森の奥へと目を向ける。


「今は落ち着け。もう安全だ……」

穏やかな声音。

だがその一言には、確かな防壁のような強さがあった。


アマーリエはゆっくりと微笑む。


「ありがとうございました。助けに来てくださって」


「危険は去ったはずだ。

だが、警戒は続ける」


その言葉に、アマーリエは小さく頷いた。


森の奥。

アルヴィンは一度だけ振り返る。


湖畔に立つレオンハルト。

その傍らに守られる存在として立つアマーリエ。


胸の奥の執着は揺らがない。


だが今は退く。

――次の一手のために。


盤上は、さらに複雑に動き出す。


守る者と奪う者。

その狭間で、誰が次の一手を打つのか。


香草の香りは、静かな勝利を告げながらも、終わりではないことを予感させていた。


湖畔から距離を取ったアルヴィンは、木陰に身を潜め、地図と書類を確かめる。


高鳴る鼓動を抑えながらも、思考は冷徹に巡る。


「……王弟と、その守護者の布陣か」

低い声。


瞳は盤上の駒を読む棋士のように鋭く光る。


これまで、欲しいものは必ず手に入れてきた。

だが――


アマーリエは違う。

単なる奪う対象ではない。


その存在が理性を乱す。

執着と焦燥が、静かに交錯する。


「まだだ……策は残っている」


呼吸を整え、思考を再構築する。


森の別ルート。


予期せぬ接触による混乱。


遠方の商団主、過去の密約、利害の網。


だが盤上の布陣は堅い。


フェリクスの外周封鎖。

レオンハルトの直接守護。


「……偶然ではない」


自分は誘い出されたのか。

この局面すら、計算の内か。


わずかに震える指先。

敗北の恐怖。


それでも消えない欲望。


「……次は、必ず」

森の奥へと視線を向ける。


次こそ優位に立つために。


湖畔には再び、香草の香りが漂う。


静かな勝利の余韻の中、

アルヴィンの影だけが、焦燥と執着を抱え、密かに動き出していた。


――盤外の影が、再び動く。

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