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婚約者を奪われましたが、前世の知識で幸せを取り戻します  作者: 絵宮 芳緒


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第22話|救われた駒と、狙う影

ベルク子爵邸、執務室――


「王城に行ったそうだな」

低い声。

逃げ場はない。


(もう、伝わったの?)


ローザリアは沈黙する。


「何を渡した」


「……帳簿です」


父の目が変わる。

完全に、娘を見る目ではない。

危険物を見る目だ。


「……愚か者が!」


頬を打たれ、乾いた音が室内に響く。


ローザリアは倒れない。

ただ、真っ直ぐに見返す。


その視線が気に入らない。


子爵は、ゆっくりと言い放つ。


「お前には……使い道があると思っていた」

声も、目も冷たい。


「だが、この国ではもう無理だ」


背筋に冷たいものが走る。


「美しさは武器だ」

淡々と続く。

「他国の貴族でも、老侯でも、商人でも、後添いでも構わぬ」


値踏みする目。


「我が家に利が出る相手に、今すぐ嫁げ」


血の気が引く。

父は本気だ。

処分。

盤面整理。

娘ではなく、資産。


「すぐに準備を進める」


もう、彼はローザリアを見ない。

決定事項。


執事に促され、部屋へ戻される。

扉が閉まり、外から鍵がかけられた。


生まれて初めて、父が怖い。


母を失ってからも、父は自分を守ってくれた。

そう思っていた。


でも――

利用価値がなくなったから?


涙は、出ない。


(殿下は……帳簿を受け取った)


希望は、そこだけ。


自分はもう、父の駒ではない。


自分で選んだ。

ならば――

誰かが、動く。





王城、執務室――


戻ったレオンハルトに、フェリクスが帳簿を差し出す。


「子爵令嬢より、預かりました」


無言で受け取る。

頁をめくる。

香料の流通記録。

商団名。

学園への搬入時期。

オスカーの異変と一致する。


「……浅いな」

小さな呟き。


隠したつもりで、隠しきれていない。

だが――


「これだけでは“意図”は立証できぬ」


フェリクスが頷く。


「商団主への裏取りを進めております」


そこへ侍従が告げる。


「ヴァイスベルク侯爵令嬢がお見えです」


「通せ」


入ってきたアマーリエは、以前より静かで、強い。


「子爵令嬢が王城を訪れたと聞きました」

単刀直入に話す。


「承知している」


「彼女は、父親の思惑を知らされていなかった可能性が高いのです」


擁護ではない。

事実の整理。


「利用されていたのではないでしょうか」


私情はない。

だが、覚悟がある。


「助けたいのか」

短い問い。


「救う価値がある者なら……」

盤面を読む者の目だ。


レオンハルトは静かに告げる。


「これを受けて、子爵は必ず動く。 娘を処分する可能性が高い」


アマーリエの瞳が揺れる。

「国外縁談……」


「証拠は揃えさせる」


レオンハルトは立ち上がる。


「その時、私は動く」


合法的に。

逃がさず。

確実に。


「私も参ります」


「理由は?」


「彼女が……自分で選んだからです」


それだけ。


レオンハルトの目が、わずかに柔らぐ。


「……よかろう」






三日後、商団主の倉庫が摘発された。


帳簿改竄の証拠。

違法輸入香料。

証人の確保。

――だが。


肝心の商団主本人は、倉庫にはいなかった。

行方をくらましたまま。


「抜け道を用意していたか」 


レオンハルトは静かに告げる。

フェリクスが答える。


「国外逃亡の可能性があります」


だがその夜――

王都郊外の商館奥。


「倉庫は捨てる」

商団主は、平然と茶を口にする。


「子爵は切られるだろう。だが私は違う」 

目を細める。


「……あの娘は、いずれ不安になる」


閉じ込められ、孤立し、恐怖に揺らぐ。


「救いを求める時が来る」

甘い声で、囁く。


「その時、私が手を差し伸べる」

罠は、まだ生きている。





同時刻、ベルク子爵邸――


ローザリアは閉じ込められていた。

外が騒がしい。


「王命だ! 扉を開けよ」

低く通る声。

扉が開く。


立っているのは、フェリクス。

その背後に衛兵。

そして――

王弟レオンハルト。


「ベルク子爵令嬢ローザリア」

名を呼ばれる。


彼女は立ち上がる。

震えは、もうない。


「保護する」

簡潔に告げられる。


「ベルク子爵家は王命により、調査対象となった」


背後で父の怒号が響く。

だが届かない。


廊下の先に、アマーリエの姿があった。


目が合う。

敵ではない。

哀れみでもない。

対等な視線。


(……間に合った)


レオンハルトが告げる。

「あなたは、この事件の証人だ」


利用ではない。

役割。


「……はい」


その瞬間。

ローザリアは、駒ではなくなった。


――だが。


遠く離れた商館で、一人の男が、まだ彼女を“獲物”として見ていることを、誰も知らない。

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