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婚約者を奪われましたが、前世の知識で幸せを取り戻します  作者: 絵宮 芳緒


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第15話|優雅なる挑発、見極める目

その直後ーー

砂利を踏む軽い音。振り向くと、柔らかな声。


「まあ……偶然ですわね」


日差しを受けて、ローザリアは微笑む。だがその目は、三人を一瞬で観察していた。


カールの立ち姿。 レオンハルトの静かな圧。


(……素敵)

まず思うのはそれだけ。

レオンハルトが、王族だとは気付かない。

だが、“格が違う”のは分かる。


「どちら様かしら?」


無邪気に首を傾げる。

カールが先に名乗る。


「グラーツ侯爵家長男、カールだ」


ローザリアの瞳がきらりと揺れる。


「まぁ、オスカー様の…」


(侯爵家……しかも長男!)


「兄だ…」


さらに、自然に視線はレオンハルトへーー


「では、こちらの方は?」


レオンハルトは淡く笑う。


「…ただの観察者だ」


その言い方が、逆に意味深。

ローザリアは微笑みながら一歩近付く。


「観察なさっているのは、学園のこと? それとも……人?」


挑発…。アマーリエは息を詰める。


王弟だと知らないからこそ、距離が近い。

レオンハルトは微動だにしない。


「君は…どちらだと思う?」


ローザリアは一瞬、視線を絡める。


(落とせる…)


自分の“武器”は通じるはず、と踏む。


その瞬間、カールがわずかに位置を変える。

アマーリエの半歩前に出て、さりげなく遮る。

その動きに、ローザリアの目が細まる。その場の空気が変わる。


アマーリエは理解していた。

今目の前にいる、この人は王弟…。

この場で軽率な言動をすれば、ただの学園の噂では済まされない。

だからこそ、カールはこの場を収めるよう、自分の前に立ったのだろう。


ローザリアはまだ知らない。

ただ、新しい標的が現れたと感じているだけだ。

レオンハルトが静かに言う。


「学園は…面白いな。人の本質がよく見える…。」


その視線がローザリアを一瞬射抜く。

ほんの一瞬…だが、背筋が冷える。


理由は分からない。

でも――

(この人……油断できないわ)


初めて、本能が警告する。


「では、ごきげんよう」

優雅に微笑み、ローザリアはその場を後にする。


アマーリエは、その場の緊張感が解けたかのように、息を吐き出した。





昼下がりの回廊ーー

光の差し込む窓辺で、ローザリアは立ち止まる。


(侯爵家長男……それに、あの方…)


黒髪の青年…名は名乗らなかった。

だが、あの落ち着き。

教師でも学生でもないのに、誰よりも場を支配していた。


(素敵…!!)


王弟だとは、夢にも思わない。

せいぜい王都の高位貴族、あるいは…重鎮の息子。

それくらいにしか、考えていなかった。


相変わらず、あの場でアマーリエはただ横に立っているだけだった。

緊張し、言葉も少なかった。


(…勝負にならないわ)


ローザリアは余裕の微笑みを浮かべる。

まだ、盤は自分のものだと思っていた。





人払いされた応接室ーー

学園内だが、外に漏れない空間。


カールが先に口を開く。


「殿下…まず事実として。

我が弟オスカーは、殿下に直接お目にかかったわけではございませんが…」


一呼吸。


「しかしながら――」


声が低くなる。


「学園という公の…教育の場において、軽率な振る舞いを見せたこと。

さらに、学生の身分でありながら…宿においても、節度を欠く行動を取ったこと…」


重い沈黙が流れる。


「…これは一時の感情ではなく、このアウレリア王国おいて、貴族としての…自覚の緩みでございます」


レオンハルトの視線がわずかに鋭くなる。

カールは続ける。


「将来、家を担う可能性のある者が、公私を問わず品位を失えば…それは家のみならず、国の貴族階級全体の信用を損なうものです」


王家への直接不敬ではない。

だが、国の秩序への影響。


レオンハルトが問う。


「…処遇は?」


「我がグラーツ候爵家としては、オスカーの…一定期間の対外活動停止。

学園内での立場の自覚を再教育。

宿の出入り…さらに、市井への外出の制限を言い渡すつもりです。」


完全に“矯正措置”。


続けて、カールの視線がアマーリエへ。


「加えて、婚約者としての不実。

ヴァイスベルク侯爵令嬢の名誉を守れなかった責は…本人に負わせます」


アマーリエが静かに言う。


「謝罪は受けます。ですが、将来を決めるのは…その後です」


アマーリエは、選ぶ側。

カールの言葉に、レオンハルトはゆっくり頷いた。


「品位とは、人目のある場所でこそ試される。

ならば…そなたの弟にも学ばせよ」





昼下がりの陽光ーー 中庭の噴水そばで、ローザリアはゆったりと腰を下ろす。


周囲の視線が集まるのはいつものこと。


(最近、少し騒がしいけれど…)


オスカーの様子が落ち着かない…。

昨日も言葉がどこか上滑りしていた。


それでも――


(結局、私を選ぶ…)


あの視線は本物。

迷いも…焦りも独占欲も。


アマーリエにはない熱。

彼女は“正しい”けれど、面白くはない…。


ふと視線を上げると、回廊の向こうに黒髪の青年が立っていた。

落ち着き払った所作。

周囲の空気を自然に従わせる気配。


(やっぱり…素敵だわ)


でも、名は知らない。

どこかの高位貴族、あるいは王都の重鎮の息子。

それくらいにしか思っていない。


彼はローザリアに気付く。

視線が一瞬だけ交わる。

逸らさない…逃げない。

ただ、測るような瞳。


(……ふふ)


挑戦的な微笑みを返す。


“あなたも、私に興味があるのでしょう?”


次の瞬間、その表情は変わらず、そのまま回廊通り過ぎて行った。

一瞬の接触…それだけ。


ローザリアはわずかに眉をひそめた。


(無反応……?)


初めてだ…ここまで、自分に動じない男は。

でも、それすら楽しい。


(…落としがいがある)


彼女はまだ知らない。

自分が“観察対象”であることを。


彼が動いているのは恋ではなく、学園の秩序と貴族の未来のためだということを。


噴水の水音が響く。

ローザリアはゆっくり立ち上がる。


(まずは…オスカーを落ち着かせないと…)


自分の優位は揺らがない。

そう信じている。


その足元で、盤面はすでに組み替えられているとも知らずにーー

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