第12話|迷宮の夜、さらなる誘惑と策略
第12話|迷宮の夜、さらなる誘惑と策略
子爵邸、ローザリアの自室。
朝の光はまだ届かず、部屋には薄暗い影が漂う。
オスカーはベッドに腰かけ、昨夜の陶酔から覚めきれないまま、手元の宝石箱に目を留める。
箱の中で、淡く紅を帯びたリボンがひときわ目立つ。
自然に手が伸び、指先で触れると、微かに香るローザリアの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「君の……ためか……」
オスカーはつぶやき、リボンをそっと巻き取るように弄る。
その瞬間、心の奥で昨夜の陶酔と、ローザリアへの深い渇望が再び蘇る。
リボンはただの布切れではない。
彼女の香り、微かな紅の色、そして計算された触感――すべてがオスカーの理性を少しずつ溶かし、彼をさらに深く縛る小道具となっていた。
ローザリアは静かに部屋に戻り、微笑みを浮かべながらオスカーの動きを見守る。
「……もう、私なしではいられませんね」
その声に、オスカーの心は完全に屈服し、欲望と陶酔が交錯する。
その声に、オスカーの心は完全に屈服し、欲望と陶酔が交錯する。
「……俺は、君のものだ……」
甘美の支配は、もはや単なる夜の戯れではなく、彼の意識全体を覆う牢獄となった。
ローザリアの一挙手一投足が、巧みに繰り返されることで、オスカーの心と体は完全に彼女に依存していく。
窓の外、城や街の影は静かに揺れる。
ローザリアは微笑みを深め、冷徹な目で彼の顔を見下ろす。
「ふふ……そう、あなたは私のもの……すべて、私の掌の上に」
その掌の一振り一振りが、彼をさらに深く堕とすための計算であることは、誰も知らない。
机の上に置かれた宝石箱はまだ開かれており、中の小さな薔薇のオブジェや紅を帯びたリボンが、甘美さと危険の象徴として揺れている。
封筒に残る微かな香りも、意識の隙間に入り込み、オスカーを縛る無言の鎖となる。
ランプの光が揺れる部屋で、オスカーは無意識にローザリアに手を伸ばす。
全身の感覚が甘美に支配され、理性は遠く、警戒心は消え失せた。
夜が明ける頃、子爵邸のメイドが遠慮がちに扉をノックする。
「候爵家より、オスカー様の従者の方がお迎えに…」
「そう…」
扉の外から聞こえた声に、ローザリアは静かに答える。
オスカーはまだ心の奥に甘美の余韻を抱えつつも、現実には復帰しており、従者と共に候爵邸へ戻る。
服を整え、学園へ出かける準備をしながら、無意識に小さく呟く。
「……君のためか……」
従者が顔を上げ、問いかける。
「何か?」
「何でもない……」
学園の朝。光はまだ柔らかく、校庭の影が長く伸びる。
オスカーは従者に付き添われ、普段通りの顔で登校するが、胸の奥には昨夜の陶酔とローザリアへの渇望が燻る。
歩を進めるたび、視線は無意識にローザリアを探す。
彼の歩調や仕草には、まだ甘美な影響が残っており、友人たちの何気ない呼びかけも耳に入らない。
そのとき、アマーリエと出会った。
「おはようございます、オスカー様…」
挨拶するアマーリエに、オスカーは目もくれず、ただローザリアの影を追うように歩き続ける。
無視されたことに、アマーリエは驚きを隠せない。
あれほど、自分の前では、取り繕ったように婚約者らしく振る舞っていたのに……。
その様子を、同じ学園に通うフェリクスの弟が遠くから見ていた。
少年の瞳には、オスカーの異様な執着心と、甘美な陶酔が織り混ざった様子が鮮明に映る。
廃校舎の影。
古びた木の廊下を渡ると、低く誘うような声が響く。
「オスカー、こちらへ……」
無意識に心が跳ね、従者の制止の手をかわす。
廃校舎の一室。
窓からの薄光が差し込む中、二人は視線を交わすだけで、甘美で危険な空気に満ちていた。
ローザリアの指先が机の縁を撫で、微かに紅を帯びたリボンや香りを意識させるたび、オスカーの理性は揺れ、身体が反応する。
「……君のためか……」
囁きは無意識に求める声へと変わる。
ローザリアはそれを微笑みで受け止め、冷徹な視線と計算された仕草で、オスカーをさらに深く堕とす。
その様子を、偶然廊下から覗いたアマーリエが目撃する。
薄暗い教室の影の中で、二人の距離の近さ、手の触れ合い、香りが漂う空気。
廃校舎の薄暗い影の中、息を詰め、心臓が高鳴るのを感じる。
さらに、目の前での、あられもない痴態を目にし、
――これは、いったい……
耐えきれず、目を背け、アマーリエは小さく震える声を漏らす。
「……あれ……」
短く震える声を漏らすと、耐えきれずその場から逃げ出す。
その光景を、少し離れた場所で息を潜めて見ていたのが、フェリクスの弟――リオネルだった。
彼は冷静に二人の様子を観察し、アマーリエが逃げるのを確認する。
目撃内容を脳裏に記録し、これを学園内で放置すれば危険だと直感した。
兄フェリクスとレオンハルトへの報告の準備を静かに進める。
「……兄上に、これを伝えねば……」
リオネルの瞳には、まだ少年の面影が残るが、観察者としての冷徹さが宿っていた。
二人が去った廃校舎では、さらにローザリアとオスカーの時間は続いていた。
甘美な誘惑の裏で、迷宮はさらに深まり、影は確実に動き始める――。
ローザリアは静かにオスカーの肩に手をかけ、目をじっと見つめる。
その視線には甘美さと冷徹な計算が同居しており、彼の心臓は高鳴り、理性はさらに揺さぶられる。
「……私の言う通りにすれば、もっと心地よくなるのよ」
その一言に、オスカーの全身が微かに震える。
甘い声が耳に届くだけで、昨夜の陶酔が体中を巡り、理性はまるで雲のように薄れていく。
ローザリアの指先が彼の手首や胸元を撫でるたび、微かに残る香りや紅の色、そして計算された触感が、無言の暗示となって心に刻まれる。
オスカーは無意識に応え、身体を傾け、指先の感触を求めてしまう自分に気づき、同時にその欲望を抑えられない。
廃校舎の薄暗い光が二人を包む中、ローザリアは微笑みながらゆっくりと距離を詰める。
その一挙手一投足が、巧妙に仕組まれた心理の罠であり、オスカーはそれに完全に捕らえられていた。
「……もっと……」
オスカーの声は自然に漏れ、理性よりも欲望が優位になっていることを示していた。
ローザリアはその声を受け、冷徹な微笑を絶やさず、さらなる甘美な刺激を与える。
唇の先や指先、香りに混ざる微かな紅――すべてが彼の意識を完全に支配し、彼を虜にする小道具となる。
机や椅子、窓辺の影までもが二人の時間を包む舞台となり、甘美で危険な空気が濃密に漂う。
オスカーの体と心は、すでにローザリアの掌の上にあり、逃れられない陶酔の迷宮の中で彼は完全に堕ちていった
廃校舎の陰影の中、ローザリアの微笑とオスカーの欲望が絡み合い、迷宮はさらに深く、暗く、静かに広がっていく――。
やがて二人の時間が一段落すると、オスカーは従者とともに学園から戻る。
従者は、無意識に異様な熱を帯びた息遣いをしているオスカーを目にし、眉をひそめる。
「……オスカー様、学園では…?」
「……問題ない……」
その言葉には、まだ心の奥に潜む陶酔とローザリアへの渇望が滲んでいた。
その夜、グラーツ候爵邸。
従者が一日の学園での様子と、廃校舎での危険な時間を簡潔に候爵に報告する。
候爵は眉をひそめ、静かに言い放つ。
「……よし、事態は理解した。動くべき時だな……」
甘美な誘惑と巧妙な策略の裏で、次なる動きが確実に進み始める――。




