2-1 ツーク国立学園入学試験:筆記試験
未だ雪が残る初旬。
俺とレンカは、イーバラットに来ていた。
ここには王国の教育機関が集中しており、通称「学園都市」と呼ばれている。
俺たちはこの街にある最高学府、ツーク国立学園の入学試験を受けに来たのだ。
十二歳になれば受験でき、入学すれば四年間を過ごす学び舎。
俺たちの両親も、この学園の卒業生だ。
入学試験は筆記試験・魔法試験・剣技試験の三つに分かれている。今日は筆記試験の日だ。
「緊張するな」
そう呟くと、レンカが答えた。
「あれだけみっちり座学をしたのだから、大丈夫でしょう」
「そうだな。お互い頑張ろう」
「ええ」
そう言って、俺たちは試験会場であるツーク国立学園のキャンパスに足を踏み入れる。
王国の十二歳以上の貴族や、幼い頃から学問に親しんできた裕福な平民たちが集まっており、皆、緊張で顔をこわばらせている。
毎年五百人ほどが受験し、合格するのは百人。
受付で事前に郵送されていた受験票を見せ、試験番号票を受け取る。
今日の筆記試験で二百人が残る予定だ。筆記試験で落ちれば、どれだけ魔法や剣術に自信があっても先に進めない。
案内された試験会場で、俺たちはそれぞれの試験番号の席へ向かう。
俺とレンカは同じ会場だが、席は男女で離れているため、しばしのお別れだ。
すでに教師と試験監督官がいて、会場をチェックしていた。
受験生で埋まったことを確認すると、試験監督官は問題用紙を配り始める。
そして試験開始の鐘が鳴り、俺は問題に解答を埋めていく。今のところ、順調だ。
試験内容は国語・数学、そして魔法理論と剣術理論の選択制。
科学は含まれていないようだ。
受験勉強中、チャネリングで神様と対話した際に、第一世代の救助者たちが色々やらかしたらしい。
そのせいで一度文明をリセットし、科学と錬金術は禁忌とされたという。
今のミドルアースの文明は第二世代で、第一世代は古代人と呼ばれているのは余談だ。
歴史・地理・第二外国語・マナー等は、入学後に学ぶことになっている。
俺はスキル「多言語理解・通話」を持っているため、国語は全問難なく解答できた。
休憩を挟み、次は数学だ。
前世で大学生だった俺にとっては楽な問題ばかりだ。
最後の選択問題では魔法理論を選び、解答を埋めていく。
魔導の名門ヴァレンティア家に恥じぬよう、教えられた魔導学を存分に発揮し、手応えを感じていた。
筆記試験終了後、レンカと合流し、互いに試験の感想を言い合いながらヴァレンティア家の紋章が入った馬車に乗る。
この学園都市にはヴァレンティア家の別邸があり、試験の間はそこに滞在することになっている。
別邸に着くと、明日の魔法試験に備えて準備を始める。
試験内容はシンプルだ。
左右から五枚ずつ飛び出す計十枚の的に魔法を当てるだけとはいえ、移動する物体に魔法を命中させるのは容易ではない。
魔力制御がうまくできなければ、放った魔法は外れる。
だが、俺たちは赤子の頃から魔力過多で、魔力循環・制御の特訓をしてきた。
明日披露する魔法はお互い秘密だ。見てからのお楽しみというやつで、それぞれヴァレンティア領、ルミナリア領で秘密の特訓を重ねてきた。
「大丈夫だ」
そう思いながら、使用人が夕食の準備が整ったことを知らせに来る。
食堂には両家の両親、レンカ、レンカの兄がいた。
レンカの兄アレンは、ツーク国立学園騎士科卒業後、学園都市に赴任して騎士として駐屯している美丈夫だ。
ちなみに次代の剣聖候補でもある。
何度か手合わせしてもらったが、惨敗した。
体が完成すれば負けないのに、と内心思いつつも面倒見の良い彼を慕っている。
明後日の剣技試験前に、軽い練習に付き合ってもらう約束だ。
テーブルに着くと、暖かい料理が運ばれてくる。
外は寒かったので、暖かい料理はありがたい。
食事を終え、風呂に入り就寝する。
明日、ツーク国立学園キャンパスで座学の合格者発表がある。
受かっていれば、いよいよ魔法試験だ。次第に瞼が重くなり、微睡んでいく。
◆
その頃、ツーク国立学園では魔法講師陣が議論を重ねていた。
議題は、ユーマ・ヴァレンティアの魔術理論に関する解答についてだ。
「やはり、飛翔系の魔法に回転を加えるだけで威力が上がるなど、たわ言にしか思えません」
一人の講師が納得できない顔で言う。
他の講師も続ける。
「回転を加えて威力が上がるなら、既に先人が行っているはずです!」
もし解答がユーマのものではなければ、たわ言として0点扱いになっていたところだ。
だが、あのヴァレンティア家の神童が書いた論文となると話は別である。
魔導のヴァレンティア……その名は、魔法界に多大な影響を及ぼす。
議論は二時間に及んだ。
その時、校長が静かに告げる。
「では、一旦保留という形はどうかの。
ユーマ君は明日、魔法試験を受けるであろう? であれば実践してくれるかもしれぬ。
まあ、実践しなければ0点にすれば良いのだからの」
白熱していた講師陣も、その言葉に納得した。
そんな決定がなされていることを、ユーマは知る由もない。
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