3-43 力の代償
神殿を出ると、空はすでに黄昏に染まっていた。
夕日の赤い光が、遠くの山並みを淡く染める。
俺たちは神殿近くに野営地を設営し、火を囲みながら簡単な食事を摂った。
でも、心は落ち着かない。
目の前で笑いながら食事をするエリシア。
あの戦いで精霊王の力を引き出した代償――
長く使えば、魂の一部が風に溶けてしまう――を、どうやって伝えればいいのか。
俺はレンカを見た。
彼女は静かに頷き、小さく呟く。
「同じ過ちをしないようにね」
——ああ、あのトラペゾヘドロンのことを指しているんだな。
俺も心の奥で、レンカの言葉を胸に刻んだ。
俺はエリシアに視線を向け、そっと促す。
「エリシア……皆に話してくれ」
彼女は箸を止め、一瞬空を見上げてから小さく頷く。
「……長く使えば、私の魂が風に溶けてしまうの……」
その声は穏やかだが、重みは俺たちの胸を打ち付ける。
皆が沈黙する中、俺は口を開いた。
「覚醒しなくても、エリシアは賢者として充分に戦える。
覚醒は最後の手段として取っておくべきだ」
仲間たちは頷き、安堵の息を漏らす。
俺自身も、ほっと胸を撫で下ろした。
次に、ゴーレム戦の顛末を話す。
「‘emeth’を‘meth’に変える助言をしたのは……他でもない、エリシアだ」
面々は納得した表情で頷き、エリシアは少し照れたように笑った。
「じゃあ、しばらくは本の虫だな」
レオンハルトがそう笑うと、彼女も楽しげに答える。
「それもいいかもね」
俺は孫子の兵法書やラジエルの書の写本など、賢者の知識を深められる書物をリストアップした。
エリシアは兵法書に興味を示し、ストレージにあるものを貸すことにした。
そして彼女は文字通り「本の虫」になった。
ページをめくる指先に込められた真剣な意志は、仲間を守るための覚悟そのものだった。
でも、戦いの疲労は隠せない。
「でも、今は休みたいわ」
彼女はそう言ってテントに入り、三日三晩、深い眠りについた。
その間、俺たちはダリオの指示でゴーレムの残骸をストレージに納める作業に追われた。
ダリオ曰く、オリハルコンの塊は捨てるにはもったいない。
武具の材料として再利用できるのだという。
俺も、式神を召喚すれば前線を維持しつつ味方を後方に避難させられたのでは……と考えた。
しかし、仲間に式神・十四天将の顔見せを試みると、レンカ以外は皆怯えて顔をこわばらせた。
ミリアに至っては、気絶してしまう始末。
——やはり、召喚せず正解だった。
火を囲む仲間たちを見渡す。
疲労と安堵、戦いの余韻。
それぞれの瞳に今日の戦いの色が残る。
俺は心の中で決意する。
エリシアの力の代償を、俺たちが支えなければならない。
彼女ひとりに背負わせるわけにはいかない。
勇者としての俺たちの役目は、彼女の支えになることだ。
風が木々の間をそよぎ、火の明かりが揺れる。
夕暮れの静けさの中、俺たちは互いの存在を無言で確認した。
そして、静かに未来へと向けた決意を胸に、夜の野営を過ごすのだった。
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