2-0 プロローグ
俺とレンカは、その後、剣と魔法を次々と習得していった。
正確には“習得した”というより、思い出していったと言った方が正しい。
天界での修行の日々を記憶の底から掘り起こし、そこで身に付けた技を取り戻していくような感覚だった。
また、俺はヴァレンティア家に代々伝わる固有魔法を、レンカもルミナリア家に伝わる聖魔法を、まるでスポンジが水を吸い上げるように吸収し、自分のものとしていった。
一番苦労したのは、貴族社会のマナーや慣習だ。
前世で無縁だった食事作法、挨拶、ダンスなどのお稽古事には、さすがに手を焼かされた。
歴史はアカシックレコードへアクセスし、この“ミドルアース”の歴史を学習した。
地理に関しては覚えるしかなく、俺のもっとも苦手な科目となった。
特にミドルアースは、色々な天界の一部をつぎはぎしたためか、地理が複雑だった。
国語や外国語については、多言語理解・通話スキルのおかげで問題なかった。
家庭教師たちは、ネイティブと変わらぬ発音で外国語を話す俺たちを見て「この子たちは天才だ」と太鼓判を押したほどだ。
まあ、結果オーライというやつだ。
レンカとの絆も深まった。
空いた時間に一緒に料理を作っていたら、両家の料理長が自信を失いかけるほどの出来になってしまったため、慌てて“お菓子作りだけ”に専念することにした。
料理神級スキル、恐るべしである。
この世界にはパティシエという職業がなく、お菓子の種類もさほど普及していなかったため、俺とレンカは前世のお菓子を次々に再現した。
それは両家の新たな収入源ともなり、たいへん喜ばれた。
ただ、材料の関係で一部の西洋菓子しか作れなかったのは悔やまれる。
十歳のとき、両家合同でデビュタント(成人前のお披露目)が行われ、その場で婚約も発表された。
俺たちが振る舞った西洋菓子は大好評だった。
婚約についても、王家のお墨付きがあり、家格も派閥も問題なかったことから、何事もなく終わった。
そう、この国ニースでは“国王派”と“貴族派”に分かれている。
俺の母が王妹であり、レンカの母が王妹の護衛兼親友として幼少期を共に過ごしていたこともあり、俺たちの家は国王派に属している。
そんな風に幼少期を過ごし、俺たちは十二歳になろうとしていた。
この国ニースでは、十二歳になるとイーバラット学園都市へ行き、貴族間の交流を深めるという名目で学園に入学することになっている。
俺たちは、そのイーバラットにある最高学府――ツーク国立学園を受験することにした。
イーバラットにはヴァレンティア家の別宅があり、俺たちは一足先に現地入りした。
学園に通う間、レンカと共に住むことになる予定の別宅だ。
これはルミナリア家には別宅がないこと、そして婚約者として早めにヴァレンティア家に慣れてもらう、という名目もあった。
そして――学園の入学試験日が近づく頃。
◆
そのころ、神々の間では、俺とレンカが作った神級のお菓子がちょっとしたブームになっていた。
この世界はピラミッド状の三層構造――上から“天界”“ミドルアース”“地獄”で成り立っている。
ミドルアースと天界が近いため、俺たちがお供えしたものはそのまま天界へ移動し、神々が直接味わえるようになっていたのだ。
前世では曖昧だった“神との距離”が、この世界ではとても身近に感じられるようになっていた。
そのため人々の信仰は厚く、常に“神々に見られている”と考え、規律正しく社会のルールを守るようになっていた。
一方で、地獄からもミドルアースは近く、標的にされやすい。
魔物、魔族、悪魔が干渉してくることは珍しくなかった。
実際、魔王の根城がミドルアースに七か所存在していた。
中でも“傲慢の魔王城”は地獄と直接つながっている――そんな噂が人々の間で囁かれていた。
そして、その傲慢の魔王城で、新たな傲慢の魔王と嫉妬の魔王が誕生していた。
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