表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/50

1-2 再会

 俺が五歳になったある日のこと。

 母の友人であるルミナリア侯爵夫人レティシアさんとその家族が、ヴァレンティア家にお茶会へやってきた。


 ――が、本命はお茶ではなく、俺とルミナリア家の次女・レンカ嬢のお見合いだろう。


 レンカ嬢は父親譲りの青みがかった銀髪に、母親似の琥珀色の瞳。

 透き通るような白い肌を持つ、正直見惚れるほどの美少女だった。


 一瞬、既視感が走った。

 だが──俺には心に決めた人がいる。

 そう自分に言い聞かせ、無関心を装った。


 母セシリアは、学生時代の親友であるレティシアさんと

 「子どもができたら、同性なら友人に。異性なら婚約させたい」

 と話していたらしい。


 父ユリウスと、ルミナリア侯爵アルトさんも了承していたとか。


 しかし俺は、前世の婚約者――渡辺蓮花の転生者以外と婚約するつもりはなかった。


 レンカ嬢も、どこか乗り気ではない表情をしている。


 ……この話は破談になるだろう。

 そう思っていた。


 そんな空気を察したのか、母が俺に言う。


 「ユーマ、レンカさんを温室に案内して差し上げなさい」


 俺はしぶしぶ頷き、レンカ嬢を温室へ案内した。


 温室の中は満開の花々と香草の香りで満ち、心を落ち着かせてくれる。

 俺は花や木々を説明しながら、レンカ嬢と歩いた。


 一段落つき、ベンチに腰を下ろしたとき、思わず口を滑らせてしまった。


 「実は人を探していて……前世で婚約者だった女の子なんだ」


 その一言で、レンカ嬢の瞳が大きく揺れた。


 「……私もよ。お互い、前世の記憶持ちなのね。良かったら、その子の特徴を教えてくれない?」


 お互い記憶持ちか――。

 そう思いつつ、俺は蓮花のことを語った。


 「黒髪で黒い瞳。君と同じ“蓮花”って名前で、遠縁の娘で……見合いで出会って、一目惚れした。向こうも同じ気持ちだったみたいで。よく支えてもらって……俺にはできすぎた婚約者だったよ。……ん? 泣いてる?」


 レンカ嬢の瞳から涙が溢れた。


 「悠真……土御門悠真よね? 私よ、“渡辺蓮花”」


 ――まさか。


 本当なら天に感謝したいほどの奇跡だ。

 最初は話を合わせているのかと思った。

 だが、俺は“渡辺”という苗字を一度も口にしていない。


 そして前世での俺の名を知っている。

 何より、その涙。


 嘘であるはずがなかった。


 「本当に……蓮花なのか? 夢じゃなくて?」


 「ええ、夢じゃない。現実よ。……また会えて嬉しい」


 そこからは、まるで時間が巻き戻るようだった。

 俺とレンカは昔話に花を咲かせ、気がつけば笑い合っていた。


 「また婚約する?」


 「もちろんよ。それとも今の私じゃイヤ? 結構、自信あるんだけど?」


 上目遣いで言われ、心臓が止まりかけた。

 可愛すぎる。


 俺は何度も頷いた。


 「婚約する。早速、父と母に話そう!」


 「ふふ、そうね。行きましょうか」


 勢いそのまま、俺たちは温室を飛び出した。


 両家の大人たちの前に戻り、俺は宣言した。


 「二人で決めました! 将来、結婚して支え合っていこうと!」


 ……自分でも、何を言っているのか半分わからなかった。


 母がレンカに確認する。


 「レンカさん、本当にいいの?」


 「はい」


 レティシアさんは微笑み、「本人たちの意思を尊重しましょう」と言った。

 アルトさんは肩をすくめ、


 「まあ、最初からそのつもりで来たが……ユーマ君、うちのレンカを悲しませないでくれよ?」


 「もちろんです! 必ず幸せにします!」


 父が頷く。


 「なら決まりだ。正式に婚約を結び、国王陛下に書類を提出しよう」


 アルトさんが冗談めかして言う。


 「不幸にしたら、家のレティシアが剣を片手にお前をしごくことになるぞ?」


 「な、なぜレティシア様が剣を?」


 「ふふ、知らなかったか? 結婚後は称号を譲ったが、家内は元“剣聖”なんだ」


 驚いた俺は、勢いで叫んだ。


 「じゃあ弟子にしてください!」


 場が、一瞬凍りつく。


 レティシアさんの微笑みがふっと消えた。


 「理由を聞かせてもらえる?」


 「俺たち術者の弱点は、詠唱中に接近されることです。だから近接戦の対策が必要なんです。元剣聖のレティシア様に学べれば、生き残れる可能性が高まります!」


 沈黙のあと、レティシアさんは柔らかく笑った。


 「いいわ。じゃあレンカと一緒に教えてあげる」


 こうして、俺は週三日の剣術修行をルミナリア家で受けることになった。

 残り三日は魔術の修業。

 そして安息日はレンカと過ごす日。


 赤子からやり直した身にとって、天界で学んだ武術の再調整には丁度いい機会だった。

 俺とレンカは剣を交えながら、互いを高め合っていった。



 その頃、天界では相変わらず神々が好き勝手な議論を繰り広げていた。


 一方、地獄の底ではサタンが漆黒の玉座で誰かと会話を交わしていた。


 『ナイアーラトテップ様、何かご指示を?』


 『……彼は今どうしている?』


 『最近では嫉妬よりも傲慢が目立ちます。傲慢の魔王となるのも時間の問題かと』


 『そうか。ならば、新しい“嫉妬の魔王”を据える必要があるな』


 『準魔王種のエルシードを推薦します』


 『うむ。その方向で進めておけ』


 地獄の闇が、微かに蠢く。

 ――その動きは、やがて地上にも影を落とすことになる。

もし、続きが読みたい等の場合、下記の評価とブックマークをお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ