3-21 六人目の勇者? ミリア:死者の咆哮
戦場の霧の中、重々しい獣の咆哮が響く。
灰色の鎧に覆われた巨体――黄金のたてがみを持つ獅子の戦士が姿を現した。
俺は息を呑む。
「……まさか、あれは……」
レオンハルトの表情が凍りつく。
「間違いない。 獅帝グラオル……あの時、確かに討ち取ったはずだ」
だが、その瞳は虚ろで、人の理性はもはや宿っていない。
◆
怠惰の魔王バルドルが、玉座のような骸骨の椅子から嗤う。
「死してなお吠える忠義の獅子――これぞ我が屍兵。
死者は怠惰を知らぬ。永遠に戦い続ける、最も忠実な僕よ」
◆
ミリアは震える唇で名を呼んだ。
「兄さん……?」
仲間が止める間もなく、ミリアは戦場へ飛び出す。
「兄さん! わたしだよ! ミリアだよ!」
だが獅帝グラオルの爪が唸りを上げ、彼女の忍び装束を裂いた。
反射的に俺が間に入り、炎の結界を張る。
「ミリア、戻れ! あれはもうお前の兄じゃない! 屍兵だ」
「違う! 兄さんの中に、まだ心が残ってる! ……わたし、感じるの!」
ミリアは涙を拭い、静かに印を結ぶ。
風と影を纏い、再び獅帝の前へ。
俺は静かに声をかける。
「――分かった。 お前の信じるままに行け」
屍兵となったグラオルはかつての俊敏さを失い、緩慢で、ミリアの動きに付いていけなかった。
ミリアは分身の術で彼を翻弄し、肉薄する。
そして忍術「影牙閃」が兄の胸を貫いた。
その瞬間、グラオルの瞳に一瞬だけ光が戻る。
「……ミリア……か」
「兄さん!」
彼は微笑み、かすれた声で呟く。
「すまない……俺は、守りたかっただけなんだ。 ……民を、そして……お前を」
ミリアの頬を涙が伝う。
「分かってる……兄さんのせいじゃない。
わたし、妹として……兄さんの苦しみを、終わらせる」
グラオルは静かに頷く。
「レンカ、お願い」
レンカは頷き、聖なる鎮魂歌を歌う。
魔法陣が二人を包み、ミリアの腕の中でグラオルは光となって消えていった。
ミリアの瞳が輝く――風の勇者としての覚醒である。
◆
遠見の水晶で一部始終を見ていた怠惰の魔王は怒号を上げる。
「くだらぬ情だ! 死者は従うのみ!」
◆
ミリアは決意も新たに叫ぶ。
「兄の魂を弄んだ罪――妹として忍びとしても、許さない!」
戦いの後、丘の上で彼女は風に祈りを捧げる。
「兄さん、見てる? わたし、もう泣かないよ。
あなたの誇りは、わたしが守るから」
尻尾が静かに風に揺れる。
俺は遠くからその姿を見つめ、呟いた。
「……忍びであり、妹であり――彼女は、戦士の魂そのものだな」
レンカが微笑む。
「泣き虫で食いしん坊なのに、立派になったよね」
「泣き虫も食いしん坊も、強さの証さ」
俺は空を見上げる。
白い雲がゆっくりと流れていく――まるで、兄妹の絆が風となって旅立っていくかのように。
ここで、学園都市防衛戦で、獅帝グラオルがレオンハルトに敗れた後、バルドルの名を呼び、彼がバルドル配下であった事が繋がりましたね。
気付いた方は鋭いです。
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