3-15 六人目の勇者? ミリア:森の細道にて
森を抜けた先の細道で、甲高い悲鳴が木々の静寂を切り裂いた。
「ぎゃあああああっ!」
一行が駆け寄ると、木の枝に逆さづりにされた獣人の少女がいた。
ふさふさの尻尾をばたつかせ、金色の瞳を涙で潤ませている。
獅子の耳をぺたりと伏せ、もがく姿はどこか愛嬌があった。
「た、助けてぇ! なんで私ばっかり罠に引っかかるのー!」
俺とレンカは慌てて仕掛けを外し、少女を地面に下ろす。
彼女は勢いよく跳ね起きると、ぺこりと頭を下げた。
「ありがと! わたし、ミリアっていうの! ごめんね、いつもこうなの! 森を歩くと、なぜか必ず罠にかかっちゃうんだ~!」
尻尾を振りながら早口でまくしたてる姿に、仲間たちは思わず目を丸くする。
あまりの自己紹介に、一同はしばし沈黙した。
レオンハルトが深いため息をつき、呟く。
「……よく今まで生き延びてこられたな」
ミリアは胸を張り、尻尾をぶんぶん振る。
「脚は速いからね! 罠以外なら任せて!」
次の瞬間、足元の石につまずき、盛大に転ぶ。
「いったぁ~い!」
その場の空気が一気に和やかになる。
エリシアは思わず笑みをこぼした。
「まったく……騒がしい子。でも、不思議と憎めないわね」
ため息混じりの声には、どこか優しさが滲んでいた。
その時、俺はふと気づく。
ミリアが転んだすぐそば――草むらに小さな罠が仕掛けられている。
「わ、わたし……見つけちゃったみたい!」
得意げに尻尾を揺らすミリアに、俺は笑みを浮かべた。
「偶然でも、役に立つなら十分だ」
エリシアも微笑み、肩をすくめる。
「ほんと、ドジだけど……悪くない子ね」
◆
道中、レンカがユーマの耳元で小声を漏らした。
「ねえ……この子、本当に信用して大丈夫なの?」
その声が聞こえたのか、ミリアはしょんぼりと耳を垂らした。
「わたし、怪しい者じゃないの……ただ、みんな獣人ってだけで怖がるから……」
俺は穏やかに答えた。
「疑っているわけじゃない。今は魔王軍の影が濃い。慎重になるのも仕方ない」
その言葉に、ミリアは寂しげに笑った。
「……魔王軍。あいつらは、わたしの国を滅ぼしたんだ」
一行が息をのむ。
ミリアは空を見つめながら、静かに続けた。
「数年前、獣人族の国は魔王軍の侵攻で滅んだ。なのに……兄のグラオルが、魔王軍に加わったって噂を聞いたの。どうしてなのか、わたし、今でも分からない」
その名を聞いた瞬間、レオンハルトの表情がわずかに硬くなる。
何かを言いかけたが、彼は口を閉ざした。
◆
夜のキャンプにて。
焚き火の明かりに照らされながら、ミリアは旅に加わる決意を告げた。
「勇者探し、楽しそう! わたしも行く! ……たぶん役には立たないけど、にぎやかにはできるから!」
その“役立たず”な部分が、意外にも功を奏したのは数時間後だった。
夜の見張りの際、森の奥で微かな物音に気づいたミリアが慌てて駆け出す。
魔王軍の小隊が近づいていたのだ。
だが、ミリアの騒ぎに敵は混乱し、一行はその隙に反撃の態勢を整えることができた。
――結果、勝利をもたらしたのは、彼女の“ドジ”そのものだった。
こうして獣人の少女ミリアは、
「ドジだけど憎めないムードメーカー」として仲間に迎え入れられた。
焚き火の火が静かに揺らめく。
ミリアの金色の瞳に、その光が映り込み、かすかに影を落とした。
それはまるで――遠い記憶の中で失われた兄の姿を、今も探しているかのようだった。
そしてその影が、のちに彼女を涙の運命へと導くことを、
その夜、誰もまだ知らなかった。
スマートフォンで読んでみたら読み辛かったので、改行を入れました。
本文には、手を加えていません。
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