3-10 ドワーフの王国:ダリオ
案内された鍛冶場では、ひときわ逞しい体躯の男が、炉の前で豪快に槌を振るっていた。
分厚い腕。
煤で黒く染まった髭。
鋼を打ち延ばすたび、赤い火花が炸裂し、そのたびに鉄と炎の匂いが空間を満たしていく。
「彼がダリオだ。国でも屈指の鍛冶職人だよ」
若い案内役が小声で耳打ちした。
槌を振り終えると、ダリオはふう、と息を吐き、額の汗を拭いながら一行をじろりと見やった。
「……旅人か。何の用だ」
低く荒れた声。
その裏には職人としての警戒心が見え隠れしていた。
俺たちが勇者探しであること、そして剣を打ってほしいことを告げると、ダリオは露骨に眉をひそめた。
「勇者だぁ? そんな話は聞き飽きた。俺の槌は仕事のためにある。遊び半分の旅に貸すつもりはねぇ」
――やはり、言葉では動かないか。
俺はボロボロになったバスタードソードを取り出し、彼の前に差し出した。
「これは……随分と無茶な使われ方だな。……お前さん方、本物の勇者か?」
レオンハルトが姿勢を正し、静かに答える。
「はい。今覚醒しているのは俺だけですが、命を預ける武具に万が一があれば、仲間が危険です。鍛冶師であり、勇者でもあるあなたの力を借りたい」
「ふむ……だがな」
職人特有の頑なさが空気に張りつめる。
その圧が強まった瞬間、俺は静かにウィスキーの瓶を取り出した。
エルフの都で手に入れた秘蔵酒――。
「ただとは言いません。これを代価にどうでしょうか」
「エルフの秘蔵酒だと!?」
ダリオの目の色が一瞬で変わった。
瓶をひったくるように手に取り、封を切って香りを確かめる。
「……よし、話は後だ! まずは飲むぞ!」
その瞬間、彼のごつい顔に豪快な笑みが浮かんだ。
◆
こうして鍛冶場の広場は、あれよあれよという間に即席の宴会場と化した。
ダリオは樽のような声を響かせ、酒杯を豪快に打ち鳴らしながら飲み、俺たちにも次々と勧めてくる。
飲み交わすうちに、彼の頑なだった態度はすっかり溶けていた。
「気に入った! お前ら、悪くねぇ。勇者探しってのも……酒の肴にゃ面白そうだ。俺も一緒に行ってやる!」
力強い宣言に、俺たちは自然と顔を見合わせた。
しかし、話はそこで終わらない。
「その前に……このボロボロ剣をどうにかせにゃならんな。レオンハルトとか言ったか、一振りでこうなったんだって?」
案内人の説明に、ダリオは腕を組んで唸った。
「まあ、考えるのは明日だ。明日、詳しく話を聞かせてくれ。ついでにお前さんたちの武具もまとめて見てやる」
そしてふと、エリシアの背にある弓へ視線を移す。
「……そいつだ。そこのエルフが持ってる弓。あれも、もとは俺の傑作の一つだ」
エリシアは静かに頷く。
「確かにダリオ殿の作です。私の弓技に耐えられる弓と矢がなかったため、あれを譲り受けました。感謝しています」
「おいおい、二人は知り合いだったのか?」
レオンハルトが驚いて尋ねる。
「いえ、直接お会いするのは今日が初めてです。ただ……その節は、本当にありがとうございました」
エリシアの丁寧な礼に、ダリオは豪快に笑った。
「気にすんな! 明日からは一緒にメンテしてやる。――ほら、飲め飲め!」
◆
そして翌日。
エリシアとダリオ、案内人の三名を除き、俺たちは揃って見事な二日酔いに沈んでいた。
もしストレージから樽まで出していたら――そう想像しただけで、俺は本気で青ざめたのだった。
多分、異世界転生したら、自分はドワーフになっていると思います(汗
もし、面白い。
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