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1-0 微睡みの中で

 光は次第に柔らかな闇へと溶け、俺たちの意識は静かに一点へと収束していった。

 神々の声は遠くで囁くように残り、最後に瀬織津姫の優しい言葉だけが耳に届く。


 「絆こそ祓いの力。互いを忘れず、助け合うがよい」


 その言葉が胸に染み渡った瞬間――

 二人の魂は、ふわりと新しい世界へと落ちていった。



 やがて、意識が戻る。

 冷たい空気、土の匂い、遠くから聞こえる人の声。

 まばゆい光はいつしか朝焼けの色に変わり、目の前には見覚えのない部屋が広がっていた。


 身体は幼く、手足は軽いのに思うように動かない。

 まるで借り物の身体のようだった。

 それでも胸の奥には、確かな温度と意思が残っている。


 誰かの手が、自分の頬に触れるのを感じた。


 記憶の断片──

 天界での修行、神々の声、与えられたスキル、ストレージの存在。

 それらは夢ではなく、確かに自分のものになっていた。


 頭の中に、小さな声が説明するように響く。


 【ストレージ、アクセス可能。装備・資料は格納済み。アカシックレコード・アクセス権付与済み。多言語理解・通話スキルを常時発動可能。なお、ヴァルハラで得た力・付与されたスキルはすべて魂に刻まれます】


 言葉の通り、所持品は確かに“在る”。

 手をかざすと、器具と書物が一覧表示されるような感覚がした。

 背後には、名もなき守りの力が静かに宿っている。



 その日のうちに、二人はそれぞれの新しい家族――父母、そして周囲の人々に迎えられることとなった。

 名はまだ与えられていなかったが、血脈の温度と土地の匂いが、現実へと繋ぎ止めてくれる。


 だが天界での出来事は、すぐに忘れ去られるものではない。

 胸の奥に残った「努力」の感触と、瀬織津姫の言葉は、日々の暮らしの細部に静かに影響を与えていく。


 二人は小さな出来事にも真剣に向き合い、学び、互いを支え合って成長する素地を持っていた。


 ──一方、世界の片隅では、李昊天の業の清算が終わっていた。

 嫉妬が招いた破滅の果てに、彼は静かに、しかし確実に裁きの淵へと落ちていった。

 並行世界を消し去った行為は決して赦されるものではなかった。


 だが、この時点ではまだ誰も知らない。

 消えた世界の欠落、旧神たちの介入、そして二人に託された“何か”が、やがて小さな波紋となって広がり、さまざまな出会いへと繋がっていくことを。

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