1-0 微睡みの中で
光は次第に柔らかな闇へと溶け、俺たちの意識は静かに一点へと収束していった。
神々の声は遠くで囁くように残り、最後に瀬織津姫の優しい言葉だけが耳に届く。
「絆こそ祓いの力。互いを忘れず、助け合うがよい」
その言葉が胸に染み渡った瞬間――
二人の魂は、ふわりと新しい世界へと落ちていった。
◆
やがて、意識が戻る。
冷たい空気、土の匂い、遠くから聞こえる人の声。
まばゆい光はいつしか朝焼けの色に変わり、目の前には見覚えのない部屋が広がっていた。
身体は幼く、手足は軽いのに思うように動かない。
まるで借り物の身体のようだった。
それでも胸の奥には、確かな温度と意思が残っている。
誰かの手が、自分の頬に触れるのを感じた。
記憶の断片──
天界での修行、神々の声、与えられたスキル、ストレージの存在。
それらは夢ではなく、確かに自分のものになっていた。
頭の中に、小さな声が説明するように響く。
【ストレージ、アクセス可能。装備・資料は格納済み。アカシックレコード・アクセス権付与済み。多言語理解・通話スキルを常時発動可能。なお、ヴァルハラで得た力・付与されたスキルはすべて魂に刻まれます】
言葉の通り、所持品は確かに“在る”。
手をかざすと、器具と書物が一覧表示されるような感覚がした。
背後には、名もなき守りの力が静かに宿っている。
◆
その日のうちに、二人はそれぞれの新しい家族――父母、そして周囲の人々に迎えられることとなった。
名はまだ与えられていなかったが、血脈の温度と土地の匂いが、現実へと繋ぎ止めてくれる。
だが天界での出来事は、すぐに忘れ去られるものではない。
胸の奥に残った「努力」の感触と、瀬織津姫の言葉は、日々の暮らしの細部に静かに影響を与えていく。
二人は小さな出来事にも真剣に向き合い、学び、互いを支え合って成長する素地を持っていた。
──一方、世界の片隅では、李昊天の業の清算が終わっていた。
嫉妬が招いた破滅の果てに、彼は静かに、しかし確実に裁きの淵へと落ちていった。
並行世界を消し去った行為は決して赦されるものではなかった。
だが、この時点ではまだ誰も知らない。
消えた世界の欠落、旧神たちの介入、そして二人に託された“何か”が、やがて小さな波紋となって広がり、さまざまな出会いへと繋がっていくことを。
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