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3-5 エルフの森:まさかの出会い

 エリシアが告げる。

 「お茶とお茶請けを出すから、少し待っていて」


 出された茶は、どう見ても緑茶であり、茶請けは醤油煎餅だった。

 俺とレンカは思わず顔を見合わせる。

 まさか、ここで緑茶と醤油煎餅に出会うとは夢にも思わなかった。


 まずは煎餅に手を伸ばす。

 醤油の香ばしい風味が口いっぱいに広がる。


 一口、茶を啜る。

 間違いない、緑茶――玉露である。


 俺とレンカは無言のまま、懐かしい味に夢中になる。

 傍らのレオンハルトとエリシアは、驚きの表情でこちらを見つめていた。


 俺達は涙を浮かべ、「懐かしい」と繰り返す。


 ようやく気を取り直したエリシアが、少し照れたように呟く。

 「そ、そんなに気に入ったの?」


 俺とレンカは、

 「故郷の味なんです」「もう、感激して……」


 少し我に返り、マナーを欠いたかとバツの悪い顔をする。


 「いえ、気に入ってもらえたなら何よりです」

 とエリシアは微笑む。


 そして小声で、「なら、お昼ももっと楽しんでもらえるかもしれません」と付け加えた。


 レオンハルトは、お茶を口に含み、少し渋い顔をしている。



 小一時間ほど経った頃、エリシアが呼びに来た。

 長老たちに、魔導通信具を貸してもらった礼を言いたいとのことだった。


 俺は応じる。

 「魔導通信具なら予備があります。お譲りします。使い方も説明しますね」


 カーリオスに操作方法を伝えると、話はエルフの勇者についても及んだ。

 エリシア自身が、勇者候補であることも明かしてくれた。


 彼女は、数少ないハイ・エルフの中で最も若い世代だという。

 とはいえ、三百年近く生きていると聞き、エルフの時間感覚の長さに思わず息を呑む。


 結局、エリシアも旅に同行することになり、準備の都合上、一週間ほど滞在することとなった。



 その日の昼食は、御飯、焼き魚、沢庵たくあん、煮物、味噌汁。


 新米の御飯はふっくらと炊き上げられ、焼き魚は川魚で、塩加減が絶妙である。

 沢庵は程よく漬かり、煮物には大根、人参、里芋、油揚げが入る。

 味噌汁は合わせ味噌で、野菜も豊富だった。


 当然、俺とレンカは喜びのあまり声を上げる。


 だが、疑問も湧いた。

 「何故、エルフの都で和食が?」


 カーリオスは微笑みながら答える。

 「ああ、元々ハイ・エルフには日本という国からの転生者が多く、前世の記憶を活かして長年研究し、和食を再現したのじゃ。

 今ではハイ・エルフだけでなく、エルフ全体にも広く受け入れられておる。

 だが、和食を知っているとな……もしかして」


 『ええ、私とレンカは日本人の転生者です。前世の記憶を持っております。皆には内緒なので、協力してもらえると助かります』

 と俺はエルフ語――日本語で答える。


 実は、ハイ・エルフたちの会話はすべて日本語だった。

 当初は多言語理解・通話スキルによるものと思ったが、よく聞けば日本語そのものだった。


 『承知した。同胞として迎えよう。何か要望があれば聞こう』


 『では、平和になったらニース国のヴァレンティア家やルミナリア家と貿易しませんか。和食を自領地でも広めたいのです』


 『そうか、フードロスにもつながるし良い考えじゃな』

 『では、開墾して食料を輸出できるよう調整してみよう』


 そこへレンカも加わる。


 『私の住むルミナリア領では松茸が採れるので、それをエルフの都に輸出でき……えっ』

 突然、手を握られ、懇願される。


 『是非、お願いします!』


 『じゃあ、うちはうなぎかな……』


 再び手を握られ、

 『是非、お願いします』

 と言われてしまう。


 こうしてレオンハルトはそっちのけで、輸出入の話が次々とまとまっていった。


 エルフの都からは米や野菜に、醤油に味噌などの調味料を。

 ヴァレンティアからは海の幸、主に鰻、マグロ、貝類、海老、蟹などを。

 ルミナリアからは山の幸、主に松茸や岩塩、胡椒などの西洋調味料等を手始めに貿易することが決まった。


 もちろん、平和になった後の話である。

 魔王軍が活発化している現状では、安定した貿易は困難だからだ。


 また、魔法を用いて腐敗を防ぐため、冷蔵・冷凍技術も必要となる。


 気づくと、レオンハルトは少しいじけた表情をしていた。


 「レオン先輩、すみません」


 「いや、話がまとまったならそれでよい。上手くいけばいいな」


 その日の晩には、日本酒の人肌燗が振る舞われた。

 予想通り、俺とレンカは歓喜し、和食を肴に杯を重ねる。


 意外にもレオンハルトも日本酒を気に入り、杯を重ねていた。


 「これは美味い。ぜひ、我が領とも貿易してほしい。代わりにワインを輸出するから」


 グランベルク領はワイン造りが盛んである。


 「ワインですか、ぜひお願いしたいです。ほかの酒類もあれば是非」


 「うーん、後はブランデーかな」


 「良いですね。ではこちらも日本酒のほかにウィスキーを提供しましょう」


 俺が口を挟む。

 「ああ、ジャパニーズウィスキーですね。木が多い土地柄、さまざまなフレーバーが楽しめそうです」


 「ええ、酒精は高めですが、美味いですぞ」


 「ますます、魔王軍を退けねばなりませんね」


 「我らはダークエルフと争っています。そちらは任せてください」


 翌日、レオンハルトは二日酔いに悩まされることとなったのは言うまでもない。

ユーマとレンカは、和食や和食の食材を探していたので、ここで2-9 閑話(日常)の伏線回収です。


もし、面白い。


続きが気になる。


先を読みたい。


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