3-4 エルフの森:エルフの都
その光景は、目の前に広がるだけで好奇心を強く掻き立てるものだった。
途方もなく大きな大木の枝々には、無数のツリーハウスが建ち並び、互いは木製の吊り橋で結ばれている。
――空中都市。
目の前に現れたのは、まさにその光景だった。
近づいてみると、ツリーハウスは二階建てから三階建てほどの立派な建物で、各棟からは梯子や縄ロープが地面まで伸びている。
時折、エルフたちが顔を覗かせ、こちらを窺う。
好奇心、警戒心、さまざまな感情が、その視線から伝わってくる。
地面には整然と整備された田畑やため池が広がっていた。
田には稲穂や麦が実り、畑には多彩な野菜や豆類が育つ。
かつての日本を思い起こさせるような、どこか懐かしい風景だった。
そして一行は森の奥、ひときわ大きな樹に設置されたツリーハウスへと案内された。
梯子を登り、内部へと足を踏み入れる。
そこには年老いたハイ・エルフから若々しい者まで、総勢十数名のハイ・エルフたちが並び、こちらを見据えていた。
エリシアは彼らに向かって、静かにハイ・エルフ語で告げる。
『長老方、ニース王国イーバラットより来た勇者を連れてきました。カールオ校長からの紹介状も所持しているとのことです』
長老の一人が応じる。
『ほう、カールオからか。森を飛び出して外の世界に出たが、まだ生きておったか』
『はい、ツーク国立学園の校長を務めているそうです』
『教育者とな……なるほどな。ではまず、その紹介状を拝見しよう』
『わかりました』
区切りをつけると、エリシアはこちらを振り向き、共通語で声をかける。
「紹介状をこちらに」
「はい」
俺はストレージから紹介状を取り出し、手渡す。
長老たちはそれを見て、互いに囁き合う。
『ストレージを使うとは、希少な術か……勇者である可能性もあるな』
『いや、まだ断定は早いかもしれぬ』
『まずは紹介状を読んでから判断せよ』
多言語理解と通話のスキルを持つ俺とレンカには、長老たちの言葉も理解できる。
一方、レオンハルトは理解できず、緊張した面持ちでその様子を見守っていた。
紹介状をエリシアに渡すと、彼女は一番年老いたハイ・エルフに手渡す。
長老は頷きながら読み進め、最後に他の長老たちに回す。
全員が目を通し終えた後、カーリオスという名の最年長の長老が、共通語で口を開いた。
「レオンハルト、ユーマ、レンカよ、エルフの都へようこそ。
わしはカールオの曽祖父にあたるカーリオスじゃ。
生憎、女王陛下は長い瞑想中でのう。会わせるわけにはいかんのじゃ」
レオンハルトは丁寧に頭を下げる。
「初めまして、レオンハルトと申します。
こちらはユーマとレンカ、共に旅をする勇者です。
そちらの事情は分かりました。
それと、カールオ校長には大変お世話になりました」
カーリオスは微笑を浮かべ、懐かしげに言う。
「あの破天荒なカールオが、ニース王国の最高学府の校長とはな。
元気にしておるか?」
「はい、優秀で人格者です。とても元気でした――魔王軍四天王に襲われるまでは。
現在は都市の復興に尽力しており、少々疲れた様子を見せています」
「そうか、たまには戻って顔を見せてほしいものじゃな」
そこに俺が口を挟む。
「でしたら、魔導通信具を持ってきています。顔を見ながら通話可能です。
いま話されますか?」
「ほう、魔導通信具とな。ぜひ話そう」
俺はストレージから魔導通信具を取り出し、カールオ校長を呼び出す。
やがて映し出された校長の顔は、空中に投影される。
『おお、カールオじゃ』『出て行った時と変わらぬな』と、しばし談笑が続く。
「カールオ校長、お久しぶりです。今、ハイ・エルフの長老方と接触しております。
直接お話されたいとのことで、カーリオス様と代わります」
エリシアに魔導通信具を手渡すと、彼女はカーリオスへと手渡す。
レオンハルトは言う。
「つもる話もあるだろう。私たちは一旦席を外す」
カーリオスが告げる。
「エリシア、彼らをテラスへ案内せよ」
「わかりました。こちらへ」
こうして案内されたテラスには外光が差し込み、穏やかな風が通る。
部屋を出る間際、ハイ・エルフたちは昔話に花を咲かせる声を交わしていた。
俺たちは用意されたテーブルに腰を下ろし、静かにその場の空気を味わった。
もし、面白い。
続きが気になる。
先を読みたい。
等のご希望があれば、下記の評価とブックマークをお願い致します。
作者の励みになります。
宜しくお願い致します。




