3-3 エルフの森:邂逅
草原の道を抜け、旅人たちは深き森の入口に立っていた。
梢が陽光を遮り、昼なお薄闇が漂う。
風の音すら掻き消されるような静寂――その不気味な沈黙に、誰もが自然と足を止めた。
「……妙に静かだな」
レオンハルトが呟く。
次の瞬間、森の奥から獣の咆哮が轟いた。
茂みを掻き分け、黒毛に覆われた異形の魔獣が姿を現す。
角を突き出し、牙をむき出しにして、一行へと突進してきた。
「来るぞ!」
俺たちは即座に臨戦態勢を取る。
だが――。
ヒュンッ!
鋭い風切り音が闇を裂いた。
一本の矢が疾走し、魔獣の眼を正確に射抜く。
巨体は呻き声を上げ、地を震わせて崩れ落ちた。
驚愕する一行の前に、木々の影からひとりの影が現れる。
長い銀髪が淡い光を受けて揺れ、尖った耳がその正体を物語っていた。
緑の外套をまとい、美しい弓を携えた細身の女性。
「森を荒らす魔獣は、許されない」
凛とした声が静寂を切り裂く。
彼女は弓を構えたまま、冷ややかな眼差しを俺たちに向けた。
「そして――このエルダリスの森に足を踏み入れたあなたたちも外の者。
答えなさい。何者で、何を求めてここに来たのか」
一行は顔を見合わせる。
レオンハルトが一歩前に出て、まっすぐ声を張り上げた。
「俺たち三人はニース王国の勇者だ!
七勇者の残り四名を探している。
この世界を救うために――仲間を求めて旅をしているんだ!」
彼女の眉がわずかに動く。
森に宿る精霊たちが囁きかけていた。
――その言葉に、偽りはない、と。
しばしの沈黙ののち、彼女は弓を下ろし、静かに名を告げた。
「私はエリシア。
森を護るハイ・エルフの一族に生まれし者。
……あなたたちの“勇者探し”に力を貸すかは、まだわからない。
だが、この森を抜けるまでは私が案内しよう」
月光のように静謐で、確かな導きを感じさせる声だった。
背を向けた彼女の姿には、森の気配そのもののような気高さが漂う。
「待ってくれ!」
俺は慌てて声をかけた。
「俺たちはエルフの勇者を探している。
イーバラットのツーク国立学園、カールオ校長から通行証と紹介状を預かってきた!」
エリシアの肩がピクリと反応する。
「……カールオ。分かったわ。長老のもとへ案内する。ついてきなさい」
そう言うと、彼女は小さく呟いた。
耳には届かぬはずの囁きが、森を震わせる。
次の瞬間、木々の間に新たな小道が現れた。
「こっちよ」
そう告げて先を行くエリシア。
俺たちは、置いていかれぬよう小走りでその後を追った。
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