3-2 道中で
黎明の光が、静かに大地を照らしていた。
湿り気を帯びた朝露が草原を染め、銀の輝きを返す。
その草の海を渡る風が、波のように揺らめく。
三人の若き旅人が、その道を進んでいた。
荷を背負い、槍と剣を携え、胸には冒険の始まりを告げる昂ぶりが宿る。
彼らの歩みはまだ軽く、空には新しい運命を映すような光があった。
前衛はレオンハルト。
中衛はレンカ。
そして後衛が、俺――ユーマだ。
レオンハルトは、四天王グラオルとの死闘を経て、雷属性の力を身に宿した。
その名も――雷迅剣術。
神速の反応と雷鎧化の加護を得た彼は、剣に雷を纏わせ、光に近い速度で斬撃を放つことができる。
さらに、全身を雷で包み込むことで防御を強化し、触れた敵を感電させる。
反射神経もまた神速の域に達し、まさに“雷帝”と呼ぶにふさわしい存在へと進化を遂げていた。
――だが、その力に武具が追いつかない。
鍛冶の国ドワーフに頼らねばならない、という意見も出たが、彼らは人族に対して強い偏見を抱いている。
何のつてもない状態で訪れれば、門前払いは確実だろう。
そこで、カールオ校長の助言どおり、まずはエルフの森を目指すことにした。
エルフもまた排他的な種族だが、今回は校長から通行証と紹介状を預かっている。
さらに、校長の遠縁――姪の孫の、そのまた玄孫が勇者候補の一人らしい。
もし運命が導くならば、四人目の勇者として仲間に迎えたい。
目的は定まり、方針は固まった。
俺たちは、エルフの森を目指して歩き出す。
……ただ、背後から忍び寄る“影”の気配を感じながら。
◆
そのころ――。
遥か彼方、黒き山脈の奥深く。
天を覆う瘴気の宮にて、七魔王の一角が目を開いた。
その瞳は血のように赤く、見る者の魂を凍らせる。
低く響く笑いが、冷えた空気を震わせる。
「勇者どもが、旅立ったか……」
闇の帳の中、音もなく姿を現したのは、細身の影妖クルス。
仮面のような顔に浮かぶ微笑は、読み取れぬほど薄く、不気味な静寂を纏っていた。
彼は一礼し、魔王の玉座に囁く。
「芽吹いたばかりの若枝は、折りやすいもの。
勇者を探す前に――道を見誤らせて差し上げましょう」
魔王の眼が赤黒く輝き、玉座の闇が脈動した。
「よい。 遊ぶがよい、クルス。
愚かな勇者どもが夢見る旅を……恐怖で塗り潰してやれ」
クルスは静かに笑い、その姿を黒煙のように掻き消した。
そして――草原を渡る風の中。
旅人たちの足跡をなぞるように、見えぬ闇が、音もなく忍び寄っていた。
もし、面白い。
続きが気になる。
先を読みたい。
等のご希望があれば、下記の評価とブックマークをお願い致します。
作者の励みになります。
宜しくお願い致します。




