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3-2 道中で

 黎明の光が、静かに大地を照らしていた。

 湿り気を帯びた朝露が草原を染め、銀の輝きを返す。

 その草の海を渡る風が、波のように揺らめく。


 三人の若き旅人が、その道を進んでいた。

 荷を背負い、槍と剣を携え、胸には冒険の始まりを告げる昂ぶりが宿る。

 彼らの歩みはまだ軽く、空には新しい運命を映すような光があった。


 前衛はレオンハルト。

 中衛はレンカ。

 そして後衛が、俺――ユーマだ。


 レオンハルトは、四天王グラオルとの死闘を経て、雷属性の力を身に宿した。

 その名も――雷迅剣術。


 神速の反応と雷鎧化の加護を得た彼は、剣に雷を纏わせ、光に近い速度で斬撃を放つことができる。

 さらに、全身を雷で包み込むことで防御を強化し、触れた敵を感電させる。

 反射神経もまた神速の域に達し、まさに“雷帝”と呼ぶにふさわしい存在へと進化を遂げていた。


 ――だが、その力に武具が追いつかない。


 鍛冶の国ドワーフに頼らねばならない、という意見も出たが、彼らは人族に対して強い偏見を抱いている。

 何のつてもない状態で訪れれば、門前払いは確実だろう。


 そこで、カールオ校長の助言どおり、まずはエルフの森を目指すことにした。

 エルフもまた排他的な種族だが、今回は校長から通行証と紹介状を預かっている。

 さらに、校長の遠縁――姪の孫の、そのまた玄孫が勇者候補の一人らしい。


 もし運命が導くならば、四人目の勇者として仲間に迎えたい。


 目的は定まり、方針は固まった。

 俺たちは、エルフの森を目指して歩き出す。


 ……ただ、背後から忍び寄る“影”の気配を感じながら。



 そのころ――。


 遥か彼方、黒き山脈の奥深く。

 天を覆う瘴気の宮にて、七魔王の一角が目を開いた。

 その瞳は血のように赤く、見る者の魂を凍らせる。


 低く響く笑いが、冷えた空気を震わせる。


 「勇者どもが、旅立ったか……」


 闇の帳の中、音もなく姿を現したのは、細身の影妖クルス。

 仮面のような顔に浮かぶ微笑は、読み取れぬほど薄く、不気味な静寂を纏っていた。


 彼は一礼し、魔王の玉座に囁く。


 「芽吹いたばかりの若枝は、折りやすいもの。

 勇者を探す前に――道を見誤らせて差し上げましょう」


 魔王の眼が赤黒く輝き、玉座の闇が脈動した。


 「よい。 遊ぶがよい、クルス。

 愚かな勇者どもが夢見る旅を……恐怖で塗り潰してやれ」


 クルスは静かに笑い、その姿を黒煙のように掻き消した。


 そして――草原を渡る風の中。

 旅人たちの足跡をなぞるように、見えぬ闇が、音もなく忍び寄っていた。

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