2-32 学園都市防衛戦:戦いの果てに
戦場を包んでいた轟音は止み、代わりに耳に痛いほどの静寂が訪れた。
崩れ落ちた巨体――戦鬼バルザグル。
その横には、満足そうな笑みを浮かべて横たわる獣王グラオル。
学園都市を脅かした二柱の四天王は、確かに討ち果たされたのだ。
「……勝ったのか?」
「や、やったのか……俺たちが……!」
生徒たちの声は震え、やがて歓声へと変わっていく。
城壁の上で剣を掲げるレオンハルトの姿に、誰もが歓呼を上げた。
一方その中央で、俺はレンカに事の経緯を説明していた。
「いやー実は、生前とあるボロ家の霊障を祓う仕事を引き受けてね」
「で!」
レンカの勢いに押されつつ、続ける。
「調べてみたら、酒呑童子様と茨木童子様が“鬼神化”して住み着いていたんだわ」
「……。」
「で、極上の酒――勝駒っていう、石川県の隣の富山県の酒なんだけど――それを献上したら、えらく気に入られてさ。お礼に神級料理を作って振舞ったら、式神になるって」
『そうだぞ嬢ちゃん。こいつといると美味い酒と飯にありつけると思ってな』
『有無』
レンカが疑問符を浮かべた顔になる。
「神様以外に神級料理を出しちゃ駄目じゃなかった?」
「いや、鬼神だぞ。鬼は鬼でも“神格持ち”の鬼だ。問題ないだろうと思って。まあ、人に害を与える存在じゃなくなっていたし」
「十二天将は?」
「そのまま引き継いで……今は影の中で待機してるようだね」
『ま、俺たちが加わって十四天将だがな』
「……そう。まあ良いわ。歓迎します、酒呑童子様、茨木童子様。私はユーマの婚約者のレンカです」
『有無。蓮花嬢ちゃんの転生体だな。神気交じりの気は間違いない』
『その通りだ。悠真が陰陽術を使ってくれたおかげでパスが繋がってな。これからよろしく頼む』
「それでか。式神召喚が失敗したから、この世界では陰陽術自体が使えないと思ってました。……まあ、レンカのおかげで一か八かやってみたんだけど」
「私の?」
「ああ、レンカの目がな。天界に転移した時の目を思い出させてくれて、それで」
『式神召喚は特殊な因果法則があるからな。まあ、人の子が知らんでいい法則じゃ』
「わかりました。とりあえず影に戻ってもらえますか? 人々が怖がってますから。後でこの都市で手に入れた酒精の強い酒を振舞います」
『承知した』『有無』
二柱の鬼神は影へと戻っていった。
そして前を見据えた――その時だった。
ふと、冷たい風が戦場を撫でる。
どこからともなく、低い笑い声が響いた。
「……ククク。なるほど、確かにあの二人を倒したか」
闇の中から現れたのは、影のように揺らめく人影。
全身を黒布で覆い、赤い双眸だけが妖しく光る。
「四天王、影妖クルス……!」
教師の一人が息を呑んだ。
クルスは嘲るように肩をすくめる。
「今回はただの観察だ。……だが覚えておけ。お前たちの勝利など、魔王軍にとって取るに足らん。真なる地獄は、これからだ」
次の瞬間、影は霧のように掻き消えた。
勝利の余韻に浸る生徒たちの胸に、冷たい恐怖が再び刻まれる。
それは確かに――“序章”に過ぎないと告げていた。
俺は静かに拳を握りしめる。
【……必ず、守り抜く。たとえ七魔王が相手でも――】
その誓いが、学園都市防衛戦の終幕と、新たなる戦いの始まりを告げていた。
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