2-14 監査官来訪と模擬戦事件
数日後。
学院に、王立本部からの特別監査官が到着する日がやってきた。
生徒会室の空気は、いつもより重い。
俺は書類の山を前に、無意識にペン先を回していた。
「……やっぱり緊張する」
レンカが小声でつぶやく。
「でも、準備は完璧だよ。監査官が何を言おうと、堂々とやるだけだ」
俺は軽く肩を叩く。
そこへ、静かに扉が開き、二人の監査官が入室した。
第一印象――若く、精悍な二人組。
ひとりは冷徹そうな黒髪の青年、もうひとりは沈着で物静かな女性。
制服からは高位魔導士の風格が漂う。
「ツーク国立学園・生徒会に来た。監査官、ファルクとミレーナだ」
黒髪の青年が低く告げ、書類に目を落とす。
レオンハルトが軽く頭を下げ、控えめに言った。
「お待ちしておりました。我々は、生徒会の任務に従い、全力で対応いたします」
監査官の視線が、俺とレンカに鋭く向けられる。
その刃のような眼光に、思わずレンカが息を飲んだ。
◆
監査は書類確認から始まった。
提出された予算案、魔力結界設計書、イベントスケジュール――
監査官は一つ一つ、淡々と目を通していく。
「……ふむ。書類に不備は見当たらない」
ミレーナの声は冷静だが、その目は鋭い。
だが、緊張はすぐに別の形をとった。
監査官ファルクの口から、突然の提案が飛ぶ。
「次は、実技確認を行う。模擬戦を一度見せてもらおう」
胸の奥で心臓が跳ねる。
生徒会の仕事は事務処理だけではないが、突然の“実技試験”は想定外だった。
「模擬戦……?」
レンカの声にも戸惑いがにじむ。
レオンハルトが問いかける。
「学院祭の魔導競技と関係あるのか?」
ファルクは冷たい笑みを浮かべ、答えた。
「書類だけでは力量はわからぬ。実際の動きと判断力を見せよ」
やむを得ず、生徒会は模擬戦の準備に取り掛かる。
俺は即座に戦略と結界配置を計算し、レンカも補助魔法の準備に入る。
レオンハルトは指示を飛ばし、全体を統率した。
戦闘フィールドは学院の中庭。
結界が張られ、観覧用の魔力席も設置される。
俺は深呼吸をひとつ。
目の前の光景を一瞬で読み取り、次の行動を決めた。
◆
戦闘開始。
俺は無詠唱で魔法を発動。
光のバレットが空を切り、風と炎が複雑に絡み合う。
レンカは支援魔法で結界を安定させ、攻撃軌道を補正。
レオンハルトは剣技で斬り込み、空間を切り裂いた。
監査官ファルクの目が光る。
「見事だ……予想以上だな」
ミレーナはメモを取りながら冷静に分析していた。
しかし、緊張の糸は張りつめたままだ。
魔法の衝撃で小石が飛び、結界が揺れる。
わずかな油断が、致命傷になりかねない。
◆
戦闘終了後、監査官は静かに評価を口にした。
「力量は文句なし。書類も完璧。だが、組織運営と判断力の面で課題がある」
その言葉に、俺とレオンハルトは視線を交わす。
「課題?」
レオンハルトが尋ねる。
「君たちは個々の力量は素晴らしい。だが、全体を統率する柔軟性がまだ足りぬ」
ミレーナが補足する。
「監査の目的は、派閥に偏らぬ“安定運営”の確認だ」
俺はゆっくりとうなずいた。
「……わかった。次はもっと見せてやる」
レオンハルトも微笑む。
「いいか、みんな。これからが本番だ」
◆
監査官が去った後。
中庭には安堵と興奮が入り混じる空気が漂った。
レンカが小さくつぶやく。
「でも、やっぱり怖かった……」
「怖さは、強さに変わる」
俺は静かに答える。
「俺たちは、誰のために戦うのか――忘れちゃいけない」
夕陽が学院の塔に影を長く落とす。
その光の下で、俺たちは新たな決意を胸に刻んだ。
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