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七人の勇者と婚約者殿~世界と異世界を救う絆の物語~  作者: 童爺
プロローグ:転生と試練の始まり
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0-2 切っ掛けと始まり

 映像の中では、ミスカトニック大学での一幕が映し出されていた。


 「ミスターユウマ、もう君に教えられることは何もない」

 「……そんな」

 「ヘンリー・アーミテイジ博士には話を通してある。 今後は禁書庫で魔導書を借り、自ら研究を進めなさい」


 その意味を誤解した俺は、失意のまま大学の図書館へ向かった。


 その背を見送りながら、ウォーレン教授は小さく呟く。

 「ふむ。 彼は日本人だったな。 英語が苦手な者も多い。 誤解していなければいいが……。 確か彼にはフィアンセがいたはず。 連絡して元気付けてもらうか」


 教授が去った後、柱の影から一人の男が姿を現す。

 東洋系の青年――李昊天リ・ハオティエンだった。


 彼は歪んだ憎悪を滲ませ、吐き捨てる。

 「そんな馬鹿な……あいつが認められただと? 次代のマスターテリオンはこの私だ! 気にくわない、あのジャップめ!」


 吐き捨てるように怒声を置き去りにし、足早に消えていった。



 場面は変わり、俺はアーミテイジ博士に案内され、大学最深部の禁書庫を訪れていた。


 「気に入った書物があれば貸し出そう。 後で私の研究室に来なさい」

 そう言い残し、博士は去っていった。


 膨大な数の魔導書が並ぶその空間は、まるで異界の図書館だった。

 中にはダミーの書も混ざっているようだ。


 俺はしばし思案し、手元の式神に命じる。

 「力のある魔導書を集めてきてくれ」


 式神が動き出すと、次々と書が舞い降りてくる。

 《ネクロノミコン》《エイボンの書》《妖蛆の秘密》《無名祭祀書》《ルルイエ異本》《セラエノ断章》《屍食教典儀》《法の書》。


 見る間に八冊が積み上がった。


 「『法の書』は……危険すぎる。 これは置いていこう」


 俺は七冊を抱えて博士のもとへ戻った。


 「随分、多く借りるのだな……なるほどな、ウォーレン教授が気に入るのも頷ける」

 「バックパックに入ると良いのですが」


 と俺が言うと、博士は軽く笑って言った。


 「教科書はもう不要だろう? それとも後で郵送するかね?」


 だが、俺はまたも言葉の意図を取り違え、肩を落とす。

 「……では郵送で。 基本は大事だと思っていますので」


 バックパックから教科書を取り出し、代わりに魔導書を詰め込む俺を見ながら、博士は小さく首をかしげた。


 「……何か誤解させたかもしれんな。 日本人は英語の細かいニュアンスが苦手だと聞く。 後でウォーレン教授に伝えておこう」

 と呟いた。



 場面は変わり、夜。

 俺は自宅で魔導書を片手に翻訳を進めていた。

 薄く発光する書の異変には、まだ気づいていなかった。


 そこへ、玄関のチャイムが鳴る。

 扉を開けると、そこには日本大使館の護衛数人と渡辺蓮花が立っていた。

 護衛は蓮花を残して帰っていった。


 蓮花を中に招き入れ、紅茶を淹れる。

 一口飲んだ彼女は微笑み、そして俺の誤解を静かに解いてくれた。


 教授たちの本意――「教え尽くした」という意味。

 それを知った瞬間、胸のつかえが取れ、喜びが込み上げた。


 「ありがとう、蓮花」

 思わず彼女を抱き寄せると、蓮花は「もう」と言いながらも、まんざらでもない様子で微笑んだ。


 「いつまでこちらに滞在できるんだ?」

 「京都大学に半年ほど短期留学の届けを出してあるわ。 しばらくお世話になるから、よろしくね」


 その穏やかな時間の裏で――。


 その頃、階下の部屋では李昊天が教科書を開き、歪んだ魔法陣を描き始めていた。

 呪文が口から零れる。

 彼は、炎の精クトゥグアを召喚しようとしていたのだ。



 そのシーンまで観ていて、ふと疑問に思った事を口走る。

 「彼は、一体何を。 あんなデタラメな魔法陣じゃいくら何でもクトゥグアを召喚出来ないはずだ」


 それに答えたのは、いつの間にか顕現したヤハウェだった。


 『彼は、君に強い嫉妬心を感じ、クトゥグアを召喚し上階にいる君達を焼き殺そうとしているのだよ。 まあ、君の見立て通り成功するはずが無かったんだがね。 続きを観なさい』


 そう言われて、映像に再び目を落とした。



 子どもの落書きを思わせるほど雑な魔法陣。

 だが、その魔法陣は光を放ち、次の瞬間には別の魔法陣へと書き換わっていく――その展開が自らの意図 と食い違っていることに、李は一瞬言葉を失った。


 だがやがて不気味な笑みを浮かべると、彼は低く呟く。

 「それもそうだ、私を認めぬ者どもは皆、葬る」


 邪悪な決意を呟き、アザトースを目覚めさせんと呪文を紡ぎ始める李。


 だがその頃、俺と蓮花はアパートの部屋の中央で、何か――異様な気配を感じ取っていた。

 次の瞬間、借りていた魔導書がふわりと宙へ舞い上がり、淡い光を放ちながら二人を包み込む。


 光が視界を埋め、瞼を閉じた次の瞬間――俺たちは天界に立っていた。

 白い空間のあの場所だ。


 一拍遅れて、世界はまどろみが溶けるように、静かに終わりへ向かっていた。

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