2-10 閑話(お茶会)
生徒会会長であるセディアス王太子の一言で、お茶会を開くことになった。
参加メンバーは、セディアス王太子と婚約者のイリーナ・グリモア公爵令嬢、レオンハルト・グランベルク侯爵子息とその婚約者リリアーナ・アルグレイン侯爵令嬢、そして俺――ユーマ・ヴァレンティア公爵子息と婚約者のレンカ・ルミナリア侯爵令嬢の計六名だ。
ちなみに俺の母セシリア・ヴァレンティアは王妹なので、セディアス殿下は従兄にあたる。
子供の頃からの付き合いもあり、気心が知れていて、兄のような存在だ。
当然、イリーナ様とも交流がある。
レンカとイリーナ様は気が合うらしく、姉妹のような関係だ。
レオンハルトはよく俺たちの面倒を見てくれるし、リリアーナ様はレンカと同じクラブに所属している。
何というか、身内だけのお茶会と言った雰囲気である。
◆
話題は座学試験や実技訓練の話から、ピンク髪の男爵令嬢の件、そしてメインである学園祭に至るまで多岐にわたった。
◆
セディアス殿下は、開口一番レンカを褒めた。
「レンカ嬢、座学での主席取得おめでとう。実技訓練は次席だったそうだが、大したものだ。
ユーマは座学が次席で、実技訓練は主席だったな。お互いに高め合うその姿勢は立派だ。これからも精進するといい」
レンカは扇で口元を隠しながら、
「ありがとうございます、殿下。これからもユーマ様と競い合い、時には協力しながら首位を保っていきたいと思います」
と、貴族令嬢らしい仕草で応じる。
「私も主席を奪還できるよう、座学に力を入れます」
と俺も続いた。
セディアス殿下は満足そうにうなずき、今度はレオンハルトに問いかける。
「レオン、座学はそこそこで実技訓練は主席か。あと一年で卒業だが、卒業後の進路は決まっているのかね?
リリアーナ嬢は文官になれるほどの成績を残しているようだが」
「セディアス殿下、私は騎士団に入ろうと思っています。いずれ殿下の側近になれるように精進いたします。リリアーナとは卒業後に結婚し、温かい家庭を築く所存です」
そんな婚約者を、リリアーナ様は柔らかな眼差しで見つめながら、扇越しに言う。
「はい、私もレオンハルトを支えられるよう、誠心誠意尽くします」
セディアス殿下は満足げにうなずいた後、話題を切り替えた。
「ところで、ピンク髪の男爵令嬢が最近、除籍され修道院に行ったようだが」
それに対し、俺は淡々と説明を加える。
「はい。高位の令息に対し、婚約者がいるにもかかわらず接触し破談に追い込むケースが多発したため、調査しました。
その令嬢は違法薬物で魅了効果のある粉末をクッキーに混ぜ、結果として婚約破棄に至る事例を繰り返していたようです。
親である男爵も加担していたため、男爵家は取り潰し、令嬢は修道院で一生幽閉されることとなりました。
現在、公爵家の影の者も動員し、違法薬物の取引先を割り出しています」
セディアス殿下は眉をひそめる。
「ふむ、修道院行きは手ぬるいのではないかね……国外追放が妥当だと思うが」
「どうも現実と妄想の区別がついていない様子で、国外追放すれば他国に迷惑をかけかねません。
そのため最も厳しい北の修道院へ隔離することになりました」
「具体的には?」
「この世界では自分が物語のヒロインだと信じており、邪魔をする婚約者を悪役令嬢扱いしているようです」
「……それは重症だな。
まあ、我々に被害が及ばずに済んだのは僥倖だ。
しかしヴァレンティア家の調査能力は相変わらず凄まじいな」
「いえ、今回は王国の影にも協力していただきました。事が事だけに国家を揺るがしかねませんし、私自身にも接触してきましたから」
「ほう、どう対処した?」
「例の違法薬物入りクッキーを押し付けられただけですが、そのおかげで事件が発覚しました。
得体の知れない物を食べる気はなかったので、調査に回しました」
「なるほど。それにしても、よくそのような者がこの最高学府に入学できたものだ」
「はい。裏金入学だったようです。現在、校長にも協力していただき、関与した職員を洗い出しているところです」
「そちらも国、もしくは公爵家の影が動いているのか?」
「はい、その通りです、殿下」
「判明次第、対処するように。……まったく、頭の痛い問題だな」
「はい、殿下」
殿下は一度息をつき、気分を切り替えるように言った。
「では、次は学園祭の話題に移ろうか」
殿下と俺は紅茶を一口飲む。
「レオンハルト、学園祭まであと三ヶ月だが、警備計画などを聞かせてもらおう」
「はい、殿下。学園祭当日は、私とユーマ、レンカ嬢を中心に、国王派と貴族派からそれぞれ七名ずつ人員を出してもらう予定です。
それとは別に、剣術研究会と魔法研究会からも八名ずつ派遣してもらうことになっています」
「うむ。当日は一般の招待客も来る。万が一問題が発生しても、迅速に対応できる体制を整えておいてくれ」
「はっ、殿下」
「それでは、お茶を楽しもう。今日の茶葉は特別に王家御用達のものを使用している。存分に味わってくれ」
その後はたわいのない会話を挟みつつ、俺たちはゆったりと紅茶を味わった。
もし、続きが読みたい等の場合、下記の評価とブックマークをお願い致します。




