後-3 エルフの都
エルフの森に到着した三人は、森の外れで簡易キャンプを張り、夕食の準備をしていた。
ユーマから借りた携帯型魔導調理器で、コトコトとスープを煮込んでいる。
この森では火器厳禁――精霊への配慮だ。
湯気が立ち上り、香りが広がった、その時。
「あら。どこかで見たことがあると思ったら……ユーマとレンカの娘の、ルーシアちゃんじゃない」
気配もなく現れた女性に、三人は一瞬遅れて振り返る。
――エリシア。
姿を現すまで、まったく気配を感じさせなかったあたり、さすが精霊の勇者である。
「エリシアお姉さま、ごきげんよう」
ルーシアが丁寧に挨拶するのと同時に、
「エリシアおばさん、こんにちは」
と、空気を読まないリオ。
「ご無沙汰しております」
と、セインが続く。
次の瞬間。
「……誰が、お・ば・さ・ん、ですって?」
エリシアは笑顔のまま、リオの顔を鷲掴みにした。
「いでででででっ!?」
リオの悲鳴が、森にこだました。
「ところでルーシアちゃん。スープを飲み終えたら、とりあえずエルフの都に寄りなさい」
「エリシアお姉さまもいかがですか? 豚汁を作ってみたのですけど」
「あら、美味しそうね。じゃあ、いただこうかしら」
ルーシアとセインはキャンプ用の椅子に腰掛け、エリシアと共に食事を始める。
リオだけは、未だアイアンクローの刑に処されていた。
◆
――エルフの都にて。
「カールオ校長から、エリシアお姉さま宛てに手紙を預かっています」
「あら。魔導通信でも良かったでしょうに。何かしらね」
封を切り、手紙に目を通すエリシア。
「あらあら……なるほど」
「何が書かれていたのですか?」とルーシア。
「そこの二人を、鍛え直してほしい……といったところかしら」
視線が、リオとセインに突き刺さる。
【ルーシアちゃんのスローライフ願望を直してくれ、なんて……無茶言うわね、カールオ様】
「……そういえば、私の姪も、ルーシアちゃんと同じで“スローライフ?”をしたいって言っていたわね」
その言葉に、ルーシアが即座に反応した。
「まあ! ここにも同士がいたのね!」
「ええ。私たちは諦めさせたいのだけれど」
「どうしてですか?」
「一人で生活するほど、スローライフは甘くないわ。そもそも、お風呂の石鹸はどうするの?」
「……それは、うーん」
「せめて人里に近い小山で、って説得しているのだけど」
その時――
「私のことですか、エリシア伯母様」
「だから伯母様呼びはやめてって言ってるでしょう、アーシェ」
「……でも、いえ。エリシアお姉さま」
現れたのは、エリシアによく似た美貌のハイ・エルフだった。
「ルーシアちゃん、この子はアーシェ。十五歳よ」
「えっ!? 同い年ですか? ハイ・エルフだから百五十歳くらいかと……でも、嬉しいかも」
「ルーシアさん、でしたよね? どうして?」
「私もスローライフをしたくて。でも両親に反対されているの。せめて実家の近くで、って」
「ああ……うちと同じね。あなたとは気が合いそうだわ」
「アーシェって呼んでいいかしら?」
「ええ、もちろん」
その様子を見て、エリシア、リオ、セインの表情が、そろって絶望的になる。
当人たちはお構いなしだ。
ルーシアとアーシェは、すっかり意気投合し、スローライフ談義に花を咲かせていた。
「……これは、ダリオの力も借りないと無理そうね」
そうして、ルーシアたちはエリシアの家に、一週間ほど世話になることになった。
だが、出発の直前。
エルフの森の出口付近に、ダークエルフの一団が潜んでいる――という報せが、精霊を通じて届く。
(これは、スローライフを諦めさせる絶好の機会ね)
エリシアは何も言わず、旅への同行を申し出た。
アーシェまで付いてきたのは誤算だったが――
ダークエルフとの実戦を経験すれば、二人とも自分の未熟さを知り、考えを改めるはず。
……そのはずだった。
だが、結果は真逆だった。
ルーシアが、ダブル・アイスレインとアイスランスで、あっさりと敵を蹴散らしたからだ。
「……魔法は、父親譲りなのね」
「接近戦もできますよ。母から、ショートスピアの扱いを習ったので」
そう言って、ストレージからショートスピアを取り出す。
ちょうど通りかかった魔獣を、レンカ譲りの槍捌きで仕留め、何事もなかったかのように解体していく。
アーシェは目を輝かせ、男性陣はわずかに震えていた。
アーシェは、いつの間にか「ルーシアお姉さま」と呼び始めている。
【……ルーシア、スローライフできそうだわ】
【問題は、男性陣ね。父親が勇者と剣聖なのに、これは……】
エリシアは、すっかり当初の目的を忘れていた。
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