後-1 切っ掛け
場所は、イーバラット学園都市にあるツーク国立学園。
すべては、リオ・グランベルクとセイン・ルミナリアの、いつもの言い争いから始まった。
「ルーシアは、将来俺と結婚するんだ!」
「婚約してないだろう。本人の意思を無視するんじゃない!」
もはや恒例行事のようなやり取りに、周囲の生徒たちは
(また始まったよ)
と言わんばかりの表情で、遠巻きに様子をうかがっている。
「だったら、本人に聞いてみればいい!」
リオが、いつもの調子でそう言って、勢いよくルーシアの方を振り向いた。
何度目かも分からない、余計な一言。
ルーシアは「フゥ〜」と、わざとらしく深いため息をついてから口を開いた。
「私――お父さんやお母さんより弱い人、嫌いよ?」
一瞬、空気が凍りついた。
「……お父さんとお母さんって、光の勇者と戦乙女だったよな」
「ああ、七人の勇者の中でも最強・最恐のカップルだぜ?」
「それに勝てそうなのって、ぶっちゃけ神様くらいじゃね?」
「ルーシア様、可愛くて美人なのに……一生独身か……」
好き勝手な囁きが広がる中、ルーシアは眉をひそめ、
「そこ、うるさい!」
と一喝した。
そして改めて、リオとセインの方を向く。
「そういうことだから、諦めてちょうだい」
有無を言わせぬ口調だった。
さらに、追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「それに私は、“すろーらいふ”?がしたいのよ。
ゆっくり、自活して生きていたいの」
「いや、それは……」とリオ。
「どこかに妥協点は……」とセイン。
だがルーシアは、ぴしゃりと言い切る。
「そんなもの、無い!」
そこで、リオが思いついたように声を上げた。
「だったら武者修行だ! もう三年生だし、実践訓練の代わりに武者修行って言えば、許可が下りるだろ?」
「抜け駆けはずるいぞ、リオ。俺も行く!」とセイン。
そして、二人そろって声を揃える。
「「一緒に行ってくれるよな、ルーシア!」」
「なんで、そんなくだらないものに付き合わなきゃいけないの?
行きたきゃ、二人で行きなさい!」
取り付く島もないとは、まさにこのことだった。
「「ぐぬぬぬ……」」
二人が唸っていると、そこへタイミングよく――いや、悪く――
カールオ校長が顔を出した。
「ちょうどいい。三人で、エリシアやダリオ、ミリア、それにカイル王に会ってきなさい」
「……は?」
「かつての、君たちの親の仲間だ。
この手紙を渡してきてくれないか?」
校長の手には、封をされた手紙があった。
ルーシアは露骨に面倒くさそうな顔をする。
「今どき、魔導通信でどうにかなるでしょうに」
しかし校長は、少しも動じずに続ける。
「スローライフを送るには、自活できなければなりません。
ルーシア、君は一人で炊事、洗濯、掃除ができますか?
家の使用人に頼りきりではありませんか?」
「……っ」
「ちなみに君の両親は、十二歳で二人暮らしを始め、すでに自活していましたよ」
その瞬間、教室はざわめきに包まれた。
「十二歳で同棲……?」
「羨ましすぎる……」
「さすが勇者……次元が違う……」
「まあ! とても真似できないわ」
「ルーシア様のご両親って、やっぱり規格外ね……」
完全に逃げ道を塞がれたルーシアは、観念したように肩を落とし、
「……分かったわよ。行けばいいんでしょ」
そして、リオとセインを鋭く睨みつける。
「そんなの、一人で十分よ。
そこのお馬鹿コンビは、足手まといだわ!」
「いや、一緒に行こうよ!」
「そうそう、旅は道連れって言うじゃないか!」
食い下がる二人に、校長は満足そうに頷いた。
「せっかくだ。三人で行ってきなさい。単位は免除しておく」
そう言って、手紙を四通と、エルフの森の通行書、紹介状をルーシアに手渡す。
「あー、分かりました!
そこの二馬鹿も連れて行けばいいんでしょ!」
こうして――
ルーシアにとっては不本意ながらも、
リオとセインにとっては待望の、
勇者訪問(という名の武者修行)の旅が、半ば強引に決まったのであった。
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