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七人の勇者と婚約者殿~世界と異世界を救う絆の物語~  作者: 童爺
短編:前日談~全ての始まり~
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前-10 拒絶する土地神

 任務地は、石川県郊外。


 地図にもはっきりと名前が載らない、小さな集落だった。


 舗装の甘い道路を抜け、車を降りた瞬間――


 空気が、明確に違った。


 【……ここは、嫌われているな】


 霊的な圧迫感ではない。


 むしろ逆だ。


 “閉じている”。


 人を拒み、外からの干渉を嫌い、


 それでいて――怒りきれていない。


 「なるほど……」


 俺は、深く息を吸い込んだ。


 土地そのものが、人間に対して“距離を取っている”。


 監察官の言葉を思い出す。


 ――害意は薄いが、意思がある。


 「戦う相手じゃないな」


 念話が重なる。


 『うむ。

 力で押せば、土地ごと壊れる』


 『主よ、これは“神の子供”じゃ』


 【子供、か】


 俺は、供物袋を肩に掛け直した。


 酒は持ってきていない。


 今回は、最初からそのつもりだ。



 問題の場所は、集落外れの、小さな森だった。


 かつては祠があったらしいが、今は崩れ、注連縄も朽ちている。


 ――それでも。


 木々は異様に元気で、地面には、不自然なほど雑草が生えていない。


 「……いるな」


 俺は、森の入口で立ち止まった。


 そして、ゆっくりと膝をつく。


 「こんにちは」


 声を張らない。


 名も名乗らない。


「今日は、あなたを追い出しに来たわけじゃない」


 風が、一瞬だけ止んだ。


 『ほう……』


 『最近の人の子は、最初から頭を下げるようになったか』


 声は、幼い。


 だが、確かに“神の響き”を持っていた。


 「ここにいる理由を、聞きに来た」


 沈黙。


 しばらくして、森の奥の空気が揺らいだ。


 『……人は、約束を守らぬ』


 『祠を壊し、名を忘れ、それでも“守れ”と言う』


 拗ねた声だった。


 怒りではない。


 悲しみでもない。


 ただ――諦め。


 「それでも、ここを守ってきた」


 俺は続ける。


 「人が来なくなっても、信仰が薄れても」


 『……当たり前じゃ』


 『ここは、わしが生まれた場所じゃ』


 子供のような気配が、森の中心に集まっていく。


 姿は見えない。


 だが、“見られている”。



「ひとつ、提案がある」


 俺は、供物袋から


 小さな包みを取り出した。


 それは――


 人用の、質素な弁当だった。


 「これは、俺が食べる分だ」


 ざわり、と空気が動く。


 「でも、もしよければ」


 包みを地面に置き、少しだけ後ろに下がる。


 「一緒に食べないか」


 『……は?』


 完全に、意表を突かれた反応。


 「神様に供える食事じゃない。

 ただの、昼飯だ」


 『……意味が分からぬ』


 「意味はない」


 俺は、素直に言った。


 「ただ、話しながら食べるだけだ」


 長い沈黙。


 やがて――


 森の中央に、小さな影が現れた。


 少年の姿。


 だが、足元は地面と溶け合っている。


 『……人の子』


 『おぬし、怖くないのか』


 「少しは」


 正直に答える。


 「でも、敵じゃないなら」


 少年神は、しばらく俺を見つめてから、ちょこんと弁当の前に座った。


 『……少しだけじゃぞ』



 その後の時間は、拍子抜けするほど静かだった。


 森のこと。


 昔の祭りのこと。


 人が減っていった理由。


 俺は聞き、否定しなかった。


 食事が終わる頃、少年神がぽつりと呟く。


 『……もう、追い払われると思っておった』


 「それはしない」


 『……なら』


 少年神は、少しだけ胸を張った。


 『人が来る時は、ちゃんと知らせる。

 無理は、せぬ』


 それで十分だった。



 帰り際、念話が飛んできた。


 『主よ』


 『やはり、おぬしは神に好かれる』


 【好かれてるというより……】


 俺は、森を振り返る。


 【見捨てられなかっただけだ】


 十一歳。


 力でねじ伏せるより、言葉で結ぶ方が難しいことを、少しだけ理解し始めた年だった。


 そして――


 この“対話の力”が、やがてもっと大きな存在と向き合う時、決定的な意味を持つことになる。


 その予感だけが、静かに胸に残っていた。

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