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七人の勇者と婚約者殿~世界と異世界を救う絆の物語~  作者: 童爺
短編:前日談~全ての始まり~
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前-6(下) 兆し

 蓮花の「異変」が、土御門家の中で言葉にされ始めたのは、その少し後のことだった。


 もっとも――


 誰かが明確に「力がある」と断じたわけではない。


 ただ、説明のつかない出来事が、少しずつ重なっていっただけだ。



 ある日の夕刻、屋敷の結界が、理由もなく一瞬だけ揺らいだ。


 侵入者もいなければ、術の干渉もない。


 老朽化と呼ぶには、結界はまだ新しすぎる。


 「……今の、何だったんだ?」


 当直の退魔士が首をかしげる中、結界の内側――


 庭の縁側に座っていた蓮花が、びくりと肩を震わせた。


 「……いやな感じ」


 小さく、そう呟く。


 「どこか、痛いのか?」


 俺が尋ねると、蓮花は首を振った。


 「ううん……

 ただ、空気が、変なふうに引っかかっただけ」


 その直後、結界は何事もなかったかのように安定した。


 原因は、最後まで分からなかった。



 別の日には、符を焦がす事故があった。


 本来なら霊力に反応して燃え尽きるはずの簡易符が、途中で消え失せたのだ。


 まるで、燃える必要がなくなったかのように。


 その場に居合わせたのも、蓮花だった。


 「……ごめんなさい」


 そう言って、彼女は小さく俯いた。


 「私、何か、悪いことした?」


 「いや、違う」


 父――現当主は、いつもより慎重な声で答えた。


 「お前は、何もしていない」


 だが、その目は、はっきりと警戒していた。



 そして決定的だったのは、夜中のこと。


 俺が目を覚ますと、隣で寝ていたはずの蓮花がいなかった。


 慌てて探しに出ると、彼女は屋敷の奥、結界柱のそばに立っていた。


 「蓮花!」


 「……悠真」


 彼女は振り返り、困ったように笑った。


 「ねえ、ここ……

 時々、苦しそうな音がするの」


 「音?」


 「うん。

 壊れてる、っていうより……

 無理して、同じ形を保ってる感じ」


 子どもの言葉だ。


 だが、退魔士なら誰もが知っている現象を、別の角度から言い当てていた。


 「私、触ったらだめだよね?」


 「……ああ。触らなくていい」


 俺はそう答えながら、胸の奥が冷えていくのを感じていた。


 蓮花は、術を知らない。


 理論も、手順も、何ひとつ教えられていない。


 それなのに――


 “見えてはいけないもの”に、気づいている。



 翌日、大人たちの間で短い話し合いが持たれた。


 「測定は?」


 「意味がない」


 「では、経過観察か」


 「……いや」


 現当主は、静かに首を振った。


 「これ以上、蓮花を前に出すのは危険だ」


 その視線が、次に俺へ向く。


 「悠真。

 お前は、予定を少し早める」


 「……?」


 「十歳の仕事だ」


 それ以上は、何も語られなかった。



 その夜、俺は蓮花と並んで布団に入っていた。


 「ねえ、悠真」


 「ん?」


 「私、変?」


 その問いに、迷いはなかった。


 「変じゃない」


 「……ほんと?」


 「ああ」


 俺は、そっと彼女の手を握る。


 「俺が一緒にいる」


 蓮花は、しばらく黙ってから、小さく頷いた。


 「……うん」


 その時はまだ、知らなかった。


 この“予定を早めた判断”が、


 酒呑童子と茨木童子という、想定外の存在と出会う引き金になることを。


 そしてそれが――


 俺の退魔士としての立場を、決定的に変えることになるということを。

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