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七人の勇者と婚約者殿~世界と異世界を救う絆の物語~  作者: 童爺
短編:前日談~全ての始まり~
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前-5 蓮花の力の片鱗と、周囲の動揺

 それは、何かが「起きた」と言えるほど明確な出来事ではなかった。


 だが、土御門家の大人たちは、確かに気付いてしまった。


 ――この少女は、ただの退魔士の血筋ではない。



 最初の異変は、朝の清めの儀だった。


 当主と数名の術者が中庭に結界を張り、屋敷全体の穢れを祓う、定例の儀式。


 本来、子どもは立ち入らせない。


 だがその日、蓮花はどうしても俺のそばを離れようとしなかった。


 「大丈夫だよ。怖くない」


 「ううん……ユーちゃんが一緒なら、平気」


 手を握ったまま、少し離れた回廊から儀式を見守っていた。


 祝詞が唱えられ、

 霊符が風に舞い、

 清浄な霊力が屋敷を満たしていく。


 ――その、はずだった。


 「……?」


 詠唱していた術者の一人が、声を詰まらせた。


 霊符の動きが、微妙に乱れている。

 

 風の流れではない。


 術式の誤りでもない。


 何かが、上書きしている。


 「当主……これは……」


 「静かに」


 当主の目が、俺たちの方へ向けられた。


 正確には――


 俺の隣に立つ、蓮花へ。


 彼女は、何もしていない。


 ただ、少し不思議そうに、空を見上げていただけだ。


 「……きれい」


 その一言と同時に。


 結界の光が、一瞬だけ、色を変えた。


 白でも、青でもない。


 言葉にしがたい、柔らかな輝き。


 まるで、祝詞そのものが、別の“意味”を帯びたかのようだった。


 術式は、成功した。


 いや――

 成功しすぎた。


 穢れは完全に消え、結界は通常よりもはるかに安定していた。


 だが、その場にいた全員が、沈黙していた。



 儀式の後、俺と蓮花は別室に通された。


 当主、師、そして数名の古参術者。


 空気は重いが、敵意はない。


 「蓮花嬢」


 当主が、穏やかな声で呼びかけた。


 「先ほど、何か感じましたか?」


 「……?」


 蓮花は首を傾げた。


 「なんだか……

 “こうしたほうが、きれい”って思っただけです」


 術者の一人が、息を呑む。


 「……それだけ、ですか?」


 「はい。それだけ」


 嘘はない。


 本人も、本当に分かっていない。


 当主は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。


 「悠真」

 「はい」


 「お前は、何か感じたか?」


 「……霊力が、勝手に整った感じはしました」


 「だろうな」


 沈黙。


 やがて、年かさの術者が口を開いた。


 「当主。

 この力は……退魔ではありません」


 「分かっている」


 「では――」


 「だが、排する理由もない」


 その言葉に、空気が少し和らいだ。


 当主は、蓮花に視線を戻す。


 「蓮花嬢。

 恐れることはない」


 「……はい」


 「ただし、しばらくは力の自覚を促すため、

 悠馬と共に、基礎から学んでもらう」


 蓮花は、俺の手をぎゅっと握った。


 「一緒なら、頑張れる」


 「ああ。一緒だ」


 その様子を見て、誰かが小さく呟いた。


 「……やはり、対なのか」



 その日の夜。


 蓮花は、珍しく眠る前に口を開いた。


 「ねえ、ユーちゃん」


 「どうした?」


 「私ね……

 誰かを傷つける力なら、いらない」


 「うん」


 「でも……

 守れる力なら、欲しい」


 俺は、彼女の額にそっと手を当てた。


 「それなら、十分すぎるほど持ってるよ」


 「……ほんと?」


 「ああ。

 少なくとも、俺はもう守られてる」


 蓮花は、少し考えてから、微笑んだ。


 「じゃあ、いいや」


 その言葉に、俺はなぜか、胸の奥が少しだけ冷えた。


 ――この力は、“守る”だけで済むのだろうか。


 屋敷の外では、風が鳴っていた。


 それは、嵐の前触れのようにも、あるいは、運命が動き出す音のようにも聞こえた。


 大人たちは、確信していた。


 この婚約は、政略ではない。


 偶然でもない。


 何か大きな流れが、すでに始まっている。


 そして、その中心には――

 まだ幼い、二人の子どもがいた。


 静かに、確実に。


 世界は、次の段階へ進もうとしていた。

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