前-1 回想録
俺はこと悠真は、今年で七歳になる。
苗字は山本だ。
石川県金沢市では、ありふれた苗字で、特別な意味を持つものではない。
近所に、七歳年上の中村蓮花というお姉さんがいる。
子どもの頃からよく面倒を見てもらっていて、俺にとっては憧れのお姉さんだった。
もっとも、蓮花――レン姉は、俺のことを「手のかかる弟分」としか思っていなかったようだ。
それでも、俺はレン姉が大好きだった。
そんなレン姉とよく一緒に行ったのが、近所にある瀬織津姫神社だ。
小さな神社だが、境内はいつも静かで、風が吹くと木々がやさしく音を立てる場所だった。
レン姉と一緒に御菓子をお供えしたあと、近くの公園で遊ぶのが、俺たちの日課だった。
レン姉が高校生になり、俺がまだ小学生だった頃、レン姉は瀬織津姫神社で巫女さんのアルバイトをするようになった。
白衣に朱色の袴姿のレン姉は、子ども心にもはっとするほど綺麗で、俺は密かにときめいていたのを覚えている。
そんなレン姉もやがて大学生になり、県外へ進学していった。
それから結婚し、しばらくして――金沢に戻ってきた。
妊婦なのに、体中に痣を作って。
話を聞けば、結婚した旦那のDVが酷いらしい。
それでも、お腹の赤子を流すことだけは耐えられなかったのだという。
だからレン姉は、逃げるように金沢へ戻ってきたのだ。
だが、そのDV野郎は、レン姉を追って金沢まで来ていた。
執拗にレン姉をいたぶる様子から、すぐに警察沙汰となり、旦那とは離婚することになった。
そしてレン姉は、しばらくの間、俺の家に身を寄せることになった。
理由は簡単だった。
元旦那が、完全なストーカーになったからだ。
すべての原因は自分にあるくせに、責任転嫁をしてレン姉を尾行するようになった。
曰く、職を失ったのも、マンションを出ざるを得なくなったのも、何もかもレン姉のせいだと言い張るのだ。
その歪んだ執着は、日を追うごとに激しさを増していった。
ある日――どうやって突き止めたのか、そいつは我が家にまでやって来た。
玄関先で怒鳴り散らし、「蓮花を出せ」と騒ぎ立てた。
当時、高校生になり合気道を始めていた俺は、正直、天狗になっていた。
「レン姉は、俺が守るんだ」
そんな青臭い正義感に突き動かされ、前に出た。
だが、現実は甘くなかった。
元旦那にバールで殴られ、打ち所が悪く――
俺は、そのまま天に召された。
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