4-45 ナイアーラトテップ:三択
地獄の平原――
黒い岩と赤い溶岩が絡み合う、不吉な空間。
俺たち七勇者、四大天使、そして復活したルシフェルを加えた総勢十二名は、
サタンの今わの際に聞こえた声――
『しょせん、貴様も我の駒にすぎぬ……!』
――その主がいる方向へと進んでいた。
だが、進むにつれて景色は次第に異様さを増していく。
無数の黒い水晶が林立し、その内部には悪魔たちが封じられていた。
ベルゼブブ、アスタロト、バール、ベリアル――いずれも名だたる上級悪魔ばかりだ。
しかも、その一体一体が、
かつてサタン――ルシフェルの肉体を奪っていた時の力に匹敵する。
俺たちはその光景を前に、言葉を失う。
この先には……
これら上級悪魔すら凌ぐ、何かが待っているというのか――。
その時だった。
『よく来たな、エルダーゴッドの先兵ども』
声のする方を見やる。
次の瞬間、俺とレンカ以外の勇者たち、四大天使、そしてルシフェルの動きが完全に止まった。
そこにいたのは――
形容し難い姿をした、一体の“神”。
いや、神という言葉ですら、生温い。
『我はナイアーラトテップ。
這いよる混沌、アザトースの使者とも呼ばれる存在。
汝らが言うところの、邪神の一柱だ』
その名と存在感に、正気を保てなくなりそうになる者もいた。
だが――
俺とレンカは、互いに視線を交わし、無言で頷き合うと、一歩前に出る。
『ほう……我を前にして動けるとは。
何者だ? ただの人間ではあるまい』
「ええ。私たち、ちょっとヴァルハラで神々と二千年近く――
いえ、たぶんそれ以上修行していたので、神なれしてるんですよ」
『……なに?』
「さて――三つの中から、好きな方を選んでください」
そう言って、俺は式神――十四天将を一斉に召喚する。
さらに、クトゥグアの召喚魔法陣を展開。
最後に、輝くトラペゾヘドロンと、それが収められた箱をストレージから取り出した。
「もう、言わなくても分かりますよね?」
「十四体の神々と戦うか。
貴方の天敵であるクトゥグアに喰われるか。
それとも――このトラペゾヘドロンに封印されるか」
「三択です。好きなのを選んでください」
『馬鹿な!
ただの人間ごときが、なぜそんな力を――!』
その瞬間、地獄の空にエルダーサインが浮かび上がる。
『その問いに、答えよう』
響いたのは、ヤハウェ様の声だった。
『貴様……!』
『彼らの体には、アダム試作零式とイブ試作零式が融合してある。
もはや神に限りなく近い存在……亜神だ』
『なっ……』
絶句するナイアーラトテップに、さらに追い打ちがかかる。
『さあ、ユーマの言う三択から選べ。
もはや、汝に逃げ場は無い』
「さあ、どうぞ。
俺、気が短いので――選ばないなら三つ全部いきますよ?」
『ま、待て……!
ト、トラペゾヘドロンだ!
封印されてやるから、有難く思え!』
そう叫ぶと同時に、ナイアーラトテップは自らトラペゾヘドロンへと吸い込まれていった。
俺は輝くトラペゾヘドロンを箱に戻し、
蓋を開けたまま、辛うじて動けるルシフェルに託す。
「箱の蓋は閉めないでください。
中のトラペゾヘドロンには、常に太陽の光を当て続けてください。
そうしている限り、封印は解けないでしょう」
ルシフェルは静かに頷き、箱を受け取った。
「せっかく“ナイアーなんとか”をボコって活躍できると思ったのに……
正直、不完全燃焼だな」
鬼神化した酒呑童子がそう呟くと、式神たちも揃って頷く。
一方で、クトゥグアの魔法陣は今にも破られそうだったため、
俺は慌てて魔法陣を解除した。
「さて……全部終わったな。
帰って風呂入りたい。
その後は、宴会かな?」
「そうね。
十四天将の皆さんも不完全燃焼でしょうし。
エルフ酒……日本酒だけど、樽でたくさんありますよ」
「流石だな、主殿とその婚約者殿。話が早い」
「料理は神級で用意します。
他の皆さんは帝級で。
ルシフェル様たちは、どうされます?」
「我らは天界へ戻ろう。
このトラペゾヘドロンを、確実に神々へ届けねばならぬ。
酔って蓋を閉めてしまっては、元の木阿弥だからな」
「了解です。じゃあ凱旋しますか、レンカ」
「ええ、トーマ」
そう言って帰ろうとするが――
動けない者たちが九名残っていた。
五人の勇者と、四大天使である。
未だ状況を整理できていないのか、
あるいは正気を保つのに必死なのか。
「レンカ、正気度回復の魔法ってある?」
「残念ながら無いわね。
自力で戻ってもらうしかないわ」
「そっか。
じゃあエルダーゴッドの皆さんにも、戻ってから神棚で酒と料理を供えますね。
それじゃ、失礼します!」
四大天使たちは、ルシフェルに引っ張られる形で天界へと帰還。
残った五人の勇者は――
式神たちに担がれ、運ばれていくのだった。
ここで、1-2の伏線回収です。
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