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七人の勇者と婚約者殿~世界と異世界を救う絆の物語~  作者: 童爺
第2章 学園都市イーバラット
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2-5 入学式

 入学式当日、俺とレンカは、学園都市の貴族街に購入した一軒家から歩いてツーク国立学園へ向かう。

 ツーク国立学園は元々、貴族子女のために建てられた学園で、貴族街の中央に位置している。

 家からは歩いて行ける距離だ。


 昨日から新入生の挨拶文を考えていて、少し寝不足だ。

 だが、緊張感もあって眠くならない。


 「ユーマ、大丈夫? 貴方でも緊張することがあるのね」


 隣を歩くレンカが、そんなことを言う。


 「大勢の前でスピーチなんて、やったことがないからね。ちょっと緊張してる」


 素直にそう答えると、


 「まあ、案ずるより産むが易しよ? ユーマなら大丈夫。私が保証するし、支えるからね?」


 と励ましてくれた。


 「ありがとな。いつもレンカには助けられているよ」


 歩くこと約十分、ツーク国立学園が見えてくる。


 ――王国が誇る最高学府にして、未来の貴族や騎士、魔術師などを育てる象徴的存在。


 朝靄の中、その尖塔が金色の光を受けて輝いていた。


 学院の大講堂は、入学式を迎えた新入生とその家族、そして在校生たちで埋め尽くされていた。

 煌びやかな制服の群れ。

 貴族の紋章や裕福な平民の家紋章が誇らしげに胸元で光る。


 受付で案内された中央列に、俺とレンカは座る。

 レンカは緊張した面持ちながらも、毅然とした気品を漂わせていた。


 「やっぱり、壮観だな……。少し見られている気がするが」


 俺が小さく息を漏らすと、レンカは微笑する。


 「ヴァレンティア公爵家ともなれば、注目されるのも当然です」


 「いや、今は君のほうが視線を集めてるよ」


 「……そういう軽口、貴族の場では慎んだ方がよろしいですよ?」


 「忠告ありがとう。気をつける」


 淡い会話が、少しの緊張を和らげた。


 やがて壇上に、在校生代表として一人の青年が歩み出る。

 金髪を短く束ね、紺の礼服を完璧に着こなした長身の青年――レオンハルト・グランベルク。


 その存在感だけで空気が引き締まる。

 王国三大侯爵家の一角を担う名門の嫡男にして、生徒会副会長。

 まさに若獅子と呼ぶに相応しい。


 「新入生諸君、入学おめでとう。これより始まる学院生活が、諸君の誇りと成長の証となることを願う」


 落ち着いた低音が講堂全体に響き、その言葉の端々には、強さと温かさが同居していた。

 俺は、知らぬ間に背筋を伸ばしていた。


 ――この男、只者ではない。


 そして新入生代表として名前を呼ばれたのは、ユーマ・ヴァレンティア。

 大勢の視線を受けながらも、俺の足取りは揺るがなかった。


 「本日この場に立てたこと、誇りに思います。私たちはそれぞれの家の名を背負いながら、同時に一人の学徒としてここに集いました。学び、鍛え、そして――互いを高め合うことを誓います」


 短く、しかし堂々とした言葉。

 その最後、ほんの僅かに指先を上げ、詠唱なしで光の粒を空に描いた。


 ――無詠唱発動。魔力制御の象徴。


 その一瞬、会場がざわめく。

 だが俺は何事もなかったかのように微笑み、礼をして壇を下りた。


 レンカの唇がわずかに動く。


 「……やりすぎですわよ、ユーマ」


 「目立たないようにしたつもりだったんだがな」


 肩を竦める俺に、周囲の生徒たちは半ば呆然としていた。


 式典の後半、王太子セディアスが祝辞を述べる。

 黄金の髪と蒼い瞳、まさに王族の象徴。


 「この国の未来は、若き才に託される。皆がそれを体現する者であれ」


 その言葉に、自然と拍手が起こった。


 講堂を後にした俺とレンカは、中庭で人々の視線を集めていた。

 「ヴァレンティア家の嫡男だ」「あれが例の無詠唱の……」と囁きが飛び交う。


 俺は肩を竦め、


 「注目されるのは性に合わないな」


 と呟く。

 レンカは「自業自得です」と淡く笑った。


 そこへ背後から明るい声が響く。


 「君がユーマ・ヴァレンティアだな?」


 振り返ると、先ほど壇上に立っていたレオンハルトが立っていた。

 近くで見ると、その瞳は澄んだ灰色で、真っすぐに相手を見つめる強さを持っている。


 「俺はレオンハルト・グランベルク。生徒会副会長を務めている。――見事な挨拶だった」


 「お褒めにあずかり光栄です、グランベルク先輩」


 「堅いな。レオンで良い」


 「では、レオン先輩で」


 互いに軽く笑みを交わす。

 その自然さが、周囲の空気を柔らげていた。


 レオンハルトはレンカにも視線を向ける。


 「君がルミナリア侯爵家のご令嬢だね。君の魔法論文は読ませてもらった。見事だった」


 「お読み頂いたなんて光栄ですわ」


 と、レンカは貴族の子女らしい言葉遣いで答える。


 「校長の長話は疲れただろう? 教室で受講する選択科目を決めたら、帰ってゆっくりすると良い」


 その場の空気が和む。


 「君たちの親御さんが来たようだ。ではこれで失礼するよ。また後日」


 そう言って、レオンハルトは颯爽と去っていく。


 入れ替わりに、俺とレンカの両親が顔を見せた。


 最初に口を開いたのは、俺の父、ユリウス・ヴァレンティアだ。


 「ユーマ、少しやり過ぎだ。レンカ嬢、苦労を掛けると思うが、このバカ息子を宜しく頼む」


 レンカは頬を少し染めながら、


 「はい、承知いたしました、閣下」


 と返事をする。


 「あら、レンカちゃん、閣下だなんて今更よ。幼い頃から家族同然の付き合いをして、将来は正式な家族になるのですからね。まあ今すぐでも構いませんけど」


 と母のセシリアは言う。


 「まだ十二歳なんだから、ちょっと気が早いよ」


 と俺が言うと、別の角度から援護射撃が飛ぶ。


 「早くはないよ。籍だけでももう入れたらどうかね、ユーマ君」


 と言ったのはレンカの父、アルト・ルミナリア。


 「そうね、早く私たちを安心させてね」


 とレンカの母、レティシア。


 「……卒業までは同棲生活だけじゃ駄目ですか?」


 と返すが、多勢に無勢。

 レンカはというと、ずっとモジモジしている。


 「まあまあ、それより後で久しぶりに一緒に食事でもどうかな」


 とカバーしてくれたのはアレン。

 レンカの兄で、ツーク国立学園出身、イーバラット学園都市に配属されている騎士だ。

 今日は妹の入学式のために休んで駆けつけてくれた。妹思いの良い兄である。


 「そ、そうだね。これから教室へ行って選択科目を決めたら、久しぶりに別邸で食事にしよう」


 と、俺はアレンの提案に乗っかる。


 結局、選択科目を決め終えた俺たちは、その後、ヴァレンティア家の別宅で、二家族そろっての久しぶりの食事を堪能した。

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