4-14 vs 強欲(虚飾)の魔王ヴェリティア:前哨 虚飾の塔と位置特定札
砂上船は砂漠の熱気と風を帆に受け、蜃気楼の塔へと近づいていく。
黄金の砂が船底を擦るたび、低く規則的な音が響き、群青の夜空と対照的な静けさが広がった。
砂漠――蜃気楼の海を越えた先に佇む《虚飾の塔》。
蒼地に鏡と白い仮面を描いた旗が揺れ、外壁は砂塵に揺らぎ続けて、まるでそこに立つ塔そのものが幻ではないかと思わせるほど、不確かな光を放っていた。
塔が見えた瞬間、俺の胸に静かな緊張が満ちていく。
俺はレンカの手を一度、短く握りしめ、深く息を吸い込んだ。
突入の準備は緻密に進めてきた。
――だが、俺には戦術以外の、もっと個人的な備えがあった。
◆
蜃気楼の塔の根元に到着すると、俺は仲間たちの前で立ち止まった。
「明日から塔に突入する。
構造は予測不能だ。
もし分断されたら……互いの位置をすぐに把握できるようにしておきたい」
そう言って、俺は陰陽術で作り上げた小さな札を一人ひとりへ手渡していく。
「これは塔の中でも位置を共有できる札だ。
俺の霊力と魔力を符に紐づけてある。
誰かが危険に陥れば――俺は即座に察知できる」
レンカは受け取った札を胸元で握りしめ、少し照れたように笑った。
「……ユーマ、ほんとに心配性だよね」
「当然だろ。レンカが無事じゃなきゃ、俺の心がもたない」
ふたりの視線が交わり、船内の張りつめた空気がわずかに和らぐ。
レオンハルトやダリオもエリシアも、ミリアもカイルも静かに札を受け取り、互いに短く頷き合う。
その小さな札は、言葉以上の安心を、確かに全員へ行き渡らせていた。
「アナスタス戦ではミリアが一人だけ転移させられた。
……魔王たちは俺たちを個別に狙ってくる傾向がある。
念には念だ」
そう言うと皆は一様にうなずき、甲板へ次の作戦のために上がっていく。
残ったエリシアが問いかける。
「その判断の根拠は?」
賢者らしい冷静な視線を向けられ、俺は短く答えた。
「……憶測だ。だが、憶測で終わればいい」
エリシアは受け取った札を指でなぞり、ふっと笑った。
「なるほど。
では、ありがたく使わせてもらうよ。
……まあ、本当に使わないのが最善だけれど」
「ああ、そうだな」
そこへ、甲板から仲間の声が響いた。
「おーい! ユーマ! そろそろ行くぞ!」
会議の時間だ。
「……行くか」
「そうね。
私は先に行くわ。
あなたは可愛い婚約者殿とゆっくり来なさい」
そう言ってエリシアはひらりと手を振り、先へ歩いていく。
俺は隣の少女へ視線を向けた。
「レンカ、行こう」
「うん……でも、その前に」
レンカは俺の手をぎゅっと握りしめた。
その強さは、普段の彼女からは想像もつかないほど必死だった。
「無理だけはしないで。
あなたを……失うことだけは、本当に耐えられないから」
飾らない、本音そのもの。
その気持ちが、真正面から痛いほど胸に刺さる。
「大丈夫だ。……絶対にお前を一人にはしない」
そう告げ、二人は並んで歩き出す。
指を解いたのは、船室の扉に辿りついた時だった。
甲板から差し込む光が、ふたりの影をゆっくり分けていく。
外の世界は戦場に向かって進み続ける。
だが、今まで握っていた手の温もりが、俺の中の恐怖を静かに溶かし始めていた。
【――大丈夫だ。俺は、もう折れない。
レンカがいる限り、俺は何度だって立ち続けられる】
砂上船は、幻と現の境界に揺らめく《蜃気楼の塔》へと進む。
戦いは近い。
不安も恐怖も確かにある。
――それでも。
隣には、自分が世界でいちばん信じている存在がいる。
ならば。
虚飾の魔王ヴェリティアが相手でも、俺が背を向ける理由は、どこにもない。
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