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4-14 vs 強欲(虚飾)の魔王ヴェリティア:前哨 虚飾の塔と位置特定札

 砂上船は砂漠の熱気と風を帆に受け、蜃気楼の塔へと近づいていく。


 黄金の砂が船底を擦るたび、低く規則的な音が響き、群青の夜空と対照的な静けさが広がった。


 砂漠――蜃気楼の海を越えた先に佇む《虚飾の塔》。


 蒼地に鏡と白い仮面を描いた旗が揺れ、外壁は砂塵に揺らぎ続けて、まるでそこに立つ塔そのものが幻ではないかと思わせるほど、不確かな光を放っていた。


 塔が見えた瞬間、俺の胸に静かな緊張が満ちていく。


 俺はレンカの手を一度、短く握りしめ、深く息を吸い込んだ。


 突入の準備は緻密に進めてきた。


 ――だが、俺には戦術以外の、もっと個人的な備えがあった。



 蜃気楼の塔の根元に到着すると、俺は仲間たちの前で立ち止まった。 


 「明日から塔に突入する。

 構造は予測不能だ。

 もし分断されたら……互いの位置をすぐに把握できるようにしておきたい」


 そう言って、俺は陰陽術で作り上げた小さな札を一人ひとりへ手渡していく。


 「これは塔の中でも位置を共有できる札だ。

 俺の霊力と魔力を符に紐づけてある。

 誰かが危険に陥れば――俺は即座に察知できる」


 レンカは受け取った札を胸元で握りしめ、少し照れたように笑った。


 「……ユーマ、ほんとに心配性だよね」


 「当然だろ。レンカが無事じゃなきゃ、俺の心がもたない」


 ふたりの視線が交わり、船内の張りつめた空気がわずかに和らぐ。


 レオンハルトやダリオもエリシアも、ミリアもカイルも静かに札を受け取り、互いに短く頷き合う。


 その小さな札は、言葉以上の安心を、確かに全員へ行き渡らせていた。


 「アナスタス戦ではミリアが一人だけ転移させられた。

 ……魔王たちは俺たちを個別に狙ってくる傾向がある。

 念には念だ」


 そう言うと皆は一様にうなずき、甲板へ次の作戦のために上がっていく。


 残ったエリシアが問いかける。


 「その判断の根拠は?」


 賢者らしい冷静な視線を向けられ、俺は短く答えた。


 「……憶測だ。だが、憶測で終わればいい」


 エリシアは受け取った札を指でなぞり、ふっと笑った。


 「なるほど。

 では、ありがたく使わせてもらうよ。

 ……まあ、本当に使わないのが最善だけれど」


 「ああ、そうだな」


 そこへ、甲板から仲間の声が響いた。


 「おーい! ユーマ! そろそろ行くぞ!」


 会議の時間だ。


 「……行くか」


 「そうね。

 私は先に行くわ。

 あなたは可愛い婚約者殿とゆっくり来なさい」


 そう言ってエリシアはひらりと手を振り、先へ歩いていく。


 俺は隣の少女へ視線を向けた。


 「レンカ、行こう」


 「うん……でも、その前に」


 レンカは俺の手をぎゅっと握りしめた。


 その強さは、普段の彼女からは想像もつかないほど必死だった。


 「無理だけはしないで。

 あなたを……失うことだけは、本当に耐えられないから」


 飾らない、本音そのもの。


 その気持ちが、真正面から痛いほど胸に刺さる。


 「大丈夫だ。……絶対にお前を一人にはしない」


 そう告げ、二人は並んで歩き出す。


 指を解いたのは、船室の扉に辿りついた時だった。


 甲板から差し込む光が、ふたりの影をゆっくり分けていく。


 外の世界は戦場に向かって進み続ける。


 だが、今まで握っていた手の温もりが、俺の中の恐怖を静かに溶かし始めていた。


 【――大丈夫だ。俺は、もう折れない。

 レンカがいる限り、俺は何度だって立ち続けられる】


 砂上船は、幻と現の境界に揺らめく《蜃気楼の塔》へと進む。


 戦いは近い。


 不安も恐怖も確かにある。


 ――それでも。


 隣には、自分が世界でいちばん信じている存在がいる。


 ならば。


 虚飾の魔王ヴェリティアが相手でも、俺が背を向ける理由は、どこにもない。

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