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リュウと海底都市の物語  作者: 松本遊心


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5/7

—5

 居住区に戻るころには、外壁照明が夜モードに切り替わっていた。ドーム内の人工海流が静まり、遠くの整備ラインから機械の低い駆動音だけが響く。

 リュウは自分の部屋のベッドの縁に腰掛けると、大きく息をついた。壁には旧式潜航艇の模型、棚にはさまざまな整備工具、そして観葉プラントがある。海底の街にあっても、緑を見ると気持ちが落ち着いた。

 ここ数日は、あの映像が脳裏にこびりついて離れない。情報量が多すぎて、何をどう考えて整理すればいいのかがわからなかった。

 あからさまに様子がおかしいリュウに、当然、ケインとリーサが質問攻めにしたが、いずれ説明するから、もう少し待ってくれ、と彼はいった。二人は納得しなかったが、不承不承その場は引き下がった。リュウの頑固な性格を知っていたからだ。

 さすがに通信局へ連れていけ、とはいわなかった。保安局に見つかれば拘束されて禁固刑になる可能性が高いからだ。

「ひとりで抱え込むなよ」とケインがいい、「ポートの内容、教えてくれないと許さないからね」とリーサはいった。


――その日の夜、リュウは夢を見た。

 うすい水色の上空に白い綿毛に似たものがいくつも浮かび、直視できないほど眩しく白黄色の丸い陽光がある。

 大地の遠い景色はある位置でゆらゆらと空気が揺れて見える。

 辺りは梁が剥き出しになり鉄骨や瓦礫で崩れた大地の上を、風が吹いている。

 そこここに人が血を流し倒れている。誰も息はないようでぴくりとも動かない。白い肌の人と黒い肌の人が折り重なって、どちらもうつ伏せになっている。倒れているほとんど人が黒いFの形をした機械のようなものを手にしていたり、傍に落ちている。

 瓦礫の上に立つ、黒目と黒髪の少女。短めで不揃いの髪がそよいでいる。迷彩服のあちこちに泥汚れがあり、一部は破れがある。

 白に近いペールオレンジの肌色の彼女は眉を寄せて口を開き、何かを訴えている。ひどく切実な表情で両手を広げて腕を前後に振っている。

 ある所で口の動きが、一つの単語と一致した。——たすけて。


 リュウは飛び起きた。寝汗をびっしりかいている。スマートホームで壁に浮かぶ時刻を見ると、3:27と映っている。

 スマートホームとは、家電や住宅設備を遠隔操作したり自動制御できる暮らしサポートのことで、IoT技術を利用した生活向上システムのことだ。

 彼はウォッシュルームで顔を洗って服を着替えると、工具の手入れをはじめた。もう眠れそうになかった。

 

 数時間後、アカデミーで顔を合わせてもリュウが何もいわないので、ケインとリーサはやれやれと顔を見合わせた。

「なぁ、リュウ。今日は観測ドーム行くのか」

「ん?……ああ、そうだったな。行くよ。明日は研修があるから行けないしな」

 ネレイド九区では、十六歳から十八歳までの三年間を希望者に限り、予備修学として毎週土曜日に研修を受けることができた。リュウは製造局で機械類の整備をし、ケインは保安局で主にシステムメンテナンスを、リーサは運輸局で外海からの魚の捕獲操作と運搬を研修している。

 通信局に忍び込んだとき、リュウはたびたびケインに助けられていた。これまで保安局に発覚、拘束されるまでに至っていないのも彼のおかげといえた。だが、それも時間の問題だろう。このまま侵入を繰り返していては必ずどこかの網にかかる。

 それでも、リュウは地上に興味をもち過ぎていた。どうしてもその情報を知りたかったし見たかった。なんの確証もないまま、それが旧通信局にあるはずだと信じていた。そして、それはやはりあったわけだが……。

 あの映像を観て、その先のことを彼は決めあぐねていた。どうすればいいのか。どうしたいのか。


 講義がすべて終わり、ミーナを連れて三人は観測ドームへ向かった。

 三十分ほど経ち、その日も特に変わったところは感じられなかった、とリュウたちが思っていると、ミーナのレンズ上のラインがゆっくりとオレンジ色にくるくるとプログレスインジケータをはじめた。何かを捉えて検索処理をしている。その色がやがて青に変わり解析の終了を告げた。三人は並んで彼女を見つめた。

「前回と同様の音を確認しました。結論からいうと音の正体は小型の潜水艇のようです。外殻ドームの十八メートル先を規則正しく巡航しています」

「え!」三人は異口同音に声をあげた。

「消去法で考えられることは一つ。監視艇と考えられます。三連ドームの外周から計算すると、五から八艇が縦横斜めに巡航していると予測できます」

「監視艇……」

 リュウがつぶやくと、二人も初耳の情報に首をひねるしかなかった。

 その時だった。キュッと床を踏む音が観測ドーム内に響いた。彼らは驚いて背後を振り返った。


 

 

 

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