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リュウと海底都市の物語  作者: 松本遊心


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4/7

—4

 翌日、リュウは午前中までの講義で早退した。

 ケインとリーサには、ちょっと、と濁したが、二人とも彼が何をしようとしているのか察していた。リュウの単位は全体的にぜんぜん足りていなかったが、本人はまったく気にしていなかった。

 一昨日見つけたポートが気になってしかたなかった。バッグを手にアカデミーを出るとミーナが追いかけてきた。

「また、あそこに行くの?」

「ああ、ポートの中身を見ないわけにはいかないだろ」

 ミーナは何もいわずリュウの隣を浮遊して、通信局へと急ぐ彼の速度に合わせた。


 アカデミーの北側に建つ通信局の一階の通路奥。そこに、今は使われていない〈旧通信別館〉がある。壁の塗装は剥げ、廻廊の先には照明はなく、しんと静まり返っている。その通路の最奥には、使用禁止を示す黄帯と”立入制限”の刻印が打たれた鉄扉がある。


 ミーナがビーム照射していた。白い光が扇型に辺りを照らす。リュウはしゃがむと、古びた指紋認証パネルを指でなぞった。それはとっくに壊れている。

 彼はバッグの中の工具箱から掌サイズのインパクトドライバーを取り出すと、物理バルブを固定してある六か所のビスを外した。森閑とした中、キュルキュルと高い音が反響した。さらにビス穴の外側にある四か所のナットをインパクトにソケットを取り付けて外すと、あっという間に錆びついた重いバルブ枠は外れ、リュウはその穴から手を突っ込むと慣れた様子でロックを解除して鉄扉を引いた。ギギギと軋む音がする。

 乾いた空気が頬を撫でた。壁面には古びたモニターが十数枚、蜘蛛の巣のように並んでいる。この別館には電気は通っていないので、暗闇が支配していたが、ミーナが調光を合わせて部屋を明るくしてくれている。

 リュウはバッグから携行バッテリーを取り出し、発見済みのポートにケーブルを一本ずつ接続した。低い振動音が響く。

 そして、モニターがゆっくりと白光を宿す。データフォルダを開いてエンターキーを押すと、映像が流れはじめた。食い入るようにリュウはモニターに顔を寄せた。隣でミーナも上下にゆっくり動いて視線を向けていた。


 白いワタのようなものが浮かぶ水色の背景の画面右上に、強烈なイエロー色のぼやけた丸い発光体がある。それを背にした迷彩服を着た黒髪の少女の上半身が映っている。リュウと同じくらいの年齢に見える。白に近いペールオレンジ色の顔と漆黒の黒目。何かを喋っているが音声はない。風に彼女の髪が揺れ、次第に何か窮状を訴えるように身振り手振りも交えて、カメラを構える誰かに何かを話しかけている。

 話し終えると彼女はフレームアウトした。そしてカメラもズームアウトする。

 カメラがゆっくりと左右に振って映していたのは、荒廃した瓦礫の大地。それに、人がいたるところに倒れている。彼らの誰もが手に黒い機械のようなものを握っていた。肌の色も黒に白、それと冒頭の少女のように様々だ。

 そして再び先ほどの少女が登場して口を開きかけたその時、彼女は右上を向いて目を見開くと、何かを早口でいってカメラのほうへダッシュした。映像がぶれて、どこかへ走っているのだろう、しばらく足元の土を映してたが、そのまま途切れた。


 その短い動画にリュウは言葉なく衝撃を受けていた。

 自然と自分の手を見つめる。青白い肌。毎日鏡で見る透き通るような瞳。イエローの丸い発光体。ワタ。黒い人と白い人……。

 浮遊したミーナがアームを出してそっと彼の肩に触れた。

「リュウ、そろそろ戻ろう。保安局のパケット監視が動いてる」

「今の、あれは……」

「解析不可。だけど、地上の記録映像のようだった。撮影された日時は不明だけど」

「上……?」

 ミーナはそれには答えず、繋がれたケーブルを外してリュウのバッグに戻すと、「リュウ、帰ろう。ここに長居して、よいことはなんにもないよ。さぁ」

 リュウはショック症状のまま、ミーナにぼんやりと従った。

 来たときと同じように扉を元に戻して、局員に見つからないようにしながら、右往左往してなんとか通信局をあとにした。

 家に帰ってからも彼の頭の中では、あの少女の姿が焼きついて離れなかった。

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