由来と行動
※別視点です。
「虎太郎、大丈夫ですかねぇ?」
「あら、心配?」
「そりゃそうっすよ!俺ぁもう、アイツのこたぁダチだと思ってるんで!春華さんこそ、よくあのまま送り出しましたね?」
こういう場面なら、我先にと進みそうなのに。
敢えて言わなかったソレは十二分に伝わったのだろう、春華は首を横に振って溜め息をついた。
「私がいても、足手まといだもの」
それでも進みそうだから聞いたのに。
将太はその言葉を今度こそ飲み込んで、春華の答えに深く頷いた。
将太はもともとCランクでそれほど強くはないし、春華もBランクとはいえ魔法使い、前線に出るような力があるわけではない。比べるのは難しい、が。それでも。そう、魔法だけでも。虎太郎は特殊だった。
ダンジョンが出来たと同時に覚醒者となったものは皆、すぐに自分の能力を把握した。
攻撃力や防御力があるものは戦士、知識や魔力があるものは魔法使いといった具合か。
戦士なら剣や斧など自分の特性のある武器が自然と分かっているし、魔法使いなら適正魔法が何かが理解している。
これが、10年かけて研究していたヤマダイハンターギルドおよび各国のダンジョン研究者たちの結論だった。
だから、魔法=魔力の質を見て覚えていく虎太郎は異質だった。
見ればどんな魔法も使えるというのか。それは、枠がないということなのか。
これで当の本人は魔法使いというわけではないらしいのだから、本当におかしな話だ。ついさっき攻撃魔法を知ったばかりで、基本は剣で戦うなんて。道中見る限り、腕も相当なものだった。
力も魔力もありすぎる人物なんて、他に知らない。日本にも数人Aランクがいるが、絶対それ以上の実力があるだろう。
ちなみにCランクやらBランクやらいうのは所詮人間が後からつけたものであり、戦い方や経験で上がりもするし下がりもする。そしてそれは、必ず人間が決めているのだ。
「―――とにかくあの虎太郎くんが言うんだもの、この上の階にスタンピードとやらがあるのは間違いないと思うわ」
「俺もそう思います。―――通信しますね」
「なんだったらあの人も起こしちゃっていいからね!」
「ああそうっすね!ダンジョン変異なんて初めてだし、何か分かるかもしれないっすもんね」
―――そう。
初めての、ダンジョン変異。
ダンジョンが出来て捜査して10年、未だ目立った成果は挙げられていないけれど。これで何か、何かが分かるかもしれない。手がかりが見つかるかもしれない。
ずっと追い求めていた、大介の死の原因を。
それは突然の出来事だった。
優しくて心配性の母親と、最近月の半分くらいがリモートワークになり家で過ごすことが増えた父親と。 反抗期も大分終わり、多少の憎まれ口を叩く程度で済むようになった妹と。 見事第一志望の会社に合格し今日から社会人デビューの長男、山田大介の。
どこにでもある、普通の日常だったのに。
あの日。
遠くからでもはっきりと聞こえた爆発音と共に一瞬身体が熱くなって、身体の中から湧き出る能力を何故か自然と受け入れていたとき見ていたテレビ。その内容に、釘付けになった。
そこ、今、大介も向かわなかった……?
皆で顔を合わせ頷き、ニュースを食い入るように見た。
アナウンサーが質問しているのはこの駅の駅員さんや普段から使っている人たちだった。
けれど、誰もが不思議な経験をしたと言いながらテレビに出ていたから。居るはずの場所から気がついたら移動していたとか、覚えてないとか言っていたから。だから心配せずに済んでいたのに。
たった一人、巻き込まれただろうという報道で、山田家の生活は一変した。
ヤマダイハンターギルド。
それは、もともとその名前だったわけではない。
山田大介を探すために。
覚醒者となった母親と、覚醒者ではなかったがために裏方として情報を集める父親と長女と。
同じく覚醒者でありニュースを見て駆けつけた大介の親友である金森将太の4人が始めた、山田大介捜索本部―――略してヤマダイと呼んだソレが日本初のダンジョン関係の会社となったのだ。そしてそのうちに覚醒者や携わる人達が増えていき、会社はどんどん大きくなり、今や天下のヤマダイハンターギルドと名乗っている。
けれどたとえハンターギルドなどと名乗っていようとも、覚醒者達が集まってきたから一括りにそう言っているだけで、4人の心はいつだって大介の捜索が第一だった。
(………………大介)
「私は、貴方への手がかりを得るためならどんな事でもするわ」
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