97 旅路〜公爵領
旅行日程を確認しよう。
ボールドウエッジ公爵領から魔道列車に乗り王都へ。王都ではタウンハウスに滞在。そしてアンジュ様のご実家東地域オルコット侯爵に挨拶をし、イーサン兄様の想い人のところに行く。海だよ海。アンジュ様はご実家に滞在し、僕たちはブルーゼッケン子爵領へ行く。その後少し南下してにロナウド兄様の想い人オブライエン子爵領へ行く予定だ。
父様とお祖父様がボールドウエッジ公爵領まで送ってくれるんだって。お酒となぜか五本指靴下を持っていくことが決まった。
フレッド様が大変恐縮していた。五本指靴下だけは許してくれ、頼むと呪文のように唱えていた。よほどのことだよね。
五本指靴下は受注が追いつかない状況。原因は寄親ボールドウエッジ公爵様。寄子に支給したところ、爆発的人気に。今は寄親周辺と辺境伯領周辺の受注だが、辺境伯領総出で作っている。ヒツジーゼの糸がまだまだあるので大丈夫と言っていたが、いやいや、作る人の健康面を考えてほしいことをゼーファン義兄様に伝えている。
辺境伯領は姉様の魔力とルガリオ達の祝福で作物が育ち、それを食べているヒツジーゼ、鶏、豚、牛も育ち、領民が飢えることがなくなり冬に向けての備えも蓄えることができたということだった。そして寒さ対策は快適綿でインナーを作って領民に配った。極寒の辺境伯領は過酷だ。魔獣の魔石がたくさんあるため、辺境伯から帰る時に魔力を補填し渡してある。大丈夫かな。
だから五本指靴下をこれからの冬の内職で頑張ってほしい。こうなることは予測していたけど、勢いがすごいなぁ、まだ周辺だけなんだけどねと物思いに耽っていた。
話が脱線したけど、公爵領に向けて出発だ。僕は初めて大きな都市に行く。公爵領だよ。それも魔導列車の駅がある都市。ドキドキする。馬車を騎士団が囲い、盗賊や魔獣対策をしているんだ。
馬車はもちろん新型馬車。振動が少なくて快適快適。お尻が痛くなーい。
「イーサン兄様、ロナウド兄様、僕、魔道列車に乗るのが初めてで、ドキドキしています。どんな乗り物なんだろう?公爵領も大きいのですよね?楽しみです」
SLのようなものか?どんな形をしているのだろう。楽しみだ。
「ケビン、そうだよな。初めての魔道列車はびっくりするぞ。大きいのだ。タウンハウスの執事やメイド達はケビンが来るのを楽しみにしていたよ。タウンハウスの料理長がやる気になっているんだよ。領地の料理人トーマスとランドルが一緒に行くことになっただろう。だから本場の味が確認できるって楽しみにしているんだよ。レシピ通りだとしても味が再現できていないんだ。だからケビンが来ることを喜んでいるんだよ」
「そうなんだ、みんなで一緒に作って食べたいですね。楽しみだな」
今日は公爵邸に泊まることになった。いきなり公爵様だよ。僕のマナー大丈夫か?
「兄様達、僕、マナーが心配です。公爵様ですよ。失礼な態度を取ったら打首ですか?」
「ケビン、なんだよ、打首って?フレッド様が言うには、厳格な人。お兄さまのステファン様も真面目な方ということだ。フレッド様がまぁ気さくな感じだけどな。奥様も気さくな方でフレッド様は奥様に似たんだろうな。フレッド様がいるから大丈夫じゃないかな」
「でも、フレッド様って実家でいつも怒られていそうな気がするのですが」
「ケビン、言い過ぎだ。そうかもしれないがその言葉はグッと心にしまっておくのだ、わかったな」
「はい、イーサン兄様」
うわー、公爵領に入った。街にいっぱい家がある。人がいる。ここにいる人数はうちの領地の人数に匹敵するのではないか?
何だこの屋敷。これが公爵様の屋敷。うちの屋敷の五倍はありそう。うちは三階建てだけど、五階建てで横に広い。いったい家族は何人住んでいるのだろうか?三世代家族プラス親戚がみんな住んでいるのだろうか?
「イーサン兄様、ここに親戚も一緒に住んでいるのですか?大きい屋敷ですよね」
「ケビン、ここは公爵様の家族しか住んでいないよ。他は執事、メイドで、晩餐会などをするからその宿泊の来客用だよ」
「ほえー、来客の宿泊用」
「私たちも今日はそこに泊まらせてもらえるんだよ。俺たちも初めてだからドキドキするよ」
「兄様達と同じ部屋ならいいなぁ」
「そうだな、3人一緒の部屋が楽しそうでいいよな。そうだ、ケビン、お前、子供のふりをしろ?違う、子供らしくしておくのだよ。みんなにも言っておいた。ケビンは子供らしく振る舞うって」
馬車を降りてびっくり。両左右に執事メイドがお出迎え。すごい数。これが公爵様の権力の証か!おおー。
「ようこそ、ボールドウエッジへ。当主のライアン ロード ボールドウエッジだ。疲れたであろう、中に入るようにお茶をしよう。ロイド、ルーク、お疲れ様。さぁ、中に入ろう」
みんなで中に入り応接室に入った。そこまでのホールや廊下など、調度品が並び壊したらやばそうなものがいっぱいあった。近寄らないほうが賢明だ。みんなの後をトボトボと歩く。
フレッド様が心配してか話しかけてくれた。
「ケビン、大丈夫か?疲れただろう。夕食前にゆっくりできる時間があるからね」
「フレッド様、ありがとうございます。それにしても壊したらうちが破産しそうな調度品ばかりですね。こわいです。よくこんなところに住めますね。僕は生きた心地がしません。僕はこの廊下の真ん中しか歩きません。誰かとすれ違うときは絶対この真ん中を退きませんのでよろしくお願いします」
周りから笑いを殺したような声が聞こえるぞ。でも見渡すとみんなすまし顔。うーん。
「プフッ、ほらケビン行くぞ」
フレッド様に手を繋がれて歩く俺。子供らしい。
おお、こりゃまたすごい部屋だ。何だ、あの甲冑。夜中に動くやつだな。絵画もすごいな。
「ケビン、キョロキョロしない、落ち着きなさい」
「ごめんなさい、父しゃま」
あっ噛んだ。とうしゃまと言ってしまった。恥ずかしい。
みんなニコニコだ。席についた。僕は父様とお祖父様の間にちょこんと座っている。僕、ここでいいのか?なんか違うのではないか?
「フレッド、2日ぶりだな。相変わらず忙しいか?」
「はい、充実した日々を過ごしてます」
「ロイド、ルーク、手紙でも話したが精霊様がここに来た。この部屋は最小限の信用出来る者しかいないから安心してほしい。」
「えっ?」
いきなり何の話。ルガリオ達何やってんだよ。ここにお菓子もらいに来てるのか?なんで?
「ふふふ、ケビンくん、びっくりしているね。精霊様達から君のことを聞いているよ」
ルガリオ達、個人情報ダダ漏れは困るんだけど。何を聞いているのだろう。
「父上、ケビンが困ってます。ケビンはまだ幼いんですからね。父上のような怖い顔の大人を見たら怖がってしまいますよ」
おっ、フレッド様いい回答だ。僕は怖がっていればいいのか?
「すみません、精霊様から何を聞いているかわかりませんが、僕はただの子供です」
ん?ただの子供は変だな。自分で言って変だと思って首を傾げてしまった。
「あははは、ケビンくん、ただの子供って子供は言わないと思うぞ」
「は、はい。すみません」
どうしたらいいんだ?子供をするんだ。もうしゃべらない方が得策だ。あとは父様にお任せ。お茶飲もう。はぁ。お菓子食べていればしゃべらなくていいな。
お菓子をもぐもぐしていた。していたんだよ。
「ずるーい、ケビン。お菓子食べている」
あー、来ちゃったよ。
「何で来るんだよ、ルガリオ達!」




