96 その頃ボールドウエッジ公爵家、一大事
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次男フレッドがなぜか寄子のフォーゲリア伯爵家に行ってしまった。きっかけは献上品を持ってきたことから始まった。農作物が育ちにくい土地で、今まで税金の特措を行なっていたが、税金の見直しに伺いたいと連絡が来た。
ルークと王女殿下のメルシー様の結婚は一波乱があったのだ。メルシー様は魔法属性がない王族だったためか、貴族どもが冷遇しおってからに。国王の側近のボロレス公爵め、あいつとあいつの派閥が一番メルシー様を蔑ろにしておった。あやつは魔法属性上位主義。特に自身の属性、火魔法を特別視しておる。国王もあの宰相に頭が上がらないので何も言わんかったのだ。愛する王妃様が下級貴族出身でポロレス公爵が後ろ盾になったおかげで結婚できた恩ということもあるのはわかる。しかし親として盾になってやればいいものを。結婚の時も頼るなと別離宣言のようなものだった。その後もメルシー様にお子様が産まれても、お互い歩み寄りはなかった。王太子殿下の子や第二王子殿下、さらにはメルシー様の姉、第一王女殿下が降嫁されたにも関わらず、そちらのお子様にはお祝いや王城でお会いになられていた。救いはメルシー様のお祖父様、お祖母様、先代国王陛下、王妃様やご兄弟達は秘密裏にお祝いや手紙を送っていたが、どうして国王陛下はポロレス公爵の顔色を窺っていて、メルシー様に歩み寄ろうとしない。
私はフォーゲリア伯爵領の寄親として二人を支援した。あそこの土地は昔から農作物が育ちにくい土地。細々と農作業をし、あとは魔獣を討伐し、肉を食し、素材を売って生計を立てていた。先代当主ロイドとは旧知の仲だ。それにあいつは私を庇って怪我を負った。だから騎士として早々と引退し、伯爵領に籠ってしまった。騎士として優秀なやつだったのに。
そいつが元気に公爵領にやってきた。初めて見る大量の酒と新型馬車を持ってきた。何だこれ?この酒は何だ?馬が引いているので馬車だよな?
ロイド、お前なんで元気に動けるのだ?右腕に何でそんな重たそうなものを担いでいられるのだ?お前の右手は字をかろうじてかける力しかなかっただろう?
そこからだ、不思議なことが起こり始めたのは。
フレッドは度々帰ってくるが、あのうまい酒など持ってこない。公爵だからって融通なんてしない、自分で買えと言う。ひどい子だ。親を労う気持ちでポケットマネーで買ってこいと言いたい!
フレッドが来た後、しばらくすると、小さな光が見えた。目で追っているといきなりそれは出てきた。
「フレッドと同じ魔力を感じる。優しい魔力だ。じっちゃま、だれ?」
フヨフヨと飛んでいる小さい人?いや、君たちが誰?たぞ。フレッドを知っているのか?
「お菓子ある?フレッドはいつもくれるんだよ」
「す、すまんすまん、お菓子か?今持ってくるよ」
それから急いでたくさんのお菓子を用意して一緒にテーブルで食べた。長男のステファンを呼んだ。
「そ、その君たちは誰なんだ?息子のフレッドを知っているのか?」
「僕は土精霊、こっちは水精霊、火精霊、風精霊、海精霊だよ。いつもはフォーゲリア領に住んでいるんだ!」
ガタッ、精霊様だと!
「大変失礼いたしました、精霊様。私、この地を納めておりますライアン ロード ボールドウエッジと申します。これがフレッドのあに、ステファンにございます」
「精霊様、ステファン ロード レイルズ ボールドウエッジと申します」
「うん、フレッドが時々ここに来ているから、僕たち遊びに来てみたんだ。そしたらね、ケビンが喜びそうな植物があったんだ。ケビンが美味しいお菓子を作ってくれる植物なんだよ!もらっていい?」
ケビンくんとはルークとメルシー様の三男だったな。
「ケビンくんが喜びそうなものがあるのか?」
「そうだよ、じっちゃま、フレッドの兄様、森の奥にある硬い実があるでしょう?いっぱい身をつけているやつ」
「あぁ、あの硬くてまずい実か。ケビンくんは喜んでくれるのか?」
「うん、大喜びするよ」
「持っていっていいよ。それと、そうだな、手紙をルークとフレッドに渡してくれるならいいよ」
「わーい、ありがとう。実をいっぱい取っていい?」
「ああ、あれは刈っても刈ってもしぶとく生えてくる植物だ。全部とってもまた実をつけるだろう」
「ありがとう、じゃあ手紙も持っていくね」
何と言うことだ、精霊様が住んでいるのか。だから特措を辞退し、税を納めたいと言ってきたのか。
まさかこんなことがあるなんて。
「じっちゃま、じっちゃまと兄様は良い魔力を感じるんだ。悪い魔力の人には僕たちは近づかないよ。助けもしない。ケビンの領地は暖かいんだ。だから一緒に生活しているの。フレッドも口うるさいけど、良い魔力だよ」
「あははは、フレッドは口うるさいのか?」
「そうなんだよ、僕たちがお菓子を食べ過ぎているとか、ボロボロお菓子を落とすとか、遊んだら片付けるようにとか、やたらと金の粉を振り撒かないこととかうるさいんだよ。奥さんのアンジュはね、一緒に片付けてくれるんだよ。優しいよね」
「あのフレッドがうるさいのか?あいつこそ、ここでは逆に小言を言われていたやつなんだよ」
「そうなんだぁ。フレッドはいっぱい働いているよ。ケビンにこき使われているよ。ププ。ねぇ、こき使われているよね?」
「うんうん、この前は5本指靴下の要望が多くて、あっちこっち走り回っていたよ。大変だよね」
「「「ねぇー」」」
五本指ソックス?何だそれは?献上品の中にあったか?
「父上、確か献上品の中にありましたよ。父上は何だこの靴下はと言って見向きもしなかったものですよ」
「あれかー。なぜあれが人気なんだ?」
「せ、精霊様、何か知っていらっしゃいますか?」
「うーん、水の虫?何だろうね。水に虫がいるのかな、それは普通にいるよね。水の虫、それに効くの?よくわかんなーい」
ステファンが失礼しますと精霊様に挨拶し部屋を出ていった。水の虫とはあれか!まさかあの靴下が効くのか?
「フレッドは元気に仕事してますか。役に立ってますか」
「フレッドはね、いつもアンジュに愚痴を言って、アンジュのお膝でいい子いい子されているよ」
「「ブフッ」」
ステファン、戻ってきていたのか、隣にまた座って精霊様と話を続けた。
「あとね、フレッドというかみんなだけど、温泉好きだから、いつも温泉に入っているんだよ。疲れが癒やされるって。休暇の日にはサウナに入って、ケビンのじっちゃんと我慢比べしているよ。この火精霊が楽しくて余計熱くするから、サウナが熱すぎるんだよ。ドワーフのじっちゃん達と火精霊は仲良しだから、何か作る時いつも火精霊は呼ばれていくんだよ。僕たちは植物達と仲良し。風精霊と水精霊達と一緒にふわふわしているんだよ」
なんじゃ、おんせん?さうな?フレッド、お前楽しそうだな。
時々来るようになった精霊様達におやつやご飯をあげる日々になってしもうた。可愛いぞ。
今度はケビンくんが王都と東地域と南地域に旅行に行くためにここボールドウエッジに滞在することになった。会うのが楽しみじゃ。
ここまで見送りにロイドとルークが来るらしい。その時いろいろ聞くか。ケビンくんとはどういう子なのだろうか?楽しみじゃ。




