92 日常そして会議
日常が戻ってきた。
毎朝、みんなでラジオ体操、体感トレーニング、剣術をする。
そうそう、イーサン兄様がやっと引き継ぎが終わり帰ってきたが、入れ替わりにクラウディア姉様達が帰ってしまう。
「「姉様、うぅぅぅ」」
抱きついて泣いていた僕とジュリ。
「まぁまぁこの子達は、また会いにくるわ。こんな快適な馬車を作ってもらったのだから。それにあなた達も辺境に遊びにきてね」
「ゼーファン殿、クラウディアのことを頼みます」
「義父上、ええ、クラウディアを幸せにします」
クラウディア姉様はルーナを抱きしめ、母様に抱きしめられ、そして帰路についた。
姉様が帰ってしまった。寂しい。しかし余韻に浸る間もないのがこの領地。
イーサン兄様は学園時代の恩師ドバイン様を連れて戻ってきた。
ドバイン様は高齢というほどでもないが、退職を迫られたので退職して、うちの領地にご夫妻でやってきた。
「初めまして、ケビンと申します。よろしくお願いいたします。」
ぺこりと可愛くお辞儀をしたよ。
「おお、可愛い子だな。しかし君が色々魔道具を考える子か!ワシともいっぱい話をしよう。話をしながら、新たな魔道具を思いつくことが多々あるからな。よろしく頼むよ。それと妻のカエラだ。カエラは錬金士だ。ケビン君も錬金をするのだろう。色々頼むよ」
「こちらこそお願いします。ところで、うちの領地に移り住んでいただけるということですか?それでしたら家族寮を作ります。どのタイプがいいですか?」
「ん?家族寮?街に家を借りようかと思っていたのだが、家族寮?というものがあるのか?」
「これから作ります。奥様のカエラ様の意見を取り入れて作っていこうと思います」
工房の近くに庭付きの一軒家を建てた。庭にはバラやトピアリーで庭を作った。フレッド様の家もバラとトピアリー付き。
「嫌でしたらいつでも変えますので言ってください」
「これが家族寮?イーサン、待遇が良すぎるよ、これは」
ご夫婦でびっくりして家を見ていた。バラのアーチもあるよ。外にテーブルなど置けば、ゆっくりお茶できるよね。ゆったりと余生を送れるように志向を凝らした。
「先生、えーとこれは従業員特典の一部なのです。まだありますし、びっくりされることもあります」
兄様が目配せしてきたので、ルガリオ達を呼んだ。
「おーい、みんないる?紹介したい人がいるんだ」
「なぁに?今日はねぇ、火と風と海みんな来て遊んでいるの」
「ケビン、海の幸持ってきたからね。お土産いっぱいちょうだいね。長老がお酒もーと言っていたよ」
海精霊達は遊びに来るたびに海鮮を持ってきてくれる。引き換えにお酒を渡す無限ループに突入していた。海の幸がもらえるのは嬉しいからいいのだ!
「と、いうことで紹介いたします。整列!土精霊のルガリオ、ロッソ、ベルリ、ターナ、ルン、アメジ、ラッテ、タール、ティール、トールです。こちらが水精霊のルッツ、トロン、ランバ、アンと最近上位精霊になったパットとアオンです。こちらが海精霊のウルンとウルルンです。最近ウルンとウルルンが遊びにきてくれるのです。火と風精霊達も遊びに来てくれています。精霊達が遊びに来ますのでびっくりしないでくださいね。お菓子を催促されるので渡してください。お願いします」
みんなで敬礼をしていた。どこで覚えて来たんだ?ビシッと決まってかっこいいよ。ドバイン様とカエラ様は目を見開いて精霊達を見ていた。
「せ、精霊様?え?精霊様がいらっしゃるのか?まさか!」
そして片膝をつけてお辞儀をした。カエラ様はカーテシー。
「精霊様、ドバインと申します。こちらが妻のカエラです」
「みんな、畏まらないでよ。よろしくね」
そして自由人。どこかに行ってしまった。また厨房かな?
「イーサン、精霊様がいらっしゃるのか。すごいな。もしかしたらここを拠点にこの国に精霊様達が戻ってくださる可能性があるな。いい土地だ。だから精霊様達ものびのびしているのだな」
ルガリオ達を紹介した後からドバイン様達にも精霊が見えたようだ。
「ここはとても良いところね。ここにきてよかったわ。温泉もあるし、さぁ、ケビンちゃん、化粧品を作りますわよ。もっと肌を良くする石鹸や香水を考えましょう。メルシー様とメメル様、アンジュ様も呼ばないといけないわね」
女性陣だけで話し合って欲しい。ハーレム状態のように見えるが違うんだ、ご婦人だけなんだよ。なぜだ!
「いや、儂らと話をしよう。どう言った物がこれから必要なのか話し合いをしよう」
そこは男性陣ばかりなんだよ。それも魔道具に対して熱い語らいをして白熱するんだ。それも夜。俺は途中眠くなって、結局イーサン兄様にベッドに運んでもらう羽目になるんだ。
そして連行されるのは執務室。父様、ロナウド兄様、ルーアン、ブラッド、そして寄親の公爵家次男フレッド様、元宰相ウェルス様が待っていた。
「すみません、遅くなりました。商会の運営についての話ですね」
ここでも紹介しよう。寄親公爵家次男フレッド様。献上品に興味があり、母様達についてこの領地に移り住んできた人だ。奥様のアンジュ様も一緒だ。そして、元宰相というものすごい経歴のウェルス様。ドバイン様の紹介だ。フレッド様は商会の方、ウェルス様は執務補佐。全部お任せして良いですか?
「父様、これだけのメンツがいるので、僕はもう子供に戻って良いのではないですか?子供はのびのび領地を駆け巡っていた方がいいと思うのです。あー、いい天気だなあ。また外で散歩でもしたいなぁ。虫取りしたいなぁ」
「ケビン、バカなことを言っていないで始めるよ。ロナウドの商会を開業するにあたって、始めどの商品を目玉に持っていくかということだ」
完全にスルーされてしまった。ムムッ!ここを拠点に王都に進出することを想定して話を進めていく会議なのだ。
父様、お祖父様がお酒部門、母様とお祖母様が美容部門、魔道具や玩具全般をフレッド様、そして会計や契約書などが僕とウェルス様。領内全般の執務が俺、その事務官がブラッド、ロナウドは営業周りと交渉契約担当となる。
「父様、おかしいです。なぜ僕が領内全般と商会の会計、契約関連なんですか?僕、過労死しちゃうかもしれないですよ」
「大丈夫だ!ケビン、ウェルス様が補佐してくれる。そして全体的に把握をしておけば領地経営もスムーズにいくと思うのだ」
「ロナウド兄様の商会なのだから会計などやってください」
「ごめんな、ケビン。お前にお金管理をさせた方が一番安心というのがみんなの総意なんだよ。計算早いし、細かいし」
細かいは失礼な!銀行では一円でも合わないと残業だと友人が言っていたのだぞ。今はわからないが。
「まぁまぁ、ケビン君。私達も一緒に行っていくのでケビン君一人に負担はないようにするよ、なぁブラッド」
ブラッドも神妙な面持ちで頷いていた。自分の役割を再確認しているようだ。
「ケビン君、魔道具は全部出さないで小出しで販売していくのだろう?」
「フレッド様、色々考えているのですが、体験型施設を作って、体験して、購入してもらおうかと思ったのです。多分みんな初めての物ばかりだと思うので買ってみて、結局使えないじゃないか!と苦情が来ないようにしたいです」
みんな、ポカンとした顔で見つめてくる。
「ケビン、その初めて聞くことなんだが、体験型施設?」
ロナウド兄様、初めて言ったことだから当たり前です!
「すべて完備されたお泊まり型施設と魔道具や売り出すものが体験できる施設です」
「「「泊まりの施設???」」」
「そうです。寝具、家具類から調理、お風呂まで全て取り揃えた施設です。そうすれば全部買いたいと思うかもしれないじゃないですか。金持ち貴族のお金を搾取すること、それが狙いです!」
お祖父様、ウェルス様とフレッド様が大笑いしている。金持ち貴族のお金を搾取するというところがウケたらしい。
「そうだな、金持ち貴族から搾取、いいな。うちの公爵家に献上なんてしなくていいんだよ。買わせろ!今度俺が言うよ、買いなさいって。俺がここにくる時、俺を通して買えるとは思うなと言ってきたから大丈夫。俺に言ってきても拒否するし、並んで買えと言うから安心してくれていい」
「ありがとうございます、フレッド様。ここからが相談なのですが」
ここからが相談?今から相談なのか?みんな不思議がっている。
「おほん、顧客名簿と共にメンバーズカードを作り、アフターサービス、えっと、故障や修理などを割引価格で行うことやポイントをつけて貯まったら景品がもらえる、新製品展示会に招待するということをしたいのです。転売予防にもなります。転売で大量購入してもいいですが、転売されたものはメンバーズカードがないので、それは対象外となるわけです。転売で購入したということがわかりますし、どうでしょうか?」
「転売で購入した人がわかるな。そして魔道具の新製品が出る前に展示会をするのか。それもいいな」
フレッド様はロナウド兄様と同じタイプだ。商人気質。近衛騎士を経て、公爵領の騎士をしていたが、商売をしたいと常々思っていたということだ。うちが商売をすることを聞き、商品を見て渡りに船と思いすぐ行動に移した、と言っていた。奥様のアンジュ様も行動力ある人だな。普通の貴族令嬢なら無理かもしれないが、アンジュ様は女性騎士。どこまでもフレッド様について行く気骨のある女性。愛されているなぁ。
「魔道具の他にも玩具だったり、ゆくゆくはデザート関連のお店を作りたいのでその試食会でもいいです」
「確かにここのデザートは美味い。これを王都で出したら連日長蛇の列だと思うよ。それほどのものだ」
「私はあのしょっぱいせんべい?がうまい。お茶によく合うよ。のりのついた団子は絶品だ」
フレッド様とウェルス様は王都に長くいたので相場がわかる。僕たちだけでは王都進出は無理だったと思う。僕は王都には行きたくないけどね。
「王都に進出する時との店はメメルさんのご実家だと聞いたが、王都のどの辺りなんだ?」
ここからはロナウド兄様にお任せ。僕は、ふんふん聞いているだけでいい。
「なるほど、メメルさんの兄上を店長か。真面目に経営をしていたが、ある時から経営不振に陥ってしまったのだな。あの伯爵の第三夫人の商会がきな臭い。そこだけはうちの公爵家が後ろ盾いることを全面に掲げよう。使えるものは使おう」
ドバイン様、ウェルス様、フレッド様がいて心強い。弱小伯爵では弱いんだ。本当にありがたい。




