91 精霊様と収穫祭
精霊様が来る日が急に決まった。なぜなら新酒ができてしまったからだ。出来てすぐ来なくてもいいのに、新酒ができたことを感じ取ったのか?恐ろしいぞ。酒蔵に目がついているのではないか?違う、スパイがいるのか。常に見張っている精霊が。
俺たちは慌ただしく、大量のお菓子とご飯とお酒を用意した。新酒の出来を長老様達に評価してもらわないとかいけない。その評価結果によりランクが決められることになったのだ。精霊印のお酒。一般の人は精霊様がお墨付きなんて知らないだろうし、うまさのランク付けを長老達ががしているなんて思いもしないだろう。ただ、その評価値は本当のところよくわからない長老達の基準だからだ。ただの飲んだくれなのに、何が評価だ!
多分お祖父様達も一緒に飲むのだろう。もう宴会でいいのではないか?そうだ、新酒ができたことと、収穫祭を兼ねて大宴会でいいかもしれない。
急ぎ領内に伝令し、それをルーアンとトリニティに頼み、馬車を用意してみんなを広場に集合させた。テーブルや椅子を作りまくった。騎士団、魔導士団、魔道具士、使えるものは誰でも使った。総出で準備をした。お疲れ様、みんな。
「ケビン、ここまでやるのか、お前は。本当に行動力があってえらいぞ。その行動力を剣術や狩りの方へ向かないか」
首を振り、まったく向きませんと豪語した。
「みんなで楽しく飲み食いしましょう!新酒やねかせてあるお酒で飲みましょう」
領民も精霊様達のことを何となく気づいているので無礼講だ。
でも、最初の儀式はあった。領民達は平伏。今回は領民もみんな一緒。涙を流す人もいた。カオス!
「ようこそフォーゲリア領地にお越しくださいました。当主を務めております、ルーク ランザルド フォーゲリアと申します」
「父様、良い良い、そんな堅苦しい挨拶は良い。こやつらを紹介しよう。海精霊長老、火精霊長老、風精霊長老、森精霊長老、山精霊長老だ。他にまぁいるな。すまんな、こんな大所帯になってしもうて。海のもの、お土産を持ってきたのじゃろ、渡して料理を作って貰えばいい」
おいおい、絶対俺が捌かなければいけないような気がしてきた。やだな、めんどくさいなぁ。
「ケビン、大丈夫だぞ、捌くのと砂抜き、毒取りはこちらがするから大丈夫じゃ」
海精霊の長老様に心を読まれた。
「すみません、海精霊の長老様。めんどくさかったのでありがたいです」
パコっ、両左右から叩かれてしまった。兄様達ごめんなさい。
「おほん、海精霊様、息子が失礼いたしました。どうぞ、新酒が出来上がりましたのでお召し上がりください」
「「「「おぉーー」」」」
「精霊様。我が領民も一緒に収穫の恩恵にあやがってよろしいでしょうか」
「みんなで一緒に楽しもう」
土精霊のは長老の一言で、精霊達がみんな舞って光り輝いていた。
「「「「「うぉーーー」」」」
領民達も大盛り上がり。そこからは飲めや歌えやだ。
俺は厨房で海精霊達と魚や貝などを吟味した。
「すごいや。みんなすごい魚だよ」
海精霊達がコクコク、シンクロして頷いている。可愛い。
オリーブオイルを使ってアヒージョだ。にんにくをガツンと入れる。
ブイヤベース、パエリア、シーフードグラタン、白身魚のフライ、タルタルソース付き、シーフードピザ、シーフードパスタ。大きなエビとカニは茹でて食べよう。今日でなくなるよね、この材料。
「料理長、副料理長、そしてみんな食べに行っていいよ」
「新しい料理を作るのに、飲んでいられません。ワクワクしてきます。海のものを調理なんて王宮ぐらい、王宮でも料理の種類はないですよ」
トーマスとランドル兄弟は本当に料理が好きなんだね。うちの料理人は向上心があり、楽しく料理をしている。
「料理長、明日の朝はみんな二日酔いだろうから、ポーションと味噌汁を作ろう。胃に優しいんだよ」
そして山盛りにしたフライやパスタ、グラタンも大皿で取り分け式にした。料理人の分も取っておこう。みんな一緒だよ。
それから次から次へと催促の嵐。調理場も嵐。
鰤の照り焼き、白身魚のカレー風味、塩胡椒、ガーリックバター風味、だんだん面倒になってきたのでお腹にガツンと溜まるフィッシュバーガー、照り焼きチキンバーガー、ライスバーガーなど穀物類と一緒に出す。
もう、みんなお腹いっぱいになってくれ、頼む。外は笑い声が飛び交っている。
しばらくすると食べる方はやっと落ち着いたのかな。
「やっと、ゆっくりできますね。はぁ、幸せでした。新しい料理ができる至福の喜び」
料理人達がみんな頷いていた。
「みんなで食べようよ。外に行く?それともここで食べる?」
「外は多分なくなっていますよ」
「みんなの分を取っておいたから大丈夫だよ。ほら」
テーブルと料理を出して、みんなで食べあった。みんなうまいうまいと食べている。
「ケビン様、ありがとうございます。お酒はちびちび夜飲みます。あとは休暇の時に飲みたいと思います」
「そうだよ、みんなきちんと休暇取ってね。週休2日制なんだから、暇だからと厨房に来ないように!」
「いや、あの心配で。単身寮の食堂ができたのでついつい様子を見に行ってしまうのです。しかしケビン様、ひどいです。新たにそこでオムライス?と言うものを作ったと聞いています。我々も食べたいです。どうやって作るのですか?」
料理人の目が怖いよ。あれはメメル様とクラウディア姉様と母様が朝昼兼用がいいと言ったので、スープ、サラダ、オムライスそしてデザートを作って出したんだ。すでにバレていた。
「みんなまだ食べられる?みんなで分け合えばそんなに量は多くないかな」
そしてケチャップライスはオニオンと鶏肉を入れ、ふわふわたまごと薄いたまごの食べ比べをした。
「美味しいです。子供達に人気が出そうですね」
「そうだね、お子様ランチなんていいよね」
「お子様ランチとは何ですか!」
口が滑った。子供が好きなものをワンプレートにして出す料理。
「今度、ジュリアス坊っちゃまとケビン様に出します」
「少し量を多くするとレディースセットで女性にもいいかもね」
そこにルガリオ達がやってきて、ずるいずるいと料理の催促が始まった。まだ食べるの?ごめん、みんな。いつも料理人達はルガリオ達におやつやご飯をねだられているから、慣れてしまっているんだよ。
「じっちゃん達もこれが欲しいって、何でわかるんだよ!」
ルガリオ、絶対スパイがいるよ。君たちにもわからない精霊の隠密がいるんだよ。今度よく目を凝らして、気配を察知しよう。
結局、料理人達は料理をしましたとさ。いつもありがとう。




