82 面談1
工房は面接会場になっていた。単身の人、家族を伴って来ている人もいる。
子供達は飽きてしまうので、子供がいる人を先に面談してしまおう。
「今から面談を行います。昨日お渡しした履歴書を出してください。それに伴い面談をしていきます。それではこちらの方からお願いします」
緊張しまくりの家族が来た。
「こちらに単身で出稼ぎに来ていましたが、家族を呼び寄せました。家族一緒に住めるということが嬉しいです」
1組目にして、泣かれてしまった。イーサン兄様、なんとかして。
「レッド、泣くな。話が進まない。これから今後の雇用の話と家族で住む家の話をしなければいけない。泣き止んでくれ」
「も、申し訳ございません。このような機会を設けていただきありがとうございます。昨日と本日配られた雇用契約書に合意します」
何にも説明してないのですが、合意でいいのか?一応説明をさせて。
それから一戸建ての家族寮を説明した。街に行きたい時は貸し馬車。
「ここはなぜこんな高待遇なのですか?給料も他より高いです。お酒も飲めるなんて私はありがたいです」
「そのうち学校も考えているので子供の将来を一緒に支えていきましょう」
みんなが一斉に僕を見る。何か変なこと言ったかな?
「ケビン、学校ってなんだ?聞いていないけど」
あれ?そうだ、父様に後で相談すると言っていて、辺境にすぐ連れて行かれたんだった。
「だいぶ前に父様に相談しようとしていた案件なのですがあの時いろいろ大変なことがあって、相談忘れてました。学校をこの領地に作って、学力と技術の底上げを考えていたのです。専門学校みたいなものを作れば技術の継承になっていいかなと思っていたのです」
「ケビン、そういう大事なことは早く言ってくれ!教師の確保もしなければならないだろう」
「イーサン兄様忘れていてすみません」
大事なことを忘れていた。学校だよ。イーサン兄様やロナウド兄様が頭を抱えてしまった。
「あ、あの、この子を学校に行かせていただけるのですか?私は恵まれており、読み書きや計算は以前の工房主に教わりました。ですが、読み書きができない職人が多いのが現状です。この子の将来に大事な読み書きを教えていただけるなんてありがたいです」
感謝されまくって一組目の面談が終了した。その後も同じだった。
「ランドルフ、来たな」
「ああ、イーサン、なんだかみんな泣いていたぞ。その光景を見てみんなザワザワしていたよ。神だという家族もいたぞ」
「あははは、俺たちも1組目の家族との面談でケビンから初めて聞いたよ。こいつは本当に報連相がダメなんだ。やってから報告、作ってから報告、決まってから報告。そんな感じだ」
「楽しい弟だな。振り回されそうだけど」
「「「そのとおり!!!」」」
ゼーファン義兄様まで言っているよ。
「ゼーファン義兄様を振り回した記憶はないのですが、はて?」
「辺境伯領内全域で振り回されているよ。今、父上が対応しているのではないか。私はクラウディアと離れたくなかったからこちらに来たのだ、あははは」
「ふふふふ、ブラッドを紹介したいよ」
「あぁ、あいつ今どうしているんだ?確か寄親の侯爵の事務官になったはずだが?」
「閉鎖的な職場だから辞めたと聞いた。今は伯爵領で父親と兄の手伝いをしていると言っていた。私がここに来る前に一緒に行かないか?と誘ったが、魔道具は製作できないから無理と言っていた。でもあいつここなら事務官できそうだよな」
「俺の方からも手紙を書いておくよ。うちの弟のお守りを頼むか。すぐ出すよ」
そう言って魔鳥で手紙を出しに行った。魔鳥は本当に便利だな。その間にランドルフ様のお母様の話を聞いた。
ランドルフ様のお母様は商家の娘だったが、ランドルフ様の父、伯爵様に見初められ第二夫人となる。ランドルフ様が生まれると第三夫人ができ、そちらに夢中になったということだ。ランドルフ様は第二子男子、嫡男のスペアとして扱われていたが第三夫人に男の子が生まれるとそちらがスペアになったということだった。だからいてもいなくてもいい存在だから、爵位全て捨ててきたということだ。
「ランドルフ様のお母様、ピアノと刺繍などが得意と伺い、また、今仕事をお探しと伺いました。こちらの刺繍や編み物に興味がありますか?あと、こちらの楽譜をお渡しします。弾けますか?」
僕は徐に楽譜と刺繍や編み物をだした。
「これは知らない楽曲ですがどうされたのですか?」
「あー、それは置いておいて弾いてみたいですか?」
「それはぜひ弾いてみたいです。ずっと伯爵家では弾けずにいたのでいっぱい弾いてみたいです」
僕はマジックバッグからピアノを取り出して、調律してランドルフ様のお母様に弾くよう促した。周りのみんなはかなりびっくりしていた。マジックバッグからピアノを出すなよと兄様達に怒られた。
「どうぞ、試しに弾いてください。できればこの曲を弾いてほしいですが、興味ある曲を弾いてください」
「では、この曲を弾いてみたいです。楽譜を見て、全ていい曲だと思ったのですが、この曲調が好きです」
リストの愛の夢ですか、いいですよね。でも、一度楽譜を見ただけで弾けるなんて、音楽家のスキル持ちですか?
次がリストのラ・カンパネラですか。すごいな完璧。
この会場にいたみんなスタンディングオベーション。"ブラボー"だよ。
「素晴らしい演奏でした。一度見ただけでこれだけ素晴らしい演奏ができるなんて、すごいです。いい演奏をありがとうございます」
「とんでもございません。私はこんな素晴らしい楽曲聞いたことがないです。弾いていて気持ちが昂り余計気持ちが入ってしまいましたわ。こちらこそありがとうございます」
「母上、素晴らしい演奏でした。こんなに素晴らしい腕前を持っていたなんて、もっといろいろな曲が聴きたいです」
「では、ランドルフ様のお母様も採用でお願いします。あとお二方の家をこちらで選んでください」
「はい?選ぶとは?」
模型を示して、どんな家が良いか確認した。
「このような家まで?高待遇すぎませんか?」
「いえ、気持ちよく働いてもらうための従業員特典ですので、大丈夫です。基本中の基本です」
呆れているイーサン兄様、感心しているゼーファン義兄様、考え込んでいるロナウド兄様、ランドルフ親子は信じられないと不信がっていた。信じてちょうだい。
家族がいる人の面談は終わった。今度は単身者の面談だ。




